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1. WO2020158285 - ÉLÉMENT PRESSÉ À CHAUD, FEUILLE D'ACIER LAMINÉE À FROID POUR ÉLÉMENT PRESSÉ À CHAUD, ET PROCÉDÉS RESPECTIFS POUR FABRIQUER CES PRODUITS

Document

明 細 書

発明の名称 熱間プレス部材、熱間プレス部材用冷延鋼板、およびそれらの製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007   0008  

課題を解決するための手段

0009   0010   0011   0012  

発明の効果

0013  

発明を実施するための形態

0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068  

実施例

0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091  

産業上の利用可能性

0092  

請求の範囲

1   2   3   4  

明 細 書

発明の名称 : 熱間プレス部材、熱間プレス部材用冷延鋼板、およびそれらの製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、自動車分野で使用される熱間プレス部材およびその製造方法、ならびに熱間プレス部材用冷延鋼板とその製造方法に関し、特に熱間プレス部材について、プロジェクション溶接後の耐遅れ破壊特性の向上を図ろうとするものである。

背景技術

[0002]
 近年、環境問題の高まりからCO 排出規制が厳格化しており、自動車分野においては燃費向上に向けた車体の軽量化が課題となっている。そのために自動車部品への高強度鋼板の適用による薄肉化が進められており、引張強度(TS)が1780MPa以上の鋼板の適用が検討されている。自動車の構造用部材や補強用部材に使用される高強度鋼板は成形性に優れることが要求されるが、1780MPa以上の鋼板は延性が低いため、冷間プレス成形時に割れが発生したり、降伏強度が高いためスプリング・バックが大きく発生したりし、冷間プレス成形後に高い寸法精度が得られない。また、冷間プレス成形後は残留応力が鋼板内に残存するため、使用環境から侵入する水素によって遅れ破壊(水素脆化)が懸念される。
[0003]
 このような状況で、高強度を得る手法として、最近は、熱間プレス(ホットスタンプ、ダイクエンチ、プレスクエンチ等とも呼称される)での成形が着目されている。熱間プレスとは、鋼板をオーステナイト単相の温度域まで加熱した後に、高温のままで成形(加工)することにより、高い寸法精度での成形を可能とし、成形後の冷却により焼入れを行うことで高強度化を可能とした成形方法である。また、この熱間プレスでは、冷間プレスと比べてプレス成形後の残留応力が低下するため、耐遅れ破壊特性も改善される。
[0004]
 自動車組立工程の多くは抵抗スポット溶接により組立てられるが、一部、抵抗スポット溶接機のガンが入り込めない場所ではボルト締結によって組立てられる。また、異種材(アルミや樹脂など)との接合の場合もボルト締結の場合が多い。このような場合は、鋼板にプロジェクション部を有するナットを抵抗溶接し、その後に他の板とボルトで組み立てられる。前述したとおり、熱間プレス部材では残留応力は低下するものの、自動車車体全体の剛性を保つために熱間プレス後にも応力がかかることから、ナットと鋼板の溶接部では遅れ破壊が懸念される。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2012-157900号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 従来、ナットのプロジェクション溶接後の剥離強度を向上させる手段としては、例えば特許文献1に記載のように、溶接条件を制御することで剥離強度を改善する技術が開示されている。しかしながら、熱間プレス後のナットのプロジェクション溶接部における遅れ破壊を向上させる技術は開発されていない。
[0007]
 このように、溶接条件に関係なく、引張強度(TS)1780MPa以上の熱間プレス部材のナットとのプロジェクション溶接後の耐遅れ破壊特性を改善することは困難とされ、その他の鋼板を含めても、これらの特性を兼備する鋼板は開発されていないのが実情である。
[0008]
 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、引張強度1780MPa以上を有し、特にナットとのプロジェクション溶接後の、耐遅れ破壊特性を向上した熱間プレス部材とその製造方法、および熱間プレス部材用冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明者らは、上記の実情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、熱間プレス部材のナットのプロジェクション溶接後の耐遅れ破壊特性を向上させるためには、(a)鋼板の表層のMnの偏析に伴う硬度ばらつきを抑制し、(b)さらに表層にNi拡散領域を有することで溶接部とボルトやナットとの電位差を低減させ、水素発生を抑制することが有効であるとの知見を得た。
[0010]
 このような知見により、腐食に伴う水素発生を抑制することが可能となり、ナットと鋼板の界面での亀裂の生成が抑制される結果、耐遅れ破壊特性が向上することを見出した。
[0011]
 自動車車体として仕上げた後、実際に走行を繰り返しているうちに雨等により電気化学的に水素が鋼板上に発生し、水素の一部は鋼板に侵入する。鋼板に応力が発生していなければ、この水素を要因として遅れ破壊は生じないが、ナットの溶接部はボルト締結後に応力がかかる場合がある。これにより、ナットと鋼板の界面および界面近傍から亀裂が生じ、割れが発生する。特に、溶接後にはナットと鋼板には隙間が出来てしまい、その場所では酸素の拡散が不十分であるため、隙間内pHが低下する。その際、ボルト、ナットや溶接部でない鋼板より溶接部は電位が卑となるため、隙間において水素が発生し、水素の一部が溶接部に侵入することにより遅れ破壊が起こる。これに対し、表面にNi拡散層を有することで、溶接部の電位がボルトやナットとの電位差を低減することが出来て均一に腐食することを見出した。そのため、耐遅れ破壊特性が向上する。一方で、偏析によりMnを多く有する箇所にナットのプロジェクション部が溶接されると電位差を低減することができないため、Mnによる偏析を抑制することで耐遅れ破壊特性がさらに向上することを見出した。
[0012]
 本発明は、上記の知見に立脚するものである。
[1] 熱間プレス部材であって、鋼板の表面に表層を有し、上記鋼板は、質量%で、C:0.28%以上0.50%未満、Si:0.01%以上1.5%以下、Mn:1.0%以上2.2%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.01%以上0.50%以下、N:0.01%以下、Sb:0.001%以上0.020%以下を含有し、さらにMo:0.005%以上0.35%以下、Cr:0.005%以上0.35%以下、Nb:0.001%以上0.05%以下、Ti:0.001%以上0.05%以下、B:0.0002%以上0.0050%以下、Ca:0.005%以下、V:0.05%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、およびSn:0.50%以下から選択される一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
 上記鋼板のミクロ組織が、旧オーステナイト平均結晶粒径が8μm以下で、かつ、上記熱間プレス部材の鋼板表面から30μm以内の範囲において、マルテンサイトの体積分率が95%以上であり、上記表層にNi拡散領域の厚さが0.5μm以上存在し、さらに上記熱間プレス部材のビッカース硬度の標準偏差が35以下であり、
板厚方向のMndif(質量%)=Mnmax(質量%)-Mnmin(質量%)≦0.20
Mndif(質量%):Mn偏析度
Mnmax(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最大値
Mnmin(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最小値である、引張強度が1780MPa以上である、熱間プレス部材。
[2] 熱間プレス部材用冷延鋼板であって、鋼板の表面にNi系めっき層を有し、上記鋼板は、質量%で、C:0.28%以上0.50%未満、Si:0.01%以上1.5%以下、Mn:1.0%以上2.2%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.01%以上0.50%以下、N:0.01%以下、Sb:0.001%以上0.020%以下を含有し、さらにMo:0.005%以上0.35%以下、Cr:0.005%以上0.35%以下、Nb:0.001%以上0.05%以下、Ti:0.001%以上0.05%以下、B:0.0002%以上0.0050%以下、Ca:0.005%以下、V:0.05%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、およびSn:0.50%以下から選択される一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を含有し、
 上記鋼板のミクロ組織が、結晶粒の平均アスペクト比が2.5以下のフェライトを体積分率で20%以上含有し、上記鋼板のビッカース硬度の標準偏差が30以下であり、
板厚方向のMndif(質量%)=Mnmax(質量%)-Mnmin(質量%)≦0.20
Mndif(質量%):Mn偏析度
Mnmax(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最大値
Mnmin(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最小値
であり、上記Ni系めっき層の厚さが0.5μm以上である、熱間プレス部材用冷延鋼板。
[3] [2]に記載の熱間プレス部材用冷延鋼板を、Ac 変態点~1100℃の温度域で加熱後、熱間プレスを行う、熱間プレス部材の製造方法。
[4] [2]に記載の成分組成を有する溶鋼を連続鋳造スラブとし、上記連続鋳造スラブを850℃まで20℃/hr以上の平均冷却速度で冷却した後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却し、その後、再加熱して、仕上げ圧延の最終パスの圧下率が10%以上、上記最終パスの直前のパスの圧下率が12%以上、仕上げ圧延終了温度が850~950℃の条件で熱間圧延し、上記熱間圧延後、55℃/s以上の第1平均冷却速度で700℃以下の冷却停止温度まで1次冷却をし、上記1次冷却後、5~50℃/sの第2平均冷却速度で650℃以下の巻取温度まで2次冷却をした後、巻取り、酸洗を施した後、引き続き冷間圧延を行い、次いで、30℃/s以下の平均加熱速度で600~820℃の温度域まで加熱し、600~820℃の均熱温度域で20秒以上30000秒以下保持した後、室温まで冷却し、引き続き鋼板表面にNi系めっき層を施すためのめっき処理を施す、熱間プレス部材用冷延鋼板の製造方法。

発明の効果

[0013]
 本発明によれば、1780MPa以上の極めて高い引張強度を有すると同時に、ビッカース硬度の標準偏差が35以下である熱間プレス部材が安定して得られる。この結果、従来よりも耐遅れ破壊耐性に優れた熱間プレス部材が得られる。本発明の熱間プレス部材を、例えば自動車構造部材に適用することにより、車体軽量化による燃費改善を図ることができるため、産業上の利用価値は非常に大きい。

発明を実施するための形態

[0014]
 以下、本発明について具体的に説明する。以下に、本発明の熱間プレス部材および熱間プレス部材用冷延鋼板の成分組成について詳細に説明する。以下において、本発明の熱間プレス部材および熱間プレス部材用冷延鋼板の、成分元素の含有量を表す「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
[0015]
 C:0.28%以上0.50%未満
 Cは鋼板の高強度化に有効な元素であり、熱間プレス後にマルテンサイトを強化して鋼の強度を高めるのに重要な元素である。しかしながら、Cの含有量が0.28%未満では熱間プレス後のマルテンサイトの硬度が不十分のため、引張強度を得られない。Cの含有量は好ましくは、0.30%以上である。一方、Cの含有量が0.50%以上では、冷延鋼板および熱間プレス後の組織が不均一化、さらに溶接部の硬度が高くなることで靭性が劣化して溶接部の耐遅れ破壊特性が低下する。Cの含有量は、好ましくは0.45%未満であり、さらに好ましくは0.40%未満である。
[0016]
 Si:0.01%以上1.5%以下
 Siはフェライトを固溶強化し、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.01%以上含有することが必要である。しかしながら、Siの過剰な含有は化成処理性が劣化するため、その含有量は1.5%以下、好ましくは1.0%以下である。
[0017]
 Mn:1.0%以上2.2%以下
 Mnは熱間プレス時の焼入れ性を高めるため、熱間プレス後のマルテンサイト形成、すなわち高強度化に寄与する元素である。その効果を得るためには、1.0%以上含有することが必要である。Mnの含有量は、好ましくは1.2%以上である。一方、過剰に含有した場合、Mnバンドが過剰になり、溶接部の電位が卑に傾くため、耐遅れ破壊特性が低下する。そのため、その含有量は2.2%以下、好ましくは2.0%以下である。
[0018]
 P:0.05%以下
 Pは固溶強化により高強度化に寄与するが、過剰に含有された場合には、粒界への偏析が著しくなって粒界を脆化させるため、耐遅れ破壊特性が低下することから、その含有量は0.05%以下、好ましくは0.04%以下である。特にPの含有量の下限は無く、0%であっても良いが、製鋼コストが上昇するため、Pの含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
[0019]
 S:0.005%以下
 Sの含有量が多い場合には、MnSなどの硫化物が多く生成し、その介在物が起点となり割れが発生するため耐遅れ破壊特性が低下することから、その含有量は0.005%以下、好ましくは0.004%以下である。特にSの含有量の下限は無く、0%であっても良いが、Pと同様に製鋼コストが上昇するため、Sの含有量は0.0002%以上であることが好ましい。
[0020]
 Al:0.01%以上0.50%以下
 Alは脱酸に必要な元素であり、この効果を得るためには0.01%以上含有することが必要であるが、0.50%を超えて含有しても効果が飽和するため、Alの含有量は0.50%以下、好ましくは0.40%以下である。
[0021]
 N:0.01%以下
 Nは粗大な窒化物を形成して耐遅れ破壊特性が低下することから、含有量を抑える必要がある。Nが0.01%超えでは、この傾向が顕著となることからNの含有量は0.01%以下、好ましくは0.008%以下である。なお、Nの含有量の下限は特に無く、0%でも良いが、製鋼コストの面からNの含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
[0022]
 Sb:0.001%以上0.020%以下
 Sbは冷延鋼板の組織均質化に有効な元素である。特に、Sbは熱間プレスの一連の処理において、熱間プレス前の鋼板の加熱時から、熱間プレス後の鋼板の冷却開始時までに鋼板表層部に生じる脱炭層を抑制、組織を均一化する効果を有する。そのため、表面の電位分布が均一となり耐遅れ破壊特性が向上する。このような効果を発現するためにはその量を0.001%以上とする。一方、Sbが0.020%超含有されると、圧延負荷荷重を増大させるため、生産性を低下させることから、Sb含有量は0.020%以下とする。
[0023]
 本発明では、上記の成分に加え、以下の成分を1種または2種以上含有する。
[0024]
 Mo:0.005%以上0.35%以下
 Moは熱間プレス時の焼入れ性を高めるため熱間プレス後のマルテンサイト形成、すなわち高強度化に寄与する元素である。その効果を得るためには0.005%以上含有することが必要である。Mo含有量は好ましくは0.01%以上である。一方、多量にMoを含有しても上記効果は飽和し、かえってコスト増を招き、さらに化成処理性が劣化するため、その含有量は0.35%以下とする。
[0025]
 Cr:0.005%以上0.35%以下
 CrもMoと同様に熱間プレス時の焼入れ性を高めるため熱間プレス後のマルテンサイト形成、すなわち高強度化に寄与する元素である。その効果を得るためには0.005%以上含有することが必要である。Cr含有量は好ましくは0.010%以上である。一方、多量にCrを含有しても上記効果は飽和し、さらに表面酸化物を形成することからめっき性が劣化するため、その含有量は0.35%以下とする。
[0026]
 Nb:0.001%以上0.05%以下
 Nbは微細な炭窒化物を形成することで、強度上昇に寄与することができる元素であり、熱間プレス時のオーステナイト粒径を微細化することから、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する元素である。このような効果を発揮させるためには、Nbの含有量は0.001%以上とする。Nb含有量は好ましくは0.010%以上である。一方、多量にNbを含有しても上記効果は飽和し、かえってコスト増を招くため、その含有量は0.05%以下とする。Nb含有量は好ましくは0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。
[0027]
 Ti:0.001%以上0.05%以下
 Tiは微細な炭窒化物を形成することで、強度上昇に寄与することができる元素である。熱間プレス時のオーステナイト粒径を微細化することから、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する元素である。このような効果を発揮させるためには、Tiの含有量は0.001%以上とする。一方、多量にTiを含有すると、熱間プレス後の伸びが著しく低下するため、その含有量は0.05%以下、好ましくは0.04%以下である。
[0028]
 B:0.0002%以上0.0050%以下
 Bは熱間プレス時の焼入れ性を高めるため熱間プレス後のマルテンサイト形成、すなわち高強度化に寄与する元素である。また粒界に偏析することで粒界強度を向上させるため、耐遅れ破壊特性に有効である。この効果を発揮するために、0.0002%以上含有させる。しかし、過剰な含有はNと粗大な析出物を形成、耐遅れ破壊特性を低下させるため、その含有量を0.0050%以下とする。B含有量は好ましくは0.0035%以下である。
[0029]
 Ca:0.005%以下
 Caは硫化物及び酸化物の形状を制御し、粗大なMnSの生成を抑制することから耐遅れ破壊特性が向上する。このような効果を発現するためには0.0005%以上含有するのが好ましい。また、過度の含有は加工性を劣化させるため、Ca含有量は0.005%以下とする。
[0030]
 V:0.05%以下
 Vは微細な炭窒化物を形成することで、強度上昇に寄与することができる。このような作用を有するために、Vの含有量を0.01%以上含有させることが好ましい。一方、多量のVを含有させると、耐遅れ破壊特性が劣化するため、その含有量は0.05%以下とする。
[0031]
 Cu:0.50%以下
 Cuは固溶強化により高強度化に寄与し、耐食性を向上させることから耐遅れ破壊特性を向上できる。これら効果を発揮するためには0.05%以上含有させることが好ましい。一方、0.50%超含有させても効果が飽和し、またCuに起因する表面欠陥が発生しやすくなるため、その含有量は0.50%以下とする。
[0032]
 Ni:0.50%以下
 NiもCuと同様、耐食性を向上させ、かつ、溶接部とナットやボルトの電位差を低減できることから、耐遅れ破壊特性を向上できる。また、Cuと同時に含有させると、Cu起因の表面欠陥を抑制する効果があるため有効である。これら効果を発揮するためには0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、多量のNiを添加させると、耐遅れ破壊特性が低下するため、その含有量は0.50%以下とする。
[0033]
 Sn:0.50%以下
 SnもCuと同様、耐食性を向上させることから耐遅れ破壊特性を向上できるため、必要に応じて含有することができる。これら効果を発揮するためには0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、多量のSnを含有させると、耐遅れ破壊特性が低下するため、その含有量は0.50%以下とする。
[0034]
 上記以外の残部はFe及び不可避不純物とする。不可避不純物としては、例えば、Zn、Co、Zr、Ta、Wが挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Zn:0.01%以下、Co:0.10%以下、Zr:0.10%以下、Ta:0.10%以下、W:0.10%以下である。この他、各元素量が下限値未満存在する場合についても、不可避不純物として含まれると理解される。
[0035]
 次に、本発明の熱間プレス部材および熱間プレス部材用冷延鋼板のミクロ組織について詳細に説明する。
[0036]
 熱間プレス部材のミクロ組織
 熱間プレス部材は、鋼板の表面に表層を有している。熱間プレス部材の鋼板のミクロ組織は、旧オーステナイト平均結晶粒径が8μm以下で、かつ、鋼板表面から30μm以内の範囲において、マルテンサイトの体積分率が95%以上である鋼組織とする。ここで、鋼板表面とは、熱間プレス部材の表層と鋼板の界面を意味する。なお、ここで述べる体積分率は、鋼板の全体に対する体積分率であり、以下同様である。
[0037]
 熱間プレス後に旧オーステナイト平均結晶粒径が8μmを超えると、プロジェクション溶接部の靭性が低下するため耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、旧オーステナイト平均結晶粒径は8μm以下、好ましくは7μm以下である。
[0038]
 また、鋼板表面から30μm以内のマルテンサイトの体積分率が95%未満であると所望の引張強度が得られない。そのため、マルテンサイトの体積分率は95%以上とする。
[0039]
 また、熱間プレス部材の表層にNi拡散領域が厚さ0.5μm以上存在することで、前述のように溶接後に溶接部とナットやボルトの電位差が低減されるため、耐遅れ破壊特性が向上する。そのため、熱間プレス後の鋼板表層にNi拡散領域が厚さ0.5μm以上存在することとする。
[0040]
 熱間プレス部材及び熱間プレス用冷延鋼板の表面にて測定したビッカース硬度の標準偏差をそれぞれ35、30以下とする。標準偏差がそれぞれ35、30を超えると、Mn偏析による硬度差が生じているため、偏析により硬度が高い箇所でナットのプロジェクション部が溶接されると、Mn量が多いことから電位が卑に傾いてしまい、ナットやボルトと溶接部に電位差が生じるため耐遅れ破壊特性が劣化する。なお、上記ビッカース硬度は、上記熱間プレス部材の表面にて、一定の間隔、例えば100~400μm毎に測定すればよいが、200μm毎に測定することが特に好ましい。
[0041]
 熱間プレス部材用冷延鋼板のミクロ組織
 熱間プレス部材用冷延鋼板は、鋼板表面に0.5μm以上の厚さを有するNi系めっき層を有している。上記熱間プレス部材用冷延鋼板を熱間プレスした後、このNi系めっき層が上述した熱間プレス部材の表層となる。ここで、Ni系めっき層とは、冷延鋼板に付与されるNi系めっき層の場合にはNiめっき層を含んでおり、またZnを含有することもできる。一例としてZn-10~15%Niめっき層が挙げられるが、これに限らない。また上記Ni系めっき層を付与した冷延鋼板を熱間プレス後、上記冷延鋼板の表面に、Ni系めっき層と冷延鋼板との間で合金層が形成される。例えば、上記Zn-10~15%Niめっき層を用いた場合には、Ni量が25%以下、Feが10%以下含まれる合金層が冷延鋼板の表面に形成される。この熱間プレス時に形成する合金層が、本発明に有効なNi拡散領域であり、耐遅れ破壊特性を向上させる。熱間プレス部材として所望の特性を得るためには、熱間プレス部材用冷延鋼板のミクロ組織を制御することが重要である。すなわち、熱間プレス部材用冷延鋼板のミクロ組織としては、結晶粒の平均アスペクト比が2.5以下のフェライトを体積分率で20%以上含有し、さらに熱間プレス部材用冷延鋼板の表面にて測定したビッカース硬度の標準偏差を30以下とする。
[0042]
 フェライト結晶粒の平均アスペクト比が2.5を超えると、熱間プレス後に所望の旧オーステナイト平均結晶粒径が確保できないため、耐抵抗溶接割れ性および耐遅れ破壊特性が低下する。フェライトの体積分率が20%未満の場合も、熱間プレス時の逆変態による再結晶が不十分となり、熱間プレス後に所望の旧オーステナイト平均結晶粒径が得られなくなるため、耐遅れ破壊特性が低下する。各ミクロ組織については、3vol%ナイタールで腐食した後、後述する実施例に記載の方法、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡にて観察することが可能である。
[0043]
 熱間プレス部材及び熱間プレス用冷延鋼板中のMn偏析度:Mndif(質量%)≦0.20%
 引張強度1780MPa以上を有し、特にナットとのプロジェクション溶接後の、耐遅れ破壊特性が向上された熱間プレス部材を得るには、熱間プレス部材の鋼板表面及び熱間プレス用冷延鋼板表面のMn偏析を抑制する必要がある。Mn偏析度は、以下の式によって規定される。
板厚方向のMndif(質量%)=Mnmax(質量%)-Mnmin(質量%)≦0.20%
Mndif(質量%):Mn偏析度
Mnmax(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最大値
Mnmin(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最小値
 Mnが偏析すると、鋼板中の成分の不均一により、鋼板内で貴な領域と卑な領域が偏在し、ナットとのプロジェクション溶接後の、溶接部の耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、板厚方向のMn偏析度が0.20%以下である必要がある。好適には、0.15%以下である。なお、板厚方向のMn偏析度は、熱間プレス部材及び熱間プレス用冷延鋼板において、めっき層を含まない板厚方向断面について、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により0.5μmステップで鋼板表面~鋼板中央部までを線分析にて測定して求めた。
[0044]
 次に、本発明の熱間プレス用冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
[0045]
 本発明では、上記冷延鋼板の製造に際し、まず所定の成分組成を有する溶鋼を連続鋳造してスラブとし、この連続鋳造スラブを850℃まで20℃/hr以上の平均冷却速度で冷却した後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却する。
[0046]
 その後、再加熱して、仕上げ圧延の最終パスの圧下率が10%以上、上記最終パスの直前のパスの圧下率が12%以上、仕上げ圧延終了温度が850~950℃の条件で熱間圧延し、上記熱間圧延後、700℃以下の1次冷却停止温度までの第1平均冷却速度を55℃/s以上として1次冷却を行う。上記1次冷却後、650℃以下の巻取温度までの第2平均冷却速度を5~50℃/sとして2次冷却をした後、上記巻取温度で巻取る。
[0047]
 ついで、巻き取った熱延鋼板に酸洗を施した後、引き続き冷間圧延を行い、次いで、30℃/s以下の平均加熱速度で600~820℃の温度域まで加熱し、600~820℃の均熱温度域を20秒以上30000秒以下で保持した後、室温まで冷却し、引き続き鋼板表面にNi系めっき層を施すためのめっき処理を施す。
[0048]
 以下、上記した製造工程を工程毎に詳細に説明する。
[0049]
 連続鋳造
 本発明において、まずスラブは連続鋳造法により鋳造される。連続鋳造法は、本発明の課題を解決するために重要であり、しかも鋳型鋳造法と比較して生産能率が高いために採用する。連続鋳造機は垂直曲げ型が望ましい。これは、垂直曲げ型は設備コストと表面品質のバランスに優れ、かつ、表面亀裂の抑制効果が顕著に発揮されるためである。
[0050]
 この連続鋳造を経てスラブとした後は、この連続鋳造スラブを850℃まで20℃/hr以上の平均冷却速度で冷却した後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却する。連続鋳造後、850℃まで20℃/hrより小さい平均冷却速度で冷却を行うと、Mnの偏析が助長されるため、熱間プレス後の耐遅れ破壊特性が低下する。また、その後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却することで、冷却中にフェライトが粒界から均等生成して偏析を抑制させる。そのため、連続鋳造後の850℃まで20℃/hr以上の平均冷却速度で冷却した後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却する。また、650℃まで冷却したならば、その後に、室温まで冷却した後に再加熱して熱間圧延を施しても良いし、温片のまま再加熱して熱間圧延を施しても良い。
[0051]
 加熱工程
 素材である鋼スラブ(連続鋳造スラブ)は、鋳造後、再加熱することなく1150~1270℃で熱間圧延を開始するか、もしくは1150~1270℃に再加熱したのち、熱間圧延を開始することが好ましい。熱間圧延の好ましい条件は、まず1150~1270℃の熱間圧延開始温度で鋼スラブを熱間圧延する。
[0052]
 熱間圧延工程
 仕上げ圧延の最終パスの圧下率:10%以上
 仕上げ圧延の最終パスの圧下率を10%以上にすることは、オーステナイト粒内にせん断帯を多数導入し、熱間圧延後のフェライト変態時の核生成サイトを増大して熱延板の微細化を図り、所望の冷延鋼板のフェライトの平均アスペクト比を確保し、熱間プレス部材の旧オーステナイトの平均結晶粒径の微細化に必要である。さらにMnバンドを解消するという観点から必要である。また、表層の鋼板組織の微細化にも有効である。仕上げ圧延の最終パスの好適圧下率は12%以上である。また、この圧下率の上限は特に限定されないが、熱延負荷荷重が増大すると、板の幅方向での板厚変動が大きくなり、耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがあるので、仕上げ圧延の最終パスの好適圧下率は30%以下が好ましい。
[0053]
 仕上げ圧延の最終パスの直前のパスの圧下率:12%以上
 最終パスの直前のパスの圧下率を12%以上にすることは、歪蓄積効果がより高まってオーステナイト粒内にせん断帯が多数導入され、フェライト変態の核生成サイトがさらに増大して熱延板の組織がより微細化し、所望の冷延鋼板のフェライトの平均アスペクト比を確保し、熱間プレス部材の旧オーステナイトの平均結晶粒径の微細化に必要である。さらにMnバンドを解消するという観点から必要である。仕上げ圧延の最終パスの直前のパスの好適圧下率は15%以上である。また、この圧下率の上限は特に限定されないが、熱延負荷荷重が増大すると、板の幅方向での板厚変動が大きくなり、耐遅れ破壊特性の劣化が懸念されるので、仕上げ圧延の最終パスの直前のパスの好適圧下率は30%以下が好ましい。
[0054]
 仕上げ圧延終了温度:850~950℃
 熱間圧延は、鋼板内の組織均一微細化、材質の異方性低減により、焼鈍後の耐遅れ破壊特性を向上させるため、オーステナイト単相域にて終了する必要があるので、仕上げ圧延終了温度は850℃以上とする。一方、仕上げ圧延終了温度が950℃超えでは、熱延組織が粗大になり、焼鈍後の結晶粒も粗大化するため、仕上げ圧延終了温度は950℃以下とする。
[0055]
 熱間圧延後の冷却工程
 1次冷却工程:55℃/s以上の第1平均冷却速度で700℃以下まで冷却
 熱間圧延終了後の冷却過程でオーステナイトがフェライト変態するが、高温ではフェライトが粗大化するため、熱間圧延終了後は急冷することで、組織をできるだけ均質化する。そのため、まず、1次冷却として、55℃/s以上の第1平均冷却速度で700℃以下まで冷却する。この第1平均冷却速度が55℃/s未満ではフェライトが粗大化、熱延鋼板の鋼板組織が不均質となり、冷延鋼板の組織の不均一、熱間プレス後の組織の不均一および旧オーステナイト粒径の粗大化、耐遅れ破壊特性の低下を招く。一方、1次冷却における冷却停止温度が700℃超えでは、フェライトが粗大化、熱延鋼板の鋼板組織にパーライトが過剰に生成し、最終的な鋼板組織が不均質となり、耐遅れ破壊特性が低下する。なお、1次冷却停止温度は、巻取温度(CT)+40~140℃であることが好ましい。
[0056]
 2次冷却工程:5~50℃/sの第2平均冷却速度で巻取温度まで冷却
 この2次冷却における平均冷却速度が5℃/s未満では、熱延鋼板の鋼板組織にフェライトもしくはパーライトが過剰に生成し、フェライトが粗大化、最終的な鋼板組織が不均質となり、耐遅れ破壊特性が低下する。一方、2次冷却における平均冷却速度が50℃/sを超えると、フェライトもしくはパーライトの過剰な生成を抑制する効果は飽和する。さらに、巻取温度超の温度までの冷却では、熱延鋼板の鋼板組織に粗大なフェライトもしくはパーライトが過剰に生成し、最終的な鋼板組織が不均質となり、耐遅れ破壊特性が低下する。
[0057]
 巻取温度:650℃以下
 巻取温度が650℃超では、熱延鋼板の鋼板組織にフェライトおよびパーライトが粗大化し、最終的な鋼板組織が不均質となり、耐遅れ破壊特性が低下する。そのため、本発明では、巻取温度の上限は650℃とした。巻取温度は好ましくは600℃以下である。なお、巻取温度の下限については、特に規定はしないが、巻取温度が低温になりすぎると、硬質なマルテンサイトが過剰に生成し、冷間圧延負荷が増大するため、巻取温度は300℃以上が好ましい。
[0058]
 酸洗工程
 熱間圧延工程後、酸洗を実施し、熱延板表層のスケールを除去する。この酸洗処理は特に限定されず、常法に従って実施すればよい。
[0059]
 冷間圧延工程
 所定の板厚の冷延板に圧延する冷間圧延を行う。この冷間圧延工程は特に限定されず常法に従って実施すればよい。
[0060]
 焼鈍工程
 冷間圧延後の再結晶の進行と共に、熱間プレス後の硬度分布の制御および鋼板組織の微細化のために焼鈍を実施する。焼鈍工程では、冷延板を30℃/s以下の平均加熱速度で600~820℃の温度域まで加熱し、均熱温度として600~820℃の温度域で20秒以上30000秒以下保持した後、室温まで冷却する。
[0061]
 平均加熱速度:30℃/s以下
 焼鈍工程における加熱速度を制御することによって、焼鈍後の冷延鋼板の組織の均一化ができる。急速に加熱すると再結晶が進行しにくくなるため、組織が不均質となり、耐遅れ破壊特性が低下する。室温から均熱温度までの平均加熱速度は30℃/s以下とする。なお、平均加熱速度は0.1℃/s以上が好ましい。
[0062]
 均熱温度:600~820℃、保持時間:20~30000秒
 均熱温度は、再結晶温度より高い温度域とする。均熱温度が600℃未満、保持時間20秒未満の場合、再結晶が十分に行われず、所望の冷延鋼板のフェライトの平均アスペクト比の確保が困難となり、また表面上に硬度差が生じてしまい、組織が不均質となり、熱間プレス後の耐遅れ破壊特性が低下するため、均熱温度は600℃以上、保持時間は20秒以上とする。一方、均熱温度が820℃超、保持時間30000秒超の場合、均熱時の結晶粒が粗大化するため、所望の冷延鋼板のフェライトの体積分率が得られない。また、熱間プレス後の組織が不均一、および旧オーステナイト粒径が粗大化、耐遅れ破壊特性が低下するため、均熱温度は820℃以下、好ましくは800℃以下である。保持時間は30000秒以下、好ましくは20000秒以下である。
[0063]
 めっき工程
 本発明の熱間プレス部材用冷延鋼板の製造方法は、Ni系めっき層を施すためのめっき工程を有する。めっき工程は何ら限定されるものではなく、公知の溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法等がいずれも適用可能である。また、めっき工程後に合金化処理を施してもよい。
[0064]
 なお、冷延鋼板に対して任意に調質圧延を実施しても良い。この際の好適な伸び率は0.05~2.0%である。
[0065]
 次に、得られた冷延鋼板に対して行う熱間プレスについて説明する。
[0066]
 熱間プレスの方法としては、公知の熱間プレス方法が適用可能であるが、Ac 変態点~1100℃の温度範囲に加熱する必要がある。
[0067]
 例えば、素材である熱間プレス部材用冷延鋼板を、電気炉、ガス炉、通電加熱炉、遠赤外線加熱炉等を使用できるが、Ac 変態点~1100℃の温度範囲に加熱する必要がある。熱間プレス温度がAc 変態点未満の場合には、所望量のマルテンサイト相を形成することが難しいため、所望とするTSが得られない。また、熱間プレス温度が1100℃超の場合には、旧オーステナイトの平均結晶粒径が粗大化、優れた耐遅れ破壊特性が得られない。さらに、保持時間や熱間プレス温度、昇温速度については特に限定しないが、好適には、上記温度範囲で0~600秒間保持した後、鋼板をプレス機に搬送して、550~800℃の範囲で熱間プレスを行えばよい。熱間プレス部材用冷延鋼板を加熱する際の昇温速度は、3~200℃/sとすればよい。
[0068]
 ここに、Ac 変態点は、次式によって求めることができる。
Ac 変態点(℃)=881-206C+53Si-15Mn-20Ni-1Cr-27Cu+41Mo
ただし、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、元素を含有しない場合は0として計算する。
実施例
[0069]
 以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、もとより以下に述べる実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲において適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
[0070]
 表1に示す成分組成の鋼を溶製し、表2に示す条件で連続鋳造により鋼スラブとしたのち、1250℃に加熱後、仕上げ圧延終了温度(FDT)を表2に示す条件で熱間圧延を行った。ついで、熱延鋼板を、表2に示す第1平均冷却速度(冷速1)で冷却停止温度(第1冷却停止温度)まで冷却した後、第2平均冷却速度(冷速2)で巻取温度(CT)まで冷却し、コイルに巻取った。ついで、得られた熱延鋼板を、酸洗後、表2に示す圧下率で冷間圧延を施して、冷延板(板厚:1.4mm)とした。
[0071]
[表1]


[0072]
[表2]


 かくして得られた冷延板を、連続焼鈍ライン(CAL)もしくは連続溶融めっきライン(CGL)において、表2に示す条件で第1および第2の焼鈍処理を行い、めっき処理の無いCALのみを通過した鋼板については冷延鋼板(CR)を、CGLを通過した鋼板についてはNiを含有する溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た。なお、CGLを通過した鋼板の一部については、溶融亜鉛めっき処理を施した後、さらに550℃で合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。さらに、一部はCALにて焼鈍した後に電気亜鉛めっきライン(EGL)において、電気亜鉛ニッケルめっき鋼板(EZN)を得た。
[0073]
 ついで、得られた冷延鋼板(めっき鋼板を含む)に対し、熱間プレスを実施した。熱間プレスで使用した金型は、パンチ幅70mm、パンチ肩R4mm、ダイ肩R4mmで、成形深さは30mmである。冷延鋼板に対する加熱は、加熱速度に応じて赤外線加熱炉または雰囲気加熱炉のいずれかを用い、大気中で行った。また、熱間プレス後の冷却は、鋼板のパンチ・ダイ間での挟み込みと、挟み込みから解放したダイ上での空冷とを組み合わせて行い、熱間プレス(開始)温度から150℃まで冷却した。このとき、パンチを下死点にて保持する時間を1~60秒の範囲で変えることで冷却速度を調整した。
[0074]
 かくして得られた熱間プレス部材のハット底部の位置からJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、引張強度(TS)を測定した。
[0075]
 また、プロジェクション溶接後の耐遅れ破壊特性の試験に関しては、はじめに各種熱間プレス部材から、50mm×150mmの試験片を採取し、中央に直径9mmの穴をあけ、3点のプロジェクション部を有するM8溶接用ナットを、上記試験片の穴の中心と上記ナットの穴の中心とが一致するように交流溶接機にセットして溶接した。抵抗溶接の条件は、溶接ガンに取付けられたサーボモータ加圧式で単相交流(50Hz)の抵抗溶接機を用いて溶接を行い、プロジェクション溶接部を保有した試験片を作製した。なお、使用した一対の電極チップは、平型30mmφの電極とした。溶接条件は加圧力を3200N、通電時間は5サイクル(50Hz)、溶接電流は12kA、ホールド時間は10サイクル(50Hz)とした。
[0076]
 このようにして得られた溶接体のナット穴にボルトを固定した後、JIS B 1196:2001に準拠した押込剥離試験によってナットが鋼板から剥離するときの荷重を測定した。このときの剥離強度をFSとし、上記と同様の方法でボルト締結の試験片を作製し、0.7×FSの荷重を負荷させた。その後に、室温で塩酸(pH=2.0)の溶液に浸漬してナットと鋼板の剥離有無を評価した。両方の荷重で100時間以上破断しない場合は耐遅れ破壊特性を良好(○)、100時間未満で破断した場合は耐遅れ破壊特性を劣(×)とした。
[0077]
 熱間プレス後の熱間プレス部材のマルテンサイトの体積分率は、鋼板の圧延方向に平行は板厚断面を研磨後、3vol%ナイタールで腐食し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍、5000倍の倍率で観察し、ポイントカウント法(ASTM E562-83(1988)に準拠)により、面積率を測定し、その面積率を体積分率とした。
[0078]
 熱間プレス部材における旧オーステナイト平均結晶粒径は、次のようにして求めた。鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3vol%ナイタールで腐食し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて3000倍の倍率で観察し、Media Cybernetics社のImage-Proを用いて、旧オーステナイト粒の円相当直径を算出し、それらの値を平均して求めた。
[0079]
 熱間プレス部材の表層におけるFe-Ni拡散領域(Ni拡散領域)の厚さは、次のようにして求めた。熱間プレス後の鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、EPMAにより表層についてFe及びNiの元素分布をマッピングしてFeおよびNiの両方が検出される箇所をFe-Ni拡散領域として、その厚さの平均を求めた。
[0080]
 ビッカース硬度の標準偏差は、熱間プレス後の熱間プレス部材及び熱間プレス用冷延鋼板の表面に水平な方向において圧延方向と直角方向に200μm毎にビッカース硬度を各15回測定し、N=15のビッカース硬度の値から標準偏差を求めた。ビッカース硬度の測定条件の試験力は300g(2.942N)、保持時間は15秒とした。
[0081]
 フェライトの体積分率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3vol%ナイタールで腐食し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍、5000倍の倍率で観察し、ポイントカウント法(ASTM E562-83(1988)に準拠)により、面積率を測定し、その面積率を体積分率とした。
[0082]
 アスペクト比については、Media Cybernetics社のImage-Proを用いて、2000倍、5000倍の倍率の鋼板組織写真から組織写真中の全てのフェライト粒の円相当直径を算出し、アスペクト比を求め、それらを平均して求めた。
[0083]
 Niめっき層の厚みは鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、EPMAにより表層についてNiの元素分布をマッピングして、その厚みの平均を求めた。
Mndifは鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、EPMAにて板厚方向に線分析からMn量を測定し、最大値をMnmax(質量%)、最小値をMnmin(質量%)とし、Mnmax-Mnminから算出した。
[0084]
 かくして得られた鋼板組織、引張特性、および耐遅れ破壊特性の測定結果を表3に示す。
[0085]
[表3]


 表3において、No.1~4はいずれも、熱間プレス部材については引張強度が1780MPa以上、熱間プレス部材の表面にて200μm毎に測定したビッカース硬度の標準偏差が35以下、Ni拡散領域が0.5μm以上であり、所望の耐遅れ破壊特性が得られている。一方で、No.5~7はいずれも、成分組成が本発明の範囲外であるため、引張強度、表面のビッカース硬度の標準偏差、耐遅れ破壊特性のいずれかが劣っている。
[0086]
 No.8、9は、成分組成は本発明の範囲内であるが、連続鋳造条件が本発明の範囲外であるため、冷延鋼板について所望の鋼組織は得られているものの、Mn偏析度が高いためにビッカース硬度標準偏差が30超となり、その結果、熱間プレス部材についても所望の鋼組織は得られているものの、やはりMn偏析度が高いために所望の耐遅れ破壊特性が得られていない。
[0087]
 また、No.10~21は、成分組成は本発明の範囲内であるが、熱間プレス前の冷延鋼板の製造方法が本発明の範囲外であるため、熱間プレス前の冷延鋼板において、及び、熱間プレス後の熱間プレス部材において所望の金属組織が得られていないか(No.10~15、No.18~21)、又は、熱間プレス前の冷延鋼板についてMn偏析による硬度差が生じているため、表面のビッカース硬度の標準偏差が30を超えており、結果的に熱間プレス後の部材についてもMn偏析による硬度差が生じ、その結果、所望の引張特性は得られているが、耐遅れ破壊特性が劣る。No.22は、成分組成は本発明の範囲内であるが、Niめっき層を有していないために熱間プレス時にNi拡散層が形成されず、その結果、所望とする耐遅れ破壊特性が得られていない。
[0088]
 No.23、24は、比較例No.18についてさらに、本発明の範囲外の熱間プレス温度にて熱間プレスを行ったものである。
[0089]
 No.18の冷延鋼板を1100℃超の温度で熱間プレスを行ったNo.23は、No.18の熱間プレス部材の旧オーステナイト粒径よりも更に粗大化、熱間プレス部材のビッカース硬度の標準偏差が更に劣化した。
[0090]
 No.18の冷延鋼板をAc 変態点未満の温度で熱間プレスを行ったNo.24は、所望とするマルテンサイト量が得られなかったため、No.18の熱間プレス部材よりも更にTSが劣化、熱間プレス部材のビッカース硬度の標準偏差が更に劣化した。
[0091]
 また、No.23、24は夫々Mn偏析度もNo.18よりも劣化したため、耐遅れ破壊特性についても劣化した。

産業上の利用可能性

[0092]
 本発明の熱間プレス部材は、引張強度が1780MPa以上で、ビッカース硬度の標準偏差が35以下であり、耐遅れ破壊特性に優れる。本発明の熱間プレス部材を、例えば自動車構造部材に適用することにより、車体軽量化による燃費改善を図ることができるため、産業上の利用価値は非常に大きい。

請求の範囲

[請求項1]
 熱間プレス部材であって、
 鋼板の表面に表層を有し、
 前記鋼板は、質量%で、
C:0.28%以上0.50%未満、
Si:0.01%以上1.5%以下、
Mn:1.0%以上2.2%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.01%以上0.50%以下、
N:0.01%以下、
Sb:0.001%以上0.020%以下を含有し、
さらにMo:0.005%以上0.35%以下、
Cr:0.005%以上0.35%以下、
Nb:0.001%以上0.05%以下、
Ti:0.001%以上0.05%以下、
B:0.0002%以上0.0050%以下、
Ca:0.005%以下、
V:0.05%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
およびSn:0.50%以下から選択される一種または二種以上を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
 前記鋼板のミクロ組織が、旧オーステナイト平均結晶粒径が8μm以下で、かつ、前記熱間プレス部材の鋼板表面から30μm以内の範囲において、マルテンサイトの体積分率が95%以上であり、前記表層にNi拡散領域の厚さが0.5μm以上存在し、
 さらに前記熱間プレス部材のビッカース硬度の標準偏差が35以下であり、
 板厚方向のMndif(質量%)=Mnmax(質量%)-Mnmin(質量%)≦0.20
 Mndif(質量%):Mn偏析度
 Mnmax(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最大値、
 Mnmin(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最小値であり、
 引張強度が1780MPa以上である、熱間プレス部材。
[請求項2]
 熱間プレス部材用冷延鋼板であって、
 鋼板の表面にNi系めっき層を有し、
 前記鋼板は、質量%で、
C:0.28%以上0.50%未満、
Si:0.01%以上1.5%以下、
Mn:1.0%以上2.2%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.01%以上0.50%以下、
N:0.01%以下、
Sb:0.001%以上0.020%以下を含有し、
さらにMo:0.005%以上0.35%以下、
Cr:0.005%以上0.35%以下、
Nb:0.001%以上0.05%以下、
Ti:0.001%以上0.05%以下、
B:0.0002%以上0.0050%以下、
Ca:0.005%以下、
V:0.05%以下、Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
およびSn:0.50%以下から選択される一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を含有し、
 前記鋼板のミクロ組織が、結晶粒の平均アスペクト比が2.5以下のフェライトを体積分率で20%以上含有し、
 前記鋼板のビッカース硬度の標準偏差が30以下であり、
 板厚方向のMndif(質量%)=Mnmax(質量%)-Mnmin(質量%)≦0.20
 Mndif(質量%):Mn偏析度
 Mnmax(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最大値
 Mnmin(質量%):板厚方向においてEPMAの線分析により測定したMn量の最小値であり、
 前記Ni系めっき層の厚さが0.5μm以上である、熱間プレス部材用冷延鋼板。
[請求項3]
 請求項2に記載の熱間プレス部材用冷延鋼板を、Ac 変態点~1100℃の温度域で加熱後、熱間プレスを行う、熱間プレス部材の製造方法。
[請求項4]
 請求項2に記載の成分組成を有する溶鋼を連続鋳造スラブとし、前記連続鋳造スラブを850℃まで20℃/hr以上の平均冷却速度で冷却した後に650℃まで150℃/hr以下の平均冷却速度で冷却し、その後、再加熱して、仕上げ圧延の最終パスの圧下率が10%以上、前記最終パスの直前のパスの圧下率が12%以上、仕上げ圧延終了温度が850~950℃の条件で熱間圧延し、前記熱間圧延後、55℃/s以上の第1平均冷却速度で700℃以下の冷却停止温度まで1次冷却をし、前記1次冷却後、5~50℃/sの第2平均冷却速度で650℃以下の巻取温度まで2次冷却をした後、巻取り、酸洗を施した後、引き続き冷間圧延を行い、次いで、30℃/s以下の平均加熱速度で600~820℃の温度域まで加熱し、600~820℃の均熱温度域で20秒以上30000秒以下保持した後、室温まで冷却し、引き続き鋼板表面にNi系めっき層を施すためのめっき処理を施す、熱間プレス部材用冷延鋼板の製造方法。