明 細 書
技術分野
[0001]
本願は、点火装置に関するものである。
背景技術
[0002]
車両等に搭載される内燃機関の燃費を向上させる手法として、希薄混合気を燃焼させる希薄燃焼方式、燃焼後の排気を燃焼室内に再循環させる排気再循環方式、あるいは燃焼室を高圧縮比にする方式などが開発されている。しかし、いずれの方式も混合気の点火が難しいという課題があり、着火性の向上が要求されている。
[0003]
そこで、点火装置を構成するトランスの第1の1次巻線の電流を遮断することによってトランスの2次巻線に生じた2次電流に対して、第2の1次巻線に電流を流すことによって加算的に電流を重畳する点火装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。この手法では、トランスの2次巻線に流れる電流が増加することによって、点火プラグの電極間の放電電流が増加され、放電が安定するため、混合気の着火性が向上する。
先行技術文献
特許文献
[0004]
特許文献1 : 米国特許9399979号
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005]
上記の手法では、着火性を向上するために、放電期間中にできるだけ長く第2の1次巻線に通電したい。しかし、放電期間中に第2の1次巻線の通電を継続すると、2次電流が増加し続け、放電電流が大きくなり過ぎ、発熱により、電極消耗量が増大してしまう。その結果、点火プラグ寿命の短期化を招き、点火プラグ交換によるランニングコスト増大が生じる。
[0006]
特許文献1の技術では、放電期間中に第2の1次巻線を高速でオンオフすることにより、2次電流が増加し続けることを防止し、2次電流が大きくなり過ぎることを防止している。
[0007]
しかし、特許文献1の技術では、特許文献1の図3に示されているように、第2の1次巻線を頻繁にオフにすることにより、2次電流が大きくなり過ぎることを抑制している。しかし、第2の1次巻線をオフする度に、第2の1次巻線に逆起電力が発生し、2次電流が急激に電流重畳前のレベルまで減少している。そのため、第2の1次巻線をオフする度に、放電電流の増加による、放電の安定化効果が損なわれ、筒内流動等により放電が途切れる可能性があり、十分な着火性の向上を図れていなかった。
[0008]
そこで、放電期間中の第2の1次巻線の通電により、2次電流が増加し過ぎず、減少し過ぎないよう、2次電流を適度に増加させることができる点火装置が望まれる。
課題を解決するための手段
[0009]
本願に係る点火装置は、
通電により通電磁束が生じる第1の1次巻線と、通電により前記第1の1次巻線の通電磁束とは逆方向の通電磁束が生じる第2の1次巻線と、前記第1の1次巻線及び前記第2の1次巻線に磁気結合され、点火プラグに放電エネルギを供給する2次巻線と、を有するトランスと、
直流電源から前記第1の1次巻線への通電をオンオフする第1のスイッチング素子と、
前記直流電源から前記第2の1次巻線への通電をオンオフする第2のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子をオンした後、前記第1のスイッチング素子をオフして、前記点火プラグに火花放電を発生させ、
前記火花放電の期間中に前記第2のスイッチング素子をオンし、
前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、前記第1のスイッチング素子をオンオフする制御装置と、を備えたものである。
発明の効果
[0010]
本願に係る点火装置によれば、火花放電中に第2の1次巻線に通電するので、2次巻線に追加の磁気エネルギが供給され、電極間を流れる放電電流(2次電流)が増加する。これにより、火花放電が強化され、混合気の着火性、火花放電の伸長性を強化することができる。また、第2のスイッチング素子のオン期間中に、第1のスイッチング素子をオンすると、第1の1次巻線が、第2の1次巻線の通電磁束とは逆方向の通電磁束を発生し、2次巻線に追加される磁気エネルギが弱められ、2次電流を減少させることができる。また、第2のスイッチング素子をオンにしたままで、第1のスイッチング素子をオンするので、第2の1次巻線には逆起電力が発生せず、2次電流を緩やかに減少させることができる。よって、第2のスイッチング素子のオン期間中に第1のスイッチング素子をオンオフすることにより、2次電流が増加し過ぎず、減少し過ぎないようにでき、2次電流を適度に増加させることができる。よって、着火性を向上させつつ、点火プラグの電極消耗の増加を抑制することができる。
図面の簡単な説明
[0011]
[図1] 実施の形態1に係る点火装置の概略回路図である。
[図2] 実施の形態1に係る制御装置のハードウェア構成図である。
[図3] 実施の形態1に係る第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理を説明するフローチャートである。
[図4] 実施の形態1に係る制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
[図5] 実施の形態2に係る制御装置のハードウェア構成図である。
[図6] 実施の形態2に係るオンオフ計画データの設定例を示す図である。
[図7] 実施の形態2に係る制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
[図8] 実施の形態3に係る第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理を説明するフローチャートである。
[図9] 実施の形態3に係る制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
[図10] 実施の形態4に係る第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理を説明するフローチャートである。
[図11] 実施の形態4に係る制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
発明を実施するための形態
[0012]
1.実施の形態1
実施の形態1に係る点火装置10について図面を参照して詳細に説明する。図1は、実施の形態1に係る点火装置10の基本構成を示す電気回路図である。図1に示すように、点火装置10は、点火プラグ5、トランス3、第1のスイッチング素子1、第2のスイッチング素子2、2次電流検出回路7、及び制御装置4等を備えている。
[0013]
1-1.点火装置の基本構成
点火プラグ5は、ギャップを介して対向する第1電極5Aと第2電極5Bとを有し、燃焼室内の可燃混合気を点火する。点火プラグ5の第1電極5Aと第2電極5Bは、内燃機関の燃焼室内(気筒内)に配置される。第1電極5Aは、2次巻線3cに接続され、第2電極5Bはグランドに接続される。
[0014]
トランス3は、通電により通電磁束が生じる第1の1次巻線3aと、通電により第1の1次巻線3aの通電磁束とは逆方向の通電磁束が生じる第2の1次巻線3bと、第1の1次巻線3a及び第2の1次巻線3bに磁気結合され、点火プラグ5に放電エネルギを供給する2次巻線3cと、を有している。第1の1次巻線3a、第2の1次巻線3b、及び2次巻線3cは、共通の鉄心に巻装されている。
[0015]
第1の1次巻線3aの一端及び第2の1次巻線3bの他端は、同一の直流電源6にされ、第1の1次巻線3aの他端が、第1のスイッチング素子1を介してグランドに接続され、第2の1次巻線3bの一端が、第2のスイッチング素子2を介してグランドに接続されている。2次巻線3cの一端は、点火プラグ5の第1電極5Aに接続され、2次巻線3cの他端はグランド側に接続されている。
[0016]
第1のスイッチング素子1をオンして第1の1次巻線3aを通電した時に生じる磁束の方向と、第2のスイッチング素子2をオンして第2の1次巻線3bを通電した時に生じる磁束の方向とが、互いに逆方向になるように、各巻線が巻線され、直流電源6に接続されている。
[0017]
第1の1次巻線3aと2次巻線3cとの巻き数比(=2次巻線の巻き数/第1の1次巻線の巻き数)は、第1のスイッチング素子1を所定の時間だけオンした後にオフした際に点火プラグ5に生じる電圧が、点火プラグ5の絶縁破壊電圧以上になるように設定されており、例えば、100程度である。トランス3と第1のスイッチング素子1とは、フライバックコンバータのように構成されているため、巻き数比倍以上の電圧を点火プラグ5に印加できる。第2の1次巻線3bと2次巻線3cとの巻き数比(=2次巻線の巻き数/第2の1次巻線の巻き数)は、第2のスイッチング素子2をオンした時に点火プラグ5に生じる電圧が、放電維持電圧以上になるように設定されており、例えば、200倍から400倍程度である。
[0018]
したがって、第2の1次巻線3bの巻き数は、第1の1次巻線3aよりも巻き数が少なくなるように構成されており、第2の1次巻線3bの巻き数は第1の1次巻線3aの1/2から1/4となる。よって、第2の1次巻線3bの通電磁束よりも、第1の1次巻線3aの通電磁束の方が強くなっており、第2の1次巻線3bの通電中に、第1の1次巻線3aを通電させることにより、2次電流I2を減少させることができる。このような構成により、第1のスイッチング素子1の動作により点火プラグ5の電極間に絶縁破壊を発生させることができ、第2のスイッチング素子2の動作により点火プラグ5の電極間における放電維持が可能となる。
[0019]
第1のスイッチング素子1は、直流電源6から第1の1次巻線3aへの通電をオンオフするスイッチング素子である。第1のスイッチング素子1には、制御装置4から出力された駆動信号S_sw1が入力され、駆動信号S_sw1により第1のスイッチング素子1がオンオフされる。
[0020]
第2のスイッチング素子2は、直流電源6から第2の1次巻線3bへの通電をオンオフするスイッチング素子である。第2のスイッチング素子2には、制御装置4から出力された駆動信号S_sw2が入力され、駆動信号S_sw2により第2のスイッチング素子2がオンオフされる。
[0021]
第1のスイッチング素子1及び第2のスイッチング素子2には、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、又はMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等が用いられる。各スイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されてもよい。
[0022]
第1のスイッチング素子1を所定の時間(例えば、2msから10ms程度)オンしたあとにオフすることによって、点火プラグ5の電極間に絶縁破壊を発生させる。このとき、第1のスイッチング素子1を流れる電流は最大5Aから20A程度である。点火プラグ5の電極間に絶縁破壊が生じた後に、第2のスイッチング素子2を所定の時間(例えば、200usから3ms程度)オンすることによって、点火プラグ5の電極間に放電を維持しつつ追加の電流を供給する。このとき、第2のスイッチング素子2を流れる電流は最大10Aから50A程度となる。したがって、第2のスイッチング素子2の電流定格値は、第1のスイッチング素子1の電流定格値よりも大きくすることが望ましい。
[0023]
電流定格値の大きいスイッチング素子は、一般的にオン時の抵抗が低い。よって、電流による素子の過剰発熱、及び過渡発熱による素子破壊を抑制することができる。また、一般的にチップサイズの大きい素子ほど電流定格値が大きいため、第2のスイッチング素子2のチップサイズが第1のスイッチング素子1のチップサイズよりも大きければ、同様の効果を得られる。
[0024]
第1のスイッチング素子1は、第2のスイッチング素子2のオン期間中にオンオフされる(スイッチングされる)。よって、第1のスイッチング素子1のスイッチング時間(立ち下がり時間、立ち上がり時間、上昇時間、下降時間)は、第2のスイッチング素子2のスイッチング時間よりも短いことが望ましい。数msの第2のスイッチング素子2のオン期間中に、第1のスイッチング素子1を高周波でオンオフでき、後述する2次電流のピークを低減する制御を行い易い。また短いスイッチング時間は、スイッチング損失の低減にも寄与する。
[0025]
2次電流検出回路7は、点火プラグ5の火花放電中に2次巻線3cに流れる2次電流I2を検出するための回路である。2次電流検出回路7は、2次電流I2の放電経路上に直列接続された抵抗(以下、2次電流検出抵抗7と称す)である。2次電流検出抵抗7の低電圧側端子は、グランドに接続され、2次電流検出抵抗7の高電圧側端子は、2次巻線3cの他端に接続されている。2次電流検出抵抗7の高電圧側端子の電圧が制御装置4に入力される。2次電流検出回路7は、2次電流I2の放電経路上に配置されたカレントトランス又はホールセンサであってもよい。
[0026]
1-2.制御装置
本実施の形態では、制御装置4は、内燃機関を制御する内燃機関の制御装置とされている。制御装置4の各機能は、制御装置4が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置4は、図2に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りをする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、及び演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
[0027]
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、2次電流検出回路7、及び内燃機関の各種センサ21(クランク角度センサ、カム角センサ、吸気量検出センサ、圧力センサ、水温センサ、電源電圧センサ等)が接続され、これらの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、第1のスイッチング素子1、第2のスイッチング素子2、及び内燃機関の各種の電気負荷22(インジェクタ、排気再循環バルブ等)が接続され、これらに演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。第一のスイッチング素子1に接続される駆動回路のローパスフィルタのカットオフ周波数は、100kHz以上に設定されることが望ましい。
[0028]
そして、制御装置4が備える各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の制御装置4の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、制御装置4が用いる制御設定データ等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置4の各機能について詳細に説明する。
[0029]
制御装置4は、基本的な制御として、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、内燃機関の回転速度、充填効率(気筒内の圧力情報)、冷却水温度、排気再循環率等の内燃機関の運転状態を検出し、運転状態に基づいて、点火時期、目標空燃比、燃料噴射量、排気再循環バルブの制御量等を算出し、インジェクタ及び排気再循環バルブ等の内燃機関の各種の電気負荷22、第1のスイッチング素子1、及び第2のスイッチング素子2等を駆動制御する。
[0030]
<点火制御>
制御装置4は、第1のスイッチング素子1をオンして第1の1次巻線3aへの通電をオンさせた後、第1のスイッチング素子1をオフして第1の1次巻線3aへの通電をオフさせ、点火プラグ5に火花放電を発生させる。
[0031]
制御装置4は、第1の1次巻線3aへの通電期間と点火時期(点火クランク角度)を算出する。本実施の形態では、制御装置4は、内燃機関の運転状態に基づいて、通電期間及び点火時期を決定する。内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率(気筒内の圧力)、内燃機関の回転速度、排気再循環率等とされる。
[0032]
制御装置4は、通電期間の間、第1のスイッチング素子1をオンして、第1の1次巻線3aを通電させた後、点火時期で、第1のスイッチング素子1をオフして、第1の1次巻線3aへの通電を遮断させ、2次巻線3cに高電圧を発生させ、点火プラグ5に火花放電を生じさせる。火花放電は、点火プラグ5の鉄心に蓄積されていた磁気エネルギが減少するまで継続する。
[0033]
<第2の1次巻線の通電制御>
制御装置4は、火花放電の期間中に第2のスイッチング素子2をオンにする。火花放電中に第2の1次巻線3bに通電すると、2次巻線3cに追加の磁気エネルギが供給され、電極間を流れる放電電流(2次電流I2)が増加する。これにより、火花放電が強化され、混合気の着火性、火花放電の伸長性が強化される。
[0034]
放電電流が大きいほど、放電が途切れ難く、維持されやすいという傾向がある。第2の1次巻線3bを通電して2次電流I2(放電電流)を増加させることは、放電を長時間維持することによって混合気を着火する確率を高めることを目的としているため、2次電流I2を大きくすることは着火性の向上に寄与する。
[0035]
着火性向上の必要性は、内燃機関の運転状態によって変化するため、第2のスイッチング素子2のオン期間は、内燃機関の運転状態に応じて調整されることが望ましい。そこで、本実施の形態では、制御装置4は、内燃機関の運転状態と、第2のスイッチング素子2のオン時期及びオフ時期の制御パラメータとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の内燃機関の運転状態に対応するオン時期及びオフ時期の制御パラメータを算出する。
[0036]
本実施の形態では、オン時期の制御パラメータは、2次電流I2の下限閾値I2_thLである。下限閾値I2_thLは、後述する第1のスイッチング素子1をオフする閾値と共通化されている。制御装置4は、放電開始後、2次電流I2の検出値が、下限閾値I2_thLよりも小さくなった時に、第2のスイッチング素子2をオンにする。なお、オン時期の制御パラメータは、放電開始後の経過時間とされてもよく、制御装置4は、放電開始後の経過時間が閾値に到達した時に、第2のスイッチング素子2をオンしてもよい。オフ時期の制御パラメータは、放電開始後のオフ時期とされている。制御装置4は、放電開始後の経過時間が、オフ時期になった時に、第2のスイッチング素子2をオフにする。
[0037]
なお、本願では、2次電流I2は、2次電流I2の絶対値を意味するものとする。また、「放電開始後」及び「火花放電の開始後」は、火花放電を発生させるために、第1のスイッチング素子1をオフした後である。
[0038]
オン時期及びオフ時期の制御パラメータは、予備試験等により予め設定されたものが、記憶装置91に格納され、読み出される。或いは、制御装置4は、機械学習等によりオン時期及びオフ時期の制御パラメータを学習し、学習値を用いてもよい。
[0039]
内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率(気筒内の圧力)、内燃機関の回転速度、内燃機関の圧縮比、空燃比、排気再循環率、内燃機関の始動後の経過時間、及び内燃機関の冷却水温度のいずれか一つ以上である。内燃機関の圧縮比は、内燃機関の圧縮比を変更可能な機構が内燃機関に備えられている場合に加えられる。例えば、内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率、内燃機関の回転速度、及び排気再循環率とされる。
[0040]
<第1の1次巻線のオンオフ制御>
一方、第2の1次巻線3bの通電により2次電流I2(放電電流)が増加し過ぎると、点火プラグの電極消耗が増加する。これは、放電電流の増加により発生する熱が増加し、電極を構成する金属体の溶融量が増加することが要因となる。従って、2次電流I2の増加を低くするほど、電極消耗の増加を抑制できる。一方、増加し過ぎた2次電流I2を減少させるために、第2のスイッチング素子2をオフにすると、第2の1次巻線3bに逆起電力が発生し、2次電流I2が減少し過ぎ、着火性が損なわれる場合がある。そのため、第2の1次巻線3bの通電により、2次電流I2が増加し過ぎず、減少し過ぎないよう、2次電流I2を適度に増加させることが望まれる。
[0041]
そこで、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、第1のスイッチング素子1をオンオフする。この構成によれば、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、第1のスイッチング素子1をオンすると、第1の1次巻線3aが、第2の1次巻線3bの通電磁束とは逆方向の通電磁束を発生し、2次巻線3cに追加される磁気エネルギが弱められ、2次電流I2を低下させることができる。また、第2のスイッチング素子2をオンにしたままで、第1のスイッチング素子1をオンするので、第2の1次巻線3bには逆起電力が発生せず、2次電流I2を緩やかに減少させることができる。よって、第2のスイッチング素子2のオン期間中に第1のスイッチング素子1をオンオフすることにより、2次電流I2が増加し過ぎず、減少し過ぎないようにでき、2次電流I2を適度に増加させることができる。よって、着火性を向上させつつ、点火プラグの電極消耗の増加を抑制することができる。
[0042]
<2次電流に応じたオンオフ制御>
本実施の形態では、制御装置4は、2次電流検出回路7の出力信号に基づいて、2次電流I2を検出する。そして、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、2次電流I2の検出値に基づいて、第1のスイッチング素子1をオンオフする。この構成によれば、2次電流I2の検出値に基づいているので、精度良く、2次電流I2を適度に増加させ、2次電流I2を増加させ過ぎないようにできる。
[0043]
本例では、制御装置4は、第2のスイッチング素子のオン期間中に、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなった時に、第1のスイッチング素子1をオンし、第1のスイッチング素子1をオンした後、2次電流I2の検出値が、上限閾値I2_thH以下の値に設定された下限閾値I2_thLよりも小さくなった時に、第1のスイッチング素子1をオフするように構成されている。以下で説明する例では、下限閾値I2_thLが、上限閾値I2_thHよりも小さい値に設定されているが、同じ値に設定されてよい。
[0044]
この構成によれば、2次電流I2を、精度良く、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの範囲内に制御できる。上限閾値I2_thHの設定値により、点火プラグの電極消耗の増加抑制を管理でき、下限閾値I2_thLの設定値により、着火性の向上を管理できる。
[0045]
着火性の向上及び電極消耗の増加抑制を達成できる、上限閾値I2_thHの最適な設定値及び下限閾値I2_thLの最適な設定値は、内燃機関の運転状態によって変化する。例えば、気筒内の流動が大きく、放電が吹き流されて途絶しやすい運転条件であれば、放電電流を大きく維持することが望ましい。しかし、放電電流が過度に大きければ着火性を向上できても電極消耗量が大きくなるため、点火プラグの寿命が短くなる。よって、着火性と電極消耗とはトレードオフの関係にあるため、内燃機関の運転状態に基づいて適切な2次電流(放電電流)の値が決定されることが望ましい。
[0046]
そこで、制御装置4は、内燃機関の運転状態と、上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の内燃機関の運転状態に対応する上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLを算出する。
[0047]
内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率(気筒内の圧力)、内燃機関の回転速度、内燃機関の圧縮比、空燃比、排気再循環率、内燃機関の始動後の経過時間、及び内燃機関の冷却水温度のいずれか一つ以上である。内燃機関の圧縮比は、内燃機関の圧縮比を変更可能な機構が内燃機関に備えられている場合に加えられる。例えば、内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率、内燃機関の回転速度、及び排気再循環率とされる。
[0048]
上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLは、予備試験等により予め設定されたものが、記憶装置91に格納され、読み出される。或いは、制御装置4は、失火せずに点火が可能であった電流値を判定し、判定した電流値に基づいて、機械学習等により上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLを学習し、学習値を用いてもよい。
[0049]
<オンオフ制御のフローチャート>
このオンオフ制御の処理は、図3に示すフローチャートのように構成できる。制御装置4は、演算周期毎に図3のフローチャートの処理を繰り返し実行する。まず、ステップS101で、制御装置4は、第2のスイッチング素子2(駆動信号S_sw2)をオン(1)にしているか否かを判定する。制御装置4は、第2のスイッチング素子2がオンにされていないと判定した場合は、第2のスイッチング素子2のオン期間中でないので、ステップS106に進み、第1のスイッチング素子1(駆動信号S_sw1)をオフ(0)にした後、処理を終了する。一方、制御装置4は、第2のスイッチング素子2がオンにされていると判定した場合は、第2のスイッチング素子のオン期間中であるので、ステップS102に進む。
[0050]
ステップS102で、制御装置4は、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きいか否かを判定する。制御装置4は、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きいと判定した場合は、ステップS103に進む。ステップS103で、制御装置4は、第1のスイッチング素子1(駆動信号S_sw1)をオン(1)に設定した後、処理を終了する。一方、制御装置4は、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくないと判定した場合は、ステップS104に進む。
[0051]
ステップS104で、制御装置4は、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さいか否かを判定する。制御装置4は、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さいと判定した場合は、ステップS105に進み、第1のスイッチング素子1(駆動信号S_sw1)をオフ(0)にする。一方、制御装置4は、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さくないと判定した場合は、処理を終了する。
[0052]
<制御挙動>
図4に示すタイムチャートを用いて、制御挙動を説明する。図4において、2次電流I2は、絶対値で示されている。図4の時刻t1において、制御装置4は、通電開始タイミングで、第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1を、オフ(0)からオン(1)に切り替え、第1の1次巻線3aに通電し、1次電流I1を流し、鉄心に磁気エネルギを蓄積させる。
[0053]
その後、制御装置4は、通電期間が経過した時刻t2において、駆動信号S_sw1を、オンからオフに切り替えて、第1の1次巻線3aの通電を遮断すると、2次巻線3cに負の高電圧の2次電圧が発生し、点火プラグ5の第1電極5Aに印加されて、その電位が急峻に低下し、絶縁破壊電圧に至ると、点火プラグ5の第1電極5Aと第2電極5Bとのギャップ間に火花放電が発生する。火花放電が開始すると、2次電圧は、絶縁破壊電圧から増加し、放電維持電圧になる。
[0054]
時刻t2で、火花放電が開始すると、2次電流I2(絶対値)がステップ的にゼロから増加した後、鉄心に蓄積されていた磁気エネルギが減少するに従って、次第に減少していく。
[0055]
時刻t3で、制御装置4は、2次電流I2の検出値が、下限閾値I2_thLより小さくなったので、第2のスイッチング素子2への駆動信号S_sw2を、オフ(0)からオン(1)に切り替え、第2の1次巻線3bに通電する。通電開始後、第2の1次巻線3bに流れる第2の1次電流I12が次第に増加していき、それに応じて、第2の1次巻線3bが発生する通電磁束が次第に増加する。第2の1次巻線3bの通電磁束は、鉄心に生じている磁束と同じ方向の磁束であるので、鉄心を介して2次巻線3cに追加供給される磁気エネルギが次第に増加し、2次電流I2も次第に増加していく。
[0056]
時刻t4で、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなったので、制御装置4は、第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1を、オフからオンに切り替え、第1の1次巻線3aに通電する。第1のスイッチング素子1を導通させることにより、2次巻線3cに追加供給されていた電流及び鉄心に蓄積されていた磁気エネルギの一部が、第1の1次巻線3aに流れるようになるため、2次電流I2が低下する。このとき制御装置4は、第2のスイッチング素子2に流れる電流を遮断することなく、第1のスイッチング素子1に電流を流しているため、第2の1次巻線3bには逆起電力が発生せず、第2の1次電流I12及び2次電流I2は緩やかに減少する。このように、第2のスイッチング素子2をオンにしたままで、第1のスイッチング素子1をオンするので、2次電流I2を緩やかに減少させることができる。よって、第2のスイッチング素子2をオフして2次電流I2を急峻に低下させるよりも、2次電流を一定値以上に維持することが容易となる。
[0057]
時刻t5で、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さくなったので、制御装置4は、第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1を、オンからオフに切り替え、第1の1次巻線3aの通電を遮断する。第1の1次巻線3aに電流が流れなくなるため、第2の1次巻線3bから供給されていた電流が2次巻線3cに流れ、2次電流I2が再び次第に増加する。
[0058]
そして、時刻t6で、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなったので、制御装置4は、第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1を、オフからオンに切り替え、第1の1次巻線3aに通電する。その後、2次電流I2が次第に減少していき、時刻t7で、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さくなったので、制御装置4は、第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1を、オンからオフに切り替え、第1の1次巻線3aの通電を遮断する。時刻t8で、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオフ時期になったので、第2のスイッチング素子2への駆動信号S_sw2を、オンからオフに切り替えると共に、第1のスイッチング素子1のオンオフ制御を停止し、第1のスイッチング素子1をオフのままにする。
[0059]
このように、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、2次電流I2の検出値に応じて、第1のスイッチング素子1をオンオフすることにより、2次電流I2を、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの範囲内に精度よく維持することができ、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0060]
<転用例>
上記の実施の形態では、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値に応じて、第1のスイッチング素子1をオンオフする場合を例に説明した。しかし、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値を用いて制御する必要はなく、例えば、制御装置4は、1点火周期における動作を事前に決定しておき、次の点火周期においては、2次電流I2の検出値に関わらず、事前に決定した動作に従って、第1のスイッチング素子1をオンオフしてもよい。
[0061]
上記の実施の形態では、上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLが、1回の点火制御期間中に変化されない場合を例に説明した。しかし、制御装置4は、1回の制御期間中に、上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLを変化させてもよい。例えば、放電期間の後半では、気筒内の圧力が高くなり、放電維持又は着火が困難になる傾向がある。制御装置4は、1回の放電期間中において、火花放電の開始後の経過時間が増加するに従って、下限閾値I2_thLを増加させるように構成されてもよい。この構成によれば、放電期間の後半においても、良好な着火性能を維持することができる。
[0062]
2.実施の形態2
次に、実施の形態2に係る点火装置10について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る点火装置10の基本的な構成及び処理は実施の形態1と同様である。図5は、実施の形態2に係る点火装置10の基本構成を示す電気回路図である。本実施の形態では、点火装置10に、2次電流検出回路7が設けられておらず、電源電圧検出回路8が設けられており、それに伴って、制御装置4における第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理が実施の形態1と異なる。
[0063]
電源電圧検出回路8は、直流電源6の電源電圧を検出するための回路である。電源電圧検出回路8は、例えば、分圧抵抗回路からなり、直流電源6の出力電圧に応じた電圧を出力する。或いは、電源電圧検出回路8は、直流電源6の出力電圧を、制御装置4に入力する電線とされてもよい。電源電圧検出回路8には、直流電源6の電源電圧を検出可能な回路であれば、どのような回路が用いられもよい。
[0064]
<運転状態に応じた制御パラメータの設定>
本実施の形態では、制御装置4は、内燃機関の運転状態と、第1のスイッチング素子1及び第2のスイッチング素子2の制御パラメータとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の内燃機関の運転状態に対応する制御パラメータを算出し、算出した制御パラメータに基づいて、火花放電の期間中に第2のスイッチング素子2をオンすると共に、第2のスイッチング素子2のオン期間中に第1のスイッチング素子1をオンオフする。
[0065]
この構成によれば、2次電流検出回路7を設ける必要がなく、運転状態に応じて、適切に2次電流I2を制御することができ、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0066]
例えば、第1のスイッチング素子の制御パラメータは、図6に示すような、経過時間とオン時期及びオン時期との関係が予め設定されたオンオフ計画データとされる。制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン後の経過時間に応じて、第1のスイッチング素子1をオンオフする。例えば、実施の形態1のような2次電流I2の挙動になるように、オンオフ計画データを予め予備試験により設定すればよい。
[0067]
図6のオンオフ計画データでは、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン後の経過時間が0の時に、第1のスイッチング素子1をオフ(0)にし、第2のスイッチング素子2のオン後の経過時間が時間T1になった時に、第1のスイッチング素子1をオン(1)にし、経過時間が時間T2になった時に、第1のスイッチング素子1をオフ(0)にし、経過時間が時間T3になった時に、第1のスイッチング素子1をオン(1)にする。
[0068]
或いは、第1のスイッチング素子の制御パラメータは、パルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)のオンオフ周波数及びオンデューティとされ、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、設定されたオンオフ周波数及びオンデューティに従って、パルス幅変調制御により第1のスイッチング素子1をオンオフすればよい。後述する図7に示すように、本実施の形態では、パルス幅変調制御は、オフ期間から開始される。
[0069]
第1のスイッチング素子の制御パラメータは、内燃機関の運転状態に応じて切り換えられる。例えば、内燃機関の回転速度が高くなると、1回の点火制御期間が短くなるので、それに応じて、例えば、オンオフ周波数が高くなるように制御パラメータを変化させればよい。また、高圧環境、強流動環境では放電維持に必要なエネルギが大きくなるため、2次電流が全体的に大きくなるように、制御パラメータを調整すればよい。
[0070]
例えば、第2のスイッチング素子の制御パラメータは、放電開始後のオン時期及びオン時期が設定されたデータとされる。制御装置4は、放電開始後の経過時間がオン時期になった時に、第2のスイッチング素子2をオンにし、放電開始後の経過時間がオフ時期になった時に、第2のスイッチング素子2をオフにする。例えば、実施の形態1のような2次電流I2の挙動になるように、オン時期及びオン時期のデータを予め予備試験により設定すればよい。
[0071]
第2のスイッチング素子の制御パラメータは、内燃機関の運転状態に応じて切り換えられる。例えば、内燃機関の回転速度が高くなると、1回の点火制御期間が短くなるので、それに応じて、例えば、第2のスイッチング素子のオン期間が短くなるように、制御パラメータを変化させればよい。また、高圧環境、強流動環境では放電維持に必要なエネルギが大きくなるため、2次電流が全体的に大きくなるように、オン時期が早められればよい。
[0072]
内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率(気筒内の圧力)、内燃機関の回転速度、内燃機関の圧縮比、空燃比、排気再循環率、内燃機関の始動後の経過時間、及び内燃機関の冷却水温度のいずれか一つ以上である。内燃機関の圧縮比は、内燃機関の圧縮比を変更可能な機構が内燃機関に備えられている場合に加えられる。例えば、内燃機関の運転状態は、内燃機関の充填効率、内燃機関の回転速度、及び排気再循環率とされる。
[0073]
<電源電圧に応じた制御パラメータの変更>
電源電圧V1に比例して、第1の1次巻線3a及び第2の1次巻線3bに流れる電流が変化するため、電源電圧V1に応じて2次電流I2の挙動が変化する。図7に電源電圧V1が通常の時(左側のグラフ)と、通常より大きい時(中央のグラフ)と、通常より小さい時(右側のグラフ)の2次電流I2の挙動を示す。2次電流I2は、絶対値で示されている。なお、第1のスイッチング素子1及び第2のスイッチング素子2は、後述するように、適切に制御されている。
[0074]
火花放電を生じるための最初の第1のスイッチング素子のオン期間は、電源電圧V1の通常時、大きい時、小さい時で変化していない。そのため、オン期間の間に鉄心に蓄積される磁気エネルギは、電源電圧V1に比例して変化し、放電開始後の2次電流I2の初期値が変化している。よって、放電開始後、2次電流I2が下限閾値I2_thLに到達するまでの期間は、電源電圧V1に比例して変化している。また、電源電圧V1に比例して、第2のスイッチング素子のオンによる2次電流I2の増加速度が変化している。また、電源電圧V1に比例して、第1のスイッチング素子のオンによる2次電流I2の減少速度が変化している。よって、2次電流I2を、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの範囲内に制御するための、第1のスイッチング素子のオンオフ周波数は、電源電圧V1に比例して変化している。なお、図7には、説明の容易化のために、2次電流I2、上限閾値I2_thH、及び下限閾値I2_thLが示されているが、制御装置4は、実際にはこれらを用いて制御を行わない。
[0075]
そこで、制御装置4は、電源電圧V1の検出値に基づいて、第1のスイッチング素子1及び第2のスイッチング素子2の制御パラメータを変化させ、変化された制御パラメータに基づいて、火花放電の期間中に第2のスイッチング素子2をオンすると共に、第2のスイッチング素子のオン期間中に第1のスイッチング素子1をオンオフする。
[0076]
例えば、図7の例のように、電源電圧V1の検出値が大きくなるに従って、放電開始後の第2のスイッチング素子2のオン時期が早められる。また、電源電圧V1の検出値が大きくなるに従って、第2のスイッチング素子のオン期間中の第1のスイッチング素子のオンオフ周波数が高められる。
[0077]
<運転状態及び電源電圧に応じた制御パラメータの変更>
本実施の形態では、内燃機関の運転状態に応じても、制御パラメータが変化させる。そこで、制御装置4は、電源電圧V1及び内燃機関の運転状態と、第1のスイッチング素子1及び第2のスイッチング素子2の制御パラメータとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の電源電圧V1の検出値及び内燃機関の運転状態に対応する制御パラメータを算出し、算出した制御パラメータに基づいて、火花放電の期間中に第2のスイッチング素子2をオンすると共に、第2のスイッチング素子2のオン期間中に第1のスイッチング素子1をオンオフする。或いは、内燃機関の運転状態に、電源電圧V1を必ず含ませればよい。
[0078]
<制御挙動>
図7に示す例は、第1のスイッチング素子の制御パラメータが、図6に示したようなオンオフ計画データである場合の例である。2次電流I2が、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの間を振動するように、予備試験等により、内燃機関の運転状態毎及び電源電圧V1毎にオンオフ計画データが予め設定されている。
[0079]
詳細な説明は省略するが、制御装置4は、放電開始後の経過時間が、内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の検出値に基づいて決定された第2のスイッチング素子のオン時期に到達した時(時刻t13、t23、t33)に、第2のスイッチング素子(S_sw2)をオン(1)している。制御装置4は、第2のスイッチング素子をオンした後の経過時間が、運転状態及び電源電圧V1の検出値に基づいて決定された1回目のオン時期に到達した時(時刻t14、t24、t34)に、第1のスイッチング素子(S_sw1)をオン(1)している。制御装置4は、第2のスイッチング素子をオンした後の経過時間が、運転状態及び電源電圧V1の検出値に基づいて決定された1回目のオフ時期に到達した時(時刻t15、t25、t35)に、第1のスイッチング素子をオフ(0)している。その後、同様に、制御装置4は、第2のスイッチング素子をオンした後の経過時間が、2回目以降のオン時期又はオフ時期に到達する毎に、第1のスイッチング素子をオン又はオフする。そして、制御装置4は、放電開始後の経過時間が、運転状態及び電源電圧V1の検出値に基づいて決定された第2のスイッチング素子のオフ時期に到達した時(時刻t16、t26、t36)に、第2のスイッチング素子をオフ(0)し、第1のスイッチング素子をオフ(0)している。
[0080]
3.実施の形態3
次に、実施の形態3に係る点火装置10について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る点火装置10の基本的な構成及び処理は実施の形態1と同様である。本実施の形態では、制御装置4における第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理が実施の形態1と異なる。
[0081]
本実施の形態では、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、パルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)により第1のスイッチング素子1をオンオフする。この構成によれば、2次電流I2の検出遅れ等に影響されずに、計画的に第1のスイッチング素子1をオンオフできる。
[0082]
制御装置4は、第2のスイッチング素子のオン期間中に、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなった時に、パルス幅変調制御を開始する。パルス幅変調制御は、オン期間から開始される。この構成によれば、パルス幅変調制御を開始することにより、2次電流I2が上限閾値I2_thHよりも大きくなることを抑制できる。
[0083]
制御装置4は、2次電流I2の検出値が目標範囲内に収まるように、パルス幅変調制御のオンデューティを変化させる。この構成によれば、2次電流I2の検出遅れ等に影響され難いパルス幅変調制御の利点を生かしつつ、2次電流I2を精度良く目標範囲内に収めることができる。よって、目標範囲の設定により、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0084]
各点火周期のオンデューティの初期値は、実施の形態2と同様に内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定されてもよい。又は、前回の点火周期におけるオンデューティの最終値に設定されてもよい。この場合は、最初の点火周期におけるオンデューティは、0.5程度に設定されればよい。
[0085]
或いは、オンデューティは、実施の形態2と同様に内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定されたフィードフォーワード値と、2次電流I2の検出値に応じて変化させるフィードバック値との合計値とされてもよく、フィードバック値は、次回の点火周期に引き継がれてもよく、点火周期毎にリセットされてもよい。
[0086]
パルス幅変調制御のオンオフ周波数は、実施の形態2と同様に、内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定され、例えば、1kHzから50kHz程度の範囲内に設定される。
[0087]
本実施の形態では、制御装置4は、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなった場合に、パルス幅変調制御のオンデューティを増加させる。この構成によれば、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHを上回ることを抑制でき、上限閾値I2_thHの設定値により、電極消耗の増加抑制を管理できる。
[0088]
また、制御装置4は、2次電流I2の検出値が、上限閾値I2_thH以下に設定された下限閾値I2_thLよりも小さくなった場合に、パルス幅変調制御のオンデューティを減少させる。この構成によれば、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLを下回ることを抑制でき、下限閾値I2_thLの設定値により、着火性の向上を管理できる。
[0089]
上限閾値I2_thH及び下限閾値I2_thLは、実施の形態1と同様に、運転状態に基づいて設定される。なお、以下で説明する例では、下限閾値I2_thLは、上限閾値I2_thHよりも小さい値に設定されているが、上限閾値I2_thHと同じ値に設定されてもよい。
[0090]
なお、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとが同じ値に設定されている場合は、制御装置4は、上限閾値I2_thH(又は下限閾値I2_thL)と2次電流I2の検出値との偏差に基づいた、積分制御又は比例積分制御等のフィードバック制御により、パルス幅変調制御のオンデューティを変化させてもよい。
[0091]
<オンオフ制御のフローチャート>
本実施の形態に係るオンオフ制御の処理は、図8に示すフローチャートのように構成できる。制御装置4は、演算周期毎に図8のフローチャートの処理を繰り返し実行する。まず、ステップS201で、制御装置4は、第2のスイッチング素子2(駆動信号S_sw2)をオン(1)にしているか否かを判定する。制御装置4は、第2のスイッチング素子2がオンにされていないと判定した場合は、第2のスイッチング素子2のオン期間中でないので、ステップS205に進み、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオフ(0)に設定し、ステップS206に進み、第1のスイッチング素子1(駆動信号S_sw1)をオフ(0)にして、パルス幅変調制御の実行を停止し、処理を終了する。一方、制御装置4は、ステップS201で第2のスイッチング素子2がオンにされていると判定した場合は、ステップS202に進む。
[0092]
ステップS202で、制御装置4は、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMがオン(1)に設定されているか否かを判定する。制御装置4は、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMがオン(1)にされていないと判定した場合は、ステップS203に進み、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHより大きいか否かを判定する。制御装置4は、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHより大きいと判定した場合は、ステップS204に進み、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオン(1)に設定し、パルス幅変調制御を開始する。制御装置4は、パルス幅変調制御の開始時は、オン期間から開始する。
[0093]
一方、制御装置4は、ステップS202でパルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMがオン(1)にされていると判定した場合は、ステップS207に進み、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きいか否かを判定する。制御装置4は、ステップS207で2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きいと判定した場合は、ステップS208に進み、オンデューティDutyを、変化幅Δdutyだけ増加させた後、処理を終了する。増加されたオンデューティDutyは、実行中のパルス幅変調制御に反映される。変化幅Δdutyは、演算周期、放電期間、制御応答を考慮して設定されるが、例えば、0.05程度に設定される。変化幅Δdutyが小さいほど、細かく電流値を調整できるが制御応答が遅くなり、変化幅Δdutyが大きいほど制御応答が早くなるが、細かい電流値を調整しにくくなる。
[0094]
一方、制御装置4は、ステップS207で2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくないと判定した場合は、ステップS209に進み、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さいか否かを判定する。制御装置4は、ステップS209で2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さいと判定した場合は、ステップS210に進み、オンデューティDutyを、変化幅Δdutyだけ減少させた後、処理を終了する。減少されたオンデューティDutyは、実行中のパルス幅変調制御に反映される。一方、制御装置4は、ステップS209で2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLよりも小さくないと判定した場合は、オンデューティDutyを変化させずに処理を終了する。
[0095]
<制御挙動>
図9に示すタイムチャートを用いて、制御挙動を説明する。図9において、2次電流I2は、絶対値で示されている。図9の時刻t51から時刻t52は、図4の時刻t1から時刻t2までと同様であるので、説明を省略する。
[0096]
時刻t52で、火花放電が開始すると、2次電流I2がステップ的にゼロから増加した後、鉄心に蓄積されていた磁気エネルギが減少するに従って、次第に減少していく。
[0097]
時刻t53で、制御装置4は、2次電流I2の検出値が、下限閾値I2_thLより小さくなったので、第2のスイッチング素子2への駆動信号S_sw2を、オフ(0)からオン(1)に切り替え、第2の1次巻線3bに通電する。通電開始後、2次電流I2が次第に増加していく。
[0098]
時刻t54で、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなったので、制御装置4は、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオン(1)にし、パルス幅変調制御を開始している。制御装置4は、パルス幅変調制御の開始時にオン期間から開始するので、時刻t54で第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1がオン(1)されている。その後、時刻t55までは、2次電流I2は、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLの範囲内に収まっているので、オンデューティDutyは変化されていないが、2次電流I2の平均値が次第に減少している。
[0099]
時刻t55で、2次電流I2の検出値が下限閾値I2_thLより小さくなったので、制御装置4は、オンデューティDutyを、変化幅Δdutyだけ減少させている。オンデューティDutyの減少により、2次電流I2の平均値が次第に増加している。そして、時刻t56で、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHより大きくなったので、制御装置4は、オンデューティDutyを、変化幅Δdutyだけ増加させている。そして、時刻t57で、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオフ時期になったので、第2のスイッチング素子2を、オンからオフに切り替えると共に、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオフ(0)にし、パルス幅変調制御を停止し、第1のスイッチング素子1をオフにする。
[0100]
このように、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、2次電流I2の検出値に応じて、第1のスイッチング素子1のパルス幅変調制御のオンデューティを変化させることで、2次電流I2を、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの範囲内に精度よく維持することができ、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0101]
<転用例>
上記の実施の形態3では、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値に応じて、パルス幅変調制御のオンデューティを変化させる場合を例に説明した。しかし、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値を用いて制御する必要はなく、例えば、制御装置4は、1点火周期における動作を事前に決定しておき、次の点火周期においては、2次電流I2の検出値に関わらず、事前に決定した動作に従って、第1のスイッチング素子1をオンオフしてもよい。
[0102]
4.実施の形態4
次に、実施の形態4に係る点火装置10について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る点火装置10の基本的な構成及び処理は実施の形態1と同様である。本実施の形態では、制御装置4における第1のスイッチング素子のオンオフ制御の処理が実施の形態1と異なる。
[0103]
実施の形態3と同様に、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、パルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)により第1のスイッチング素子1をオンオフする。
[0104]
制御装置4は、第2のスイッチング素子のオン期間中に、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなった時に、パルス幅変調制御を開始する。パルス幅変調制御は、オン期間から開始される。
[0105]
本実施の形態では、制御装置4は、2次電流I2の検出値が目標範囲内に収まるように、パルス幅変調制御のオンオフ周波数fpwmを変化させる。この構成によれば、オンオフ周波数fpwmを増加させることにより、2次電流I2の振幅を減少させ、オンオフ周波数fpwmを減少させることにより、2次電流I2の振幅を増加させることができる。よって、2次電流I2の検出値が目標範囲内に収まるように、2次電流I2の振動範囲を変化させることができ、目標範囲の設定により、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0106]
制御装置4は、2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも大きくなった場合に、パルス幅変調制御のオンオフ周波数fpwmを増加させる。この構成によれば、2次電流I2の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも大きくならないようにでき、目標振幅ΔI2_thの設定により、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0107]
また、制御装置4は、2次電流の検出値の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも小さくなった場合に、パルス幅変調制御のオンオフ周波数fpwmを減少させる。この構成によれば、2次電流I2の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも小さくならないようにでき、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制を適切にバランスさせることができる。
[0108]
制御装置4は、オンオフ周波数fpwmの1周期内の2次電流I2の検出値の最大値と最小値を判定し、最大値と最小値との偏差により振幅ΔI2を算出する。
[0109]
制御装置4は、内燃機関の運転状態と、目標振幅ΔI2_thとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の内燃機関の運転状態に対応する目標振幅ΔI2_thを算出する。なお、内燃機関の運転状態には、上述した種類の運転状態が用いられる。
[0110]
目標振幅ΔI2_thは、予備試験等により予め設定されたものが、記憶装置91に格納され、読み出される。或いは、制御装置4は、機械学習等により目標振幅ΔI2_thを学習し、学習値を用いてもよい。
[0111]
或いは、目標振幅ΔI2_thは、上記の各実施の形態で用いた上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの偏差により設定されてもよい(ΔI2_th=I2_htH-I2_htL)。
[0112]
各点火周期のオンオフ周波数fpwmの初期値は、実施の形態2と同様に内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定されてもよい。又は、前回の点火周期におけるオンオフ周波数fpwmの最終値に設定されてもよい。この場合は、最初の点火周期におけるオンオフ周波数fpwmは、1kHzから50kHz程度の範囲内に設定されればよい。
[0113]
或いは、オンオフ周波数fpwmは、実施の形態2と同様に内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定されたフィードフォーワード値と、2次電流I2の検出値に応じて変化させるフィードバック値との合計値とされてもよく、フィードバック値は、次回の点火周期に引き継がれてもよく、点火周期毎にリセットされてもよい。
[0114]
パルス幅変調制御のオンデューティは、実施の形態2と同様に、内燃機関の運転状態及び電源電圧V1の一方又は双方に基づいて設定される。或いは、オンデューティは、実施の形態3のように、2次電流I2の検出値に応じて変化されてもよい。
[0115]
なお、制御装置4は、目標振幅ΔI2_thと2次電流I2の検出値の振幅ΔI2との偏差に基づいた、積分制御又は比例積分制御等のフィードバック制御により、パルス幅変調制御のオンオフ周波数fpwmを変化させてもよい。
[0116]
<オンオフ制御のフローチャート>
本実施の形態に係るオンオフ制御の処理は、図10に示すフローチャートのように構成できる。制御装置4は、演算周期毎に図10のフローチャートの処理を繰り返し実行する。まず、図10のステップS301からステップS306は、実施の形態3の図8のステップS201からステップS206と同様であるので説明を省略する。
[0117]
制御装置4は、ステップS302でパルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMがオン(1)にされていると判定した場合は、ステップS307に進み、2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が目標振幅ΔI2_thよりも大きいか否かを判定する。目標振幅ΔI2_thは、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの偏差により設定されてもよい。
[0118]
制御装置4は、ステップS307で2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が目標振幅ΔI2_thよりも大きいと判定した場合は、ステップS308に進み、オンオフ周波数fpwmを、周波数変化幅Δfだけ増加させた後、処理を終了する。増加されたオンオフ周波数fpwmは、実行中のパルス幅変調制御に反映される。周波数変化幅Δfは、演算周期、放電期間、制御応答を考慮して設定されるが、例えば、1kHz程度に設定される。周波数変化幅Δfが小さいほど、細かく電流値を調整できるが制御応答が遅くなり、周波数変化幅Δfが大きいほど制御応答が早くなるが、細かい電流値を調整しにくくなる。
[0119]
一方、制御装置4は、ステップS307で2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が目標振幅ΔI2_thよりも大きくないと判定した場合は、ステップS309に進み、オンオフ周波数fpwmを、周波数変化幅Δfだけ減少させた後、処理を終了する。減少されたオンオフ周波数fpwmは、実行中のパルス幅変調制御に反映される。
[0120]
なお、図10のフローチャートの処理に加えて、図8のフローチャートの処理が行われてもよい。例えば、図10のステップS307からステップS309の処理の後に、図8のステップS207からステップS210の処理が行われればよい。
[0121]
<制御挙動>
図11に示すタイムチャートを用いて、制御挙動を説明する。図11において、2次電流I2は、絶対値で示されている。図11の時刻t61から時刻t62は、図4の時刻t1から時刻t2までと同様であるので、説明を省略する。
[0122]
時刻t62で、火花放電が開始すると、2次電流I2(絶対値)がステップ的にゼロから増加した後、鉄心に蓄積されていた磁気エネルギが減少するに従って、次第に減少していく。
[0123]
時刻t63で、制御装置4は、2次電流I2の検出値が、下限閾値I2_thLより小さくなったので、第2のスイッチング素子2への駆動信号S_sw2を、オフ(0)からオン(1)に切り替え、第2の1次巻線3bに通電する。通電開始後、2次電流I2が次第に増加していく。
[0124]
時刻t64で、2次電流I2の検出値が上限閾値I2_thHよりも大きくなったので、制御装置4は、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオン(1)にし、パルス幅変調制御を開始している。制御装置4は、パルス幅変調制御の開始時にオン期間から開始するので、時刻t64で第1のスイッチング素子1への駆動信号S_sw1がオン(1)されている。第1のスイッチング素子1がオンされた後、2次電流I2は減少する。
[0125]
時刻t65で、制御装置4は、時刻t64で検出した2次電流I2の最大値と、時刻t65で検出した2次電流I2の最小値との偏差に基づいて、2次電流I2の検出値の振幅ΔI2を算出し、振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも大きくなっているので、オンオフ周波数fpwmを増加させている。なお、目標振幅ΔI2_thは、上限閾値I2_thHと下限閾値I2_thLとの偏差に設定されている。
[0126]
その後、時刻t66までは2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも大きいので、オンオフ周波数fpwmが次第に増加されている。時刻t66で、2次電流I2の検出値の振幅ΔI2が、目標振幅ΔI2_thよりも小さくなったので、オンオフ周波数fpwmが減少され、その後は、オンオフ周波数fpwmの増加と減少とが繰り返され、2次電流I2の検出値の振幅ΔI2は、目標振幅ΔI2_th付近に維持されている。
[0127]
そして、時刻t67で、制御装置4は、第2のスイッチング素子2のオフ時期になったので、第2のスイッチング素子2を、オンからオフに切り替えると共に、パルス幅変調制御の実行判定情報S_PWMをオフにし、パルス幅変調制御を停止し、第1のスイッチング素子1をオフにする。
[0128]
このように、第2のスイッチング素子2のオン期間中に、2次電流I2の検出値に応じて、第1のスイッチング素子1のパルス幅変調制御のオンオフ周波数を変化させることで、2次電流I2を、目標範囲内に精度よく維持することができ、着火性の向上及び電極消耗の増加抑制をバランスよく達成することができる。
[0129]
<転用例>
上記の実施の形態3では、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値に応じて、パルス幅変調制御のオンオフ周波数を変化させる場合を例に説明した。しかし、制御装置4は、常に、2次電流I2の検出値を用いて制御する必要はなく、例えば、制御装置4は、1点火周期における動作を事前に決定しておき、次の点火周期においては、2次電流I2の検出値に関わらず、事前に決定した動作に従って、第1のスイッチング素子1をオンオフしてもよい。
[0130]
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
符号の説明
[0131]
1 第1のスイッチング素子、2 第2のスイッチング素子、3 トランス、3a 第1の1次巻線、3b 第2の1次巻線、3c 2次巻線、4 制御装置、5 点火プラグ、6 直流電源、7 2次電流検出回路、8 電源電圧検出回路、10 点火装置、Duty オンデューティ、I1 1次電流、I12 第2の1次電流、I2 2次電流、I2_thH 上限閾値、I2_thL 下限閾値、S_sw1 第1のスイッチング素子の駆動信号、S_sw2 第2のスイッチング素子の駆動信号、V1 電源電圧、fpwm パルス幅変調制御のオンオフ周波数、ΔI2 二次電流の振幅、ΔI2_th 目標振幅
請求の範囲
[請求項1]
通電により通電磁束が生じる第1の1次巻線と、通電により前記第1の1次巻線の通電磁束とは逆方向の通電磁束が生じる第2の1次巻線と、前記第1の1次巻線及び前記第2の1次巻線に磁気結合され、点火プラグに放電エネルギを供給する2次巻線と、を有するトランスと、
直流電源から前記第1の1次巻線への通電をオンオフする第1のスイッチング素子と、
前記直流電源から前記第2の1次巻線への通電をオンオフする第2のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子をオンした後、前記第1のスイッチング素子をオフして、前記点火プラグに火花放電を発生させ、
前記火花放電の期間中に前記第2のスイッチング素子をオンし、
前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、前記第1のスイッチング素子をオンオフする制御装置と、を備えた点火装置。
[請求項2]
前記制御装置は、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、パルス幅変調制御により前記第1のスイッチング素子をオンオフする請求項1に記載の点火装置。
[請求項3]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、前記2次電流の検出値に基づいて、前記第1のスイッチング素子をオンオフする請求項1に記載の点火装置。
[請求項4]
前記制御装置は、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、前記2次電流の検出値が上限閾値よりも大きくなった時に、前記第1のスイッチング素子をオンする請求項3に記載の点火装置。
[請求項5]
前記制御装置は、前記2次電流の検出値が、前記上限閾値以下の値に設定された下限閾値よりも小さくなった時に、前記第1のスイッチング素子をオフする請求項4に記載の点火装置。
[請求項6]
前記制御装置は、前記火花放電の開始後の経過時間が増加するに従って、前記下限閾値を増加させる請求項5に記載の点火装置。
[請求項7]
前記制御装置は、内燃機関の運転状態と、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子の制御パラメータとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の前記内燃機関の運転状態に対応する前記制御パラメータを算出し、算出した前記制御パラメータに基づいて、前記火花放電の期間中に前記第2のスイッチング素子をオンすると共に、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に前記第1のスイッチング素子をオンオフする請求項1又は2に記載の点火装置。
[請求項8]
前記直流電源の電源電圧を検出する電源電圧検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記電源電圧及び内燃機関の運転状態と、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子の制御パラメータとの関係が予め設定された制御設定データを参照し、現在の前記電源電圧の検出値及び前記内燃機関の運転状態に対応する前記制御パラメータを算出し、算出した前記制御パラメータに基づいて、前記火花放電の期間中に前記第2のスイッチング素子をオンすると共に、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に前記第1のスイッチング素子をオンオフする請求項1又は2に記載の点火装置。
[請求項9]
前記内燃機関の運転状態は、内燃機関の気筒内の圧力、内燃機関の回転速度、内燃機関の圧縮比、空燃比、排気再循環率、内燃機関の始動後の経過時間、及び内燃機関の冷却水温度のいずれか一つ以上である請求項7又は8に記載の点火装置。
[請求項10]
前記直流電源の電源電圧を検出する電源電圧検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記電源電圧の検出値に基づいて、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子の制御パラメータを変化させ、変化された前記制御パラメータに基づいて、前記火花放電の期間中に前記第2のスイッチング素子をオンすると共に、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に前記第1のスイッチング素子をオンオフする請求項1又は2に記載の点火装置。
[請求項11]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記第2のスイッチング素子のオン期間中に、前記2次電流の検出値が上限閾値よりも大きくなった時に、前記パルス幅変調制御を開始する請求項2に記載の点火装置。
[請求項12]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記2次電流の検出値が目標範囲内に収まるように、前記パルス幅変調制御のオンデューティを変化させる請求項2又は11に記載の点火装置。
[請求項13]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記2次電流の検出値が上限閾値よりも大きくなった場合に、前記パルス幅変調制御のオンデューティを増加させる請求項2、11、及び12のいずれか一項に記載の点火装置。
[請求項14]
前記制御装置は、前記2次電流の検出値が、前記上限閾値以下に設定された下限閾値よりも小さくなった場合に、前記パルス幅変調制御のオンデューティを減少させる請求項13に記載の点火装置。
[請求項15]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記2次電流の検出値が目標範囲内に収まるように、前記パルス幅変調制御のオンオフ周波数を変化させる請求項2、及び11から14のいずれか一項に記載の点火装置。
[請求項16]
前記2次巻線に流れる2次電流を検出する2次電流検出回路を更に備え、
前記制御装置は、前記2次電流の検出値の振幅が、目標振幅よりも大きくなった場合に、前記パルス幅変調制御のオンオフ周波数を増加させる請求項2、及び11から15のいずれか一項に記載の点火装置。
[請求項17]
前記制御装置は、前記2次電流の検出値の振幅が、前記目標振幅よりも小さくなった場合に、前記パルス幅変調制御のオンオフ周波数を減少させる請求項16に記載の点火装置。
[請求項18]
前記第2の1次巻線の巻き数は、前記第1の1次巻線の巻き数よりも少ない請求項1から17のいずれか一項に記載の点火装置。
[請求項19]
前記第2のスイッチング素子の電流定格値は、前記第1のスイッチング素子の電流定格値よりも大きい請求項1から18のいずれか一項に記載の点火装置。
[請求項20]
前記第1のスイッチング素子のスイッチング時間は、前記第2のスイッチング素子のスイッチング時間よりも短い請求項1から19のいずれか一項に記載の点火装置。
図面