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1. WO2012063735 - CARBON THIN FILM, MOLD FOR MOLDING OPTICAL ELEMENT AND METHOD FOR PRODUCING OPTICAL ELEMENT

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明 細 書

発明の名称 カーボン薄膜、光学素子成形用金型及び光学素子の製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0009   0010  

課題を解決するための手段

0011   0012   0013  

発明の効果

0014  

図面の簡単な説明

0015  

発明を実施するための形態

0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080  

実施例

0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122  

産業上の利用可能性

0123  

符号の説明

0124  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7  

図面

1   2   3   4   5   6   7A   7B   8A   8B   9A   9B  

明 細 書

発明の名称 : カーボン薄膜、光学素子成形用金型及び光学素子の製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、基材を保護するための、テトラヘドラルアモルファスカーボンからなるカーボン薄膜、前記カーボン薄膜を表面に備えた光学素子成形用金型、及び前記光学素子成形用金型を用いる光学素子の製造方法に関する。
本願は、2010年11月9日に出願された特願2010-250679号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

背景技術

[0002]
 金型やドリルなどの基材を保護する膜として、テトラヘドラルアモルファスカーボンからなるカーボン薄膜(以下、ta-C薄膜と略記することがある)が実用化されている。
[0003]
そして、ta-C薄膜の成膜方法としては、アークイオンプレーティングをはじめとする、基材に印加したバイアス電圧により、炭素イオンを基材上に堆積させるイオンプレーティングの手法が主に適用されている。この成膜法によれば、ta-C薄膜内部の炭素原子同士の結合として、ダイヤモンドを形成する炭素原子同士の結合であるsp 結合を多く含有させることができるので、ta-C薄膜を非常に硬い(硬度が高い)膜とすることが可能である。
[0004]
 このような、sp 結合を含有するta-C薄膜においては、狭い領域で見ると炭素原子同士がsp 結合の強固なネットワークを形成しているが、広い領域で見ると秩序がないアモルファス構造となっているため、全体が秩序を有する構造の結晶からなる薄膜よりも表面が極めて平滑となり、摩擦係数が0.1以下と極めて小さくなる。このように、ta-C薄膜は、基材上に非常に硬度が高くかつ平滑な皮膜を形成できるので、金型やドリルなどの、加工対象との摺動部分における保護膜として好適であり、広く利用されている。
[0005]
 しかし、硬度が高いta-C薄膜は、内部応力(圧縮応力)が非常に大きいため、外部からの衝撃(接触衝撃)や熱衝撃が加わると、自らの内部応力を解放して基材から剥離し易くなるという問題点があった。また、過剰に厚い膜を成膜すると、内部応力はさらに増加するため、より剥離し易くなる。そのため、薄膜が加工対象との摺動により磨耗して基材上から消失するまでの時間を長くするという、耐久性の向上を目的として、単に膜厚を厚くするという手法は採用できない。ta-C薄膜の基材からの剥離を抑制するためには、ta-C薄膜のsp 結合の含有量を低くして内部応力を小さくし、基材との付着力を大きくすることが考えられる。しかしこの手法によれば、同時に薄膜の硬度も低くなってしまうため、耐磨耗性を向上させることはできない。このように、sp 結合の含有量が一様なta-C薄膜において、耐磨耗性を向上させることは、極めて困難である。
[0006]
 なお、本明細書において、「sp 結合の含有量」とは、ta-C薄膜中におけるsp 結合とsp 結合の総数に対するsp 結合数の割合のことである。
[0007]
 これまでにta-C薄膜の製造方法としては、基材上にta-C薄膜を成膜する際のバイアス電圧を高くして、基材と薄膜との間のミキシングを強くし、さらにこの薄膜上に、sp 結合の含有量が高く、硬度が高い薄膜を形成して、二層構造のta-C薄膜とし、基材との付着力を向上させる方法(特許文献1参照)が開示されている。また、sp 結合の含有量が異なる2つの層を交互に積層した構造のta-C薄膜とし、耐磨耗性を向上させる方法(特許文献2参照)が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開2007-169698号公報
特許文献2 : 特開2008-1951号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0009]
 しかしながら、ta-C薄膜の用途が多様化し、用途によっては従来のta-C薄膜で十分な耐磨耗性が得られないため、硬度が高く、基材からの剥離が抑制された新たなta-C薄膜が求められていた。
[0010]
 本発明の態様は、硬度が高く、基材からの剥離が抑制されたta-C薄膜、前記薄膜を表面に備えた光学素子成形用金型、及び前記光学素子成形用金型を用いる光学素子の製造方法を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

[0011]
 本発明の第一の態様は、テトラヘドラルアモルファスカーボンからなるカーボン薄膜(ta-C薄膜)であって、sp 結合の含有量が隣接する層において互いに異なる三つ以上の層が積層された単位構造を、膜厚方向に複数備えた(ただし、sp 結合の含有量が異なる二層が交互積層されたものを除く)ことを特徴とするカーボン薄膜である。
[0012]
 本発明の第二の態様は、前記第一の態様のカーボン薄膜を表面に備えたことを特徴とする光学素子成形用金型である。
[0013]
 本発明の第三の態様は、前記第二の態様の光学素子成形用金型を用いて被成形物を加圧し、光学素子を成形することを特徴とする光学素子の製造方法である。

発明の効果

[0014]
 本発明の態様によれば、硬度が高く、基材からの剥離が抑制されたta-C薄膜、前記薄膜を表面に備えた光学素子成形用金型、及び前記光学素子成形用金型を用いる光学素子の製造方法を提供できる。

図面の簡単な説明

[0015]
[図1] 本実施形態のカーボン薄膜の一例を示す概略断面図である。
[図2] 本実施形態のカーボン薄膜の一例を示す概略断面図である。
[図3] 本実施形態のカーボン薄膜の一例を示す概略断面図である。
[図4] 本実施形態のカーボン薄膜の一例を示す概略断面図である。
[図5] 本実施形態のカーボン薄膜を製造するための成膜装置を例示する概略構成図である。
[図6] 本実施形態のカーボン薄膜を表面に備えた光学素子成形用金型を例示する概略断面図である。
[図7A] 実施例2で製造したカーボン薄膜を示す模式図である。
[図7B] 実施例6で製造したカーボン薄膜を示す模式図である。
[図8A] 実施例及び比較例における、耐磨耗性(1)の評価結果(時間)と内部応力との関係を表すグラフである。
[図8B] 実施例及び比較例における、耐磨耗性(1)の評価結果(時間)と硬度との関係を表すグラフである。
[図9A] 実施例及び比較例における、耐磨耗性(2)の評価結果(時間)と内部応力との関係を表すグラフである。
[図9B] 実施例及び比較例における、耐磨耗性(2)の評価結果(時間)と硬度との関係を表すグラフである。

発明を実施するための形態

[0016]
 本実施形態のカーボン薄膜(以下、「ta-C薄膜」又は単に「薄膜」と略記することがある)は、sp 結合の含有量が隣接する層において互いに異なる三つ以上の層が積層された単位構造を、膜厚方向に複数備えた(ただし、sp 結合の含有量が異なる二層が交互積層されたものを除く)ことを特徴とする。
[0017]
 本実施形態の薄膜中には、炭素原子間の結合として、sp 結合及びsp 結合が共存した状態となる。この状態において前記単位構造を膜厚方向に複数備えるという、sp 結合含有量の特定の分布を形成することで、硬度を高く維持したまま、基材からの剥離が抑制された薄膜が得られる。ただし、本実施形態の薄膜には、sp 結合の含有量が異なる二層が交互積層されたものは含まれない。ここで、「二層が交互積層された」とは、互いに異なる二層が連続して二回以上繰り返し積層されたことを指す。
[0018]
 前記単位構造を構成する各層において、sp 結合の含有量は一様であり、膜厚方向における明らかな分布を有さない。ここで、「sp 結合の含有量が一様である」とは、sp 結合の含有量が全く同一である場合だけでなく、少なくともsp 結合の含有量の明確な分布が見られないことを意味する。このような層は、後述する製造方法における成膜条件を変化させずに一定とすることで、容易に形成できる。
[0019]
 sp 結合の含有量は、例えば、X線光電子分光法(XPS)により確認できる。XPSにより得られたスペクトルにおいて、C1sに由来するピークは、sp 結合とsp 結合の成分が重畳されて検出される。このピークをsp 結合とsp 結合の成分に分離し、それぞれ分離されたピークの面積比から、sp 結合とsp 結合の含有量比を求めることができる。
[0020]
 図1は、本実施形態の薄膜の一例を示す概略断面図である。
 ここに示す薄膜1Aは、基材10上に、第1の単位構造11及び第2の単位構造12がこの順に積層されてなる。すなわち、薄膜を構成する単位構造の数が2である。
[0021]
 第1の単位構造11は、下側(基材10側)から、第1層11a、第2層11b及び第3層11cがこの順に積層されてなり、3層からなる。そして、隣接する二つの層はsp 結合の含有量が互いに異なる。すなわち、sp 結合の含有量は、第1層11a及び第2層11bで互いに異なり、第2層11b及び第3層11cで互いに異なる。
[0022]
 同様に、第2の単位構造12は、下側(基材10側)から、第1層12a、第2層12b及び第3層12cがこの順に積層されてなり、3層からなる。そして、隣接する二つの層はsp 結合の含有量が互いに異なる。すなわち、sp 結合の含有量は、第1層12a及び第2層12bで互いに異なり、第2層12b及び第3層12cで互いに異なる。
[0023]
 第1の単位構造11及び第2の単位構造12は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、本明細書において、「単位構造が同じである」とは、単位構造を構成する層の数が同じで、かつ、下側(基材10側)から上側(基材10から遠ざかる側)へ向けて、積層されている各層(第1層同士、第2層同士、・・・・)のsp 結合の含有量と厚さが同じであることを示す。
[0024]
 第1の単位構造11において、sp 結合の含有量は、第1層11a、第2層11b及び第3層11cのいずれか一つが65%未満、他の一つが65%以上75%未満、残りの一つが75%以上であることが好ましい。そして、sp 結合の含有量が65%未満である層は、前記含有量の下限値が50%であることが好ましい。また、sp 結合の含有量が75%以上である層は、前記含有量の上限値が85%であることが好ましい。
[0025]
 第1の単位構造11においては、基材10に対する付着力がより向上する点から、第1層11aのsp 結合の含有量が、最も低いことが好ましい。また、薄膜1A全体の耐磨耗性がより向上する点から、第1層11a、第2層11b及び第3層11cの順に、sp 結合の含有量が高くなるように構成することが好ましい。すなわち、特に好ましい第1の単位構造11としては、sp 結合の含有量が第1層は65%未満、第2層は65%以上75%未満、第3層は75%以上であるものが例示できる。
[0026]
 第2の単位構造12におけるsp 結合の含有量は、第1の単位構造11の場合と同様に設定できる。
[0027]
 第1の単位構造11における第1層11a~第3層11c、第2の単位構造12における第1層12a~第3層12cは、いずれも厚さが1~60nmであることが好ましい。
[0028]
 図2は、本実施形態の薄膜の他の例を示す概略断面図である。
 ここに示す薄膜1Bは、図1に示す薄膜1Aにおいて、単位構造の数が3となったものである。すなわち、第2の単位構造12上に、さらに第3の単位構造13が積層されてなる。
[0029]
 第3の単位構造13は、下側(基材10側)から、第1層13a、第2層13b及び第3層13cがこの順に積層されてなり、3層からなる。そして、隣接する二つの層はsp 結合の含有量が互いに異なる。すなわち、sp 結合の含有量は、第1層13a及び第2層13bで互いに異なり、第2層13b及び第3層13cで互いに異なる。
[0030]
 第3の単位構造13において、sp 結合の含有量及び厚さは、第1の単位構造11及び第2の単位構造12と同様に設定できる。そして、第1の単位構造11と同じであってもよいし、異なっていてもよい。同様に、第2の単位構造12と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
 薄膜1Bは、第3の単位構造13を備えたこと以外は、薄膜1Aと同様である。
[0031]
 ここまでは、3層からなる単位構造の数が2(薄膜1A)、及び3(薄膜1B)である場合について説明したが、かかる単位構造の数は2以上であればいずれでもよく、各層のsp 結合の含有量や、目的に応じて適宜調節すれば良い。ただし、実用性や製造の容易性等を考慮すると、2~30であることが好ましい。
[0032]
 本実施形態の薄膜は、第1層~第3層のsp 結合の含有量が上記の好ましい範囲内に設定されている単位構造の数が多いほど好ましく、このような単位構造のみからなるものが最も好ましい。
[0033]
 また、単位構造はすべて同じであることが好ましく、このように、膜厚方向に同じ構成の単位構造が積層され、膜厚方向において周期的に変化する硬度を有するようにすることにより、本発明の一層優れた効果が得られる。
[0034]
 図3は、本実施形態の薄膜の他の例を示す概略断面図である。
 ここに示す薄膜2Aは、基材10上に、第1の単位構造21、第2の単位構造22がこの順に積層されてなる。すなわち、薄膜を構成する単位構造の数が2となっている。
[0035]
 第1の単位構造21は、下側(基材10側)から、第1層21a、第2層21b、第3層21c及び第4層21dがこの順に積層されてなり、4層からなる。そして、第1の単位構造21において、隣接する二つの層はsp 結合の含有量が互いに異なる。すなわち、sp 結合の含有量は、第1層21a及び第2層21bで互いに異なり、第2層21b及び第3層21cで互いに異なり、第3層21c及び第4層21dで互いに異なる。
[0036]
 同様に、第2の単位構造22は、下側(基材10側)から、第1層22a、第2層22b、第3層22c及び第4層22dがこの順に積層されてなり、4層からなる。そして、隣接する二つの層はsp 結合の含有量が互いに異なる。すなわち、sp 結合の含有量は、第1層22a及び第2層22bで互いに異なり、第2層22b及び第3層22cで互いに異なり、第3層22c及び第4層22dで互いに異なる。
[0037]
 第1の単位構造21及び第2の単位構造22は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
[0038]
 薄膜2Aは、第1及び第2の単位構造が3層ではなく4層である点以外は、薄膜1Aと同様である。
[0039]
 例えば、第1の単位構造21において、第1層21a、第2層21b及び第3層21cのsp 結合の含有量は、それぞれ、薄膜1Aにおける第1層11a、第2層11b及び第3層11cの場合と同様でよい。そして、第4層21dのsp 結合の含有量は特に限定されないが、第2層21bと同様であることが好ましい。
[0040]
 したがって、特に好ましい第1の単位構造21としては、sp 結合の含有量が第1層は65%未満、第2層は65%以上75%未満、第3層は75%以上、第4層は65%以上75%未満であるものが例示できる。
[0041]
 薄膜2Aにおいて、第2の単位構造22におけるsp 結合の含有量は、第1の単位構造21の場合と同様に設定できる。
[0042]
 ここまでは、4層からなる単位構造の数が2である場合について説明したが、かかる単位構造の数は2以上であればいずれでもよく、各層のsp 結合の含有量や、目的に応じて適宜調節すれば良い。ただし、実用性や製造の容易性等を考慮すると、2~30であることが好ましい。
[0043]
 本実施形態の薄膜は、第1層~第4層のsp 結合の含有量が上記の好ましい範囲内に設定されている単位構造の数が多いほど好ましく、このような単位構造のみからなるものが最も好ましい。
[0044]
 図4は、本実施形態の薄膜の他の例を示す概略断面図である。
 ここに示す薄膜3Aは、基材10上に、第1の単位構造31、第2の単位構造32がこの順に積層されてなる。すなわち、薄膜を構成する単位構造の数が2となっている。
[0045]
 第1の単位構造31は、下側(基材10側)から、第1層31a、第2層31b及び第3層31cがこの順に積層されてなり、3層からなる。そして、第2の単位構造32は、下側(基材10側)から、第1層32a、第2層32b、第3層32c及び第4層32dがこの順に積層されてなり、4層からなる。
[0046]
 薄膜3Aは、第2の単位構造が3層ではなく4層である点以外は、薄膜1Aと同様である。
[0047]
 例えば、第1の単位構造31において、第1層31a、第2層31b及び第3層31cのsp 結合の含有量は、それぞれ、薄膜1Aの第1の単位構造11における第1層11a、第2層11b及び第3層11cの場合と同様に設定できる。また、第2の単位構造32において、第1層32a、第2層32b、第3層32c及び第4層32dのsp 結合の含有量は、それぞれ、薄膜2Aの第1の単位構造21における第1層21a、第2層21b、第3層21c及び第4層21dの場合と同様に設定できる。
[0048]
 また、例えば、単位構造の数は2以上であればいずれでもよく、各層のsp 結合の含有量や、目的に応じて適宜調節すれば良い。
[0049]
 ここまでは、各単位構造の層の数が3又は4であるものについて説明したが、単位構造の層の数は3以上であればよく、目的に応じて適宜調節すれば良い。ただし、実用性や製造の容易性等を考慮すると、3~5であることが好ましい。
[0050]
 本実施形態の薄膜は、硬度が27~40GPa(ギガパスカル)であることが好ましい。また、内部応力が-2.2~-1.0GPa(ギガパスカル)であることが好ましい。そして、硬度及び内部応力がともに上記範囲内であることが特に好ましい。
[0051]
 薄膜の硬度は、ナノインデンテーション法により測定できる。また、薄膜の内部応力は、薄膜成膜前後の基材の変形量を測定し、ストーニーの式を用いて計算して算出できる。
[0052]
 本実施形態の薄膜は、一つあたりの前記単位構造の膜厚が、総膜厚の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。そして、このような膜厚条件を満たす前記単位構造の数が多いほど好ましく、すべての前記単位構造がこのような膜厚条件を満たすことが最も好ましい。
[0053]
 上記で説明した本実施形態のta-C薄膜は、二層構造のta-C薄膜と比較すると、薄膜全体における内部応力の分布が平均化されるため、耐磨耗性により優れたものである。さらに、本実施形態のta-C薄膜は、sp 結合の含有量が異なる2つの層が交互に積層された構造のta-C薄膜と比較すると、硬度が急峻に変化する部分が少ないため、耐磨耗性により優れたものである。
[0054]
 本実施形態の薄膜は、例えば、イオンプレーティング等の公知の手法で製造できる。
[0055]
 図5は、本実施形態の薄膜を製造するための成膜装置を例示する概略構成図である。ここに示す成膜装置9は、成膜室900、カソード902、ターゲット903、トリガー905、電磁気フィルタ906、ロータリーポンプ907、ターボ分子ポンプ908、第1のバルブ909、第2のバルブ910及び電圧源911を備える。
[0056]
 成膜室900は、基材10上に薄膜を成膜する真空容器であり、その内部には、基材ホルダー901を備える。また、成膜室900には、ロードロックチャンバー(図示略)が接続されていてもよい。成膜室900の内部は、通常真空状態に保たれるので、成膜前後における基材10の出し入れをロードロック方式で行うことにより、成膜した薄膜中への不純物の混入をより抑制できる。
[0057]
 基材ホルダー901は、成膜過程において基材10を保持するものであり、通常は、薄膜を成長させる表面が下向きとなるように基材10を保持する。基材ホルダー901は、例えば、その中心軸を回転軸として、図中の矢印で示すように、回転可能であることが好ましい。このような基材ホルダー901を成膜過程で回転させて基材10を回転させることで、基材10上により均一な薄膜を形成できる。
[0058]
 基材ホルダー901は、温度調整手段を備えていてもよい。このような基材ホルダー901を成膜過程で加熱することにより、基材10が加熱されて、薄膜を構成する原子の熱拡散が促進され、基材10上により均一な薄膜を形成できる。
[0059]
 電圧源911は、成膜室900と電気的に接続され、基材10にバイアス電圧を印加する。ここで、電圧源911として直流電圧源を示しているが、交流電圧源であってもよい。基材10にバイアス電圧を印加することで、基材10の表面に入射するイオンのエネルギーを制御し、成長中の薄膜表面から内部への入射イオンの拡散、入射イオンからエネルギーを受ける薄膜中の原子の拡散がそれぞれ促進され、均一な薄膜を形成できる。
[0060]
 カソード902は、電磁気フィルタ906を介して、成膜室900の下部に設けられ、成膜時の炭素イオンの供給源となるカーボン製のターゲット903を固定している。そして、ターゲット903の近傍には、トリガー905が設けられている。
[0061]
 成膜時には、トリガー905をターゲット903の表面に接触させた状態で電流を印加し、次いでトリガー905をターゲット903から離間させることにより、ターゲット903とトリガー905との間にアーク放電が生じるように構成されている。そして、アーク放電により、ターゲット903から、炭素イオン、中性原子、クラスター、マクロパーティクル等の様々な状態の粒子が生成し、これら粒子のうち炭素イオン904を基材10に供給することで、薄膜を形成できる。この時、炭素イオン904は、それぞれ様々なエネルギーを有するので、より均一で高品位な薄膜を形成するためには、同一又は類似のエネルギーを有する炭素イオン904を供給することが好ましい。そのためには、電磁気フィルタ906により磁気強度を調節して、同一又は類似のエネルギーを有する炭素イオン904を通過させればよい。電磁気フィルタ906によって選別された炭素イオン904は、基材10に印加するバイアス電圧を調節することで適切に加減速され、その結果、薄膜中のsp 結合の含有量が所望の値に調節される。基材10に印加するバイアス電圧を成膜時に変化させることで、薄膜中のsp 結合の含有量を、膜厚方向において任意に調節できる。これに対して、基材10に印加するバイアス電圧を成膜時に一定とすることで、膜厚方向においてsp 結合の含有量が一様(一定)の薄膜(層)を形成できる。
[0062]
 成膜室900には、第2のバルブ910、ターボ分子ポンプ908、第1のバルブ909及びロータリーポンプ907がこの順に接続され、これらは成膜室900内部の真空度(減圧度)を制御する真空系統を構成する。
[0063]
 本実施形態の薄膜は、成膜装置9を使用して、例えば、下記手順により製造できる。
[0064]
 成膜室900内部の基材ホルダー901で、基材10を保持する。この時、上記のように、ロードロック方式を利用すれば、成膜室900内部の真空度を維持しながら、基材10を出し入れできる。
[0065]
 次いで、成膜室900内部を減圧する。この時、例えば、減圧の初期段階ではターボ分子ポンプ908は停止させた状態で、第1のバルブ909及び第2のバルブ910を開き、ロータリーポンプ907を作動させ、所定の減圧度になってから、ターボ分子ポンプ908を作動させて、引き続き減圧すればよい。このようにすることで、成膜室900内部の真空度を所望の範囲に容易に制御できる。
[0066]
 次いで、所定の真空度に到達後、成膜を開始する。この時、基材10は、基材ホルダー901ごと上記のように回転させることが好ましい。そして、電圧源911により、基材10にバイアス電圧を印加する。
[0067]
 アーク放電を生じさせる際には、トリガー905をターゲット903の表面に接触させた状態で電流を印加し、上記のように、ターゲット903とトリガー905との間にアーク放電を生じさせる。すると、電磁気フィルタ906によって選別された炭素イオン904が基材10に供給され、薄膜が形成される。
[0068]
 形成される薄膜中のsp 結合の含有量は、バイアス電圧により加速された炭素イオンが有するエネルギーによって決定される。そして、基材10に印加するバイアス電圧を変化させることで、sp 結合の含有量を、概ね50~85%の範囲で任意に調節できる。
[0069]
例えば、バイアス電圧を-1980V、-660V、-66Vと設定することにより、薄膜中のsp 結合の含有量を、それぞれ62%、72%、85%程度とすることができる。このような知見に基づいて、適宜バイアス電圧を調節することで、sp 結合の含有量を所望の値に調節すればよい。このように、膜厚方向においてsp 結合の含有量が異なる薄膜を順次積層することで、前記単位構造を形成でき、このような単位構造を複数膜厚方向に積層することで、本実施形態の薄膜を製造できる。
[0070]
 所望の薄膜を形成した後は、トリガー905への電流印加を停止し、アーク放電を停止することで、成膜を停止できる。次いで、薄膜が成膜された基材10を成膜室900から取り出せば良い。
[0071]
 ここでは、フィルタードアークイオンプレーティング式の成膜装置を使用した場合の薄膜の製造方法について説明したが、薄膜の製造方法はこれに限定されず、例えば、スパッタリング法など、その他の物理気相成長法を適用してもよい。
[0072]
 本実施形態のta-C薄膜は、上記のように硬度が高く、耐磨耗性に優れ、基材からの剥離抑制効果が高いので、光学素子成形用金型における保護膜として好適である。
[0073]
 図6は本実施形態のta-C薄膜を表面に備えた光学素子成形用金型を例示する概略断面図である。
[0074]
 図6に示す光学素子成形用金型100は、上型101、下型102及び胴型103を備えて構成されており、ta-C薄膜以外は、例えば、タングステンカーバイド(WC)等の超硬合金やSiC、Si 等のセラミックスからなる。
[0075]
 胴型103は、略筒状であり、その中空部分に上型101及び下型102が嵌合可能となっている。また、胴型の内表面103aは、光学素子の側面を成形するための成形面となっている。
[0076]
 上型101は、胴型103への嵌合部が略柱状であり、上型の側面101cが胴型103の内表面103a上を摺動して、矢印で示す方向に上下動可能となっている。そして、下型102と対向する上型の底面101aには、上記で説明した図1に示す構成のta-C薄膜である薄膜1Aが成膜されており、薄膜1Aの表面が光学素子の上面を成形するための上型の成形面101bとなっている。
[0077]
 下型102は、胴型103への嵌合部が略柱状であり、下型の側面102cは胴型103の内表面103aと密着している。そして、上型101と対向する下型の上面102aには、上記で説明した図1に示す構成のta-C薄膜である薄膜1Aが成膜されており、薄膜1Aの表面が光学素子の下面を成形するための成形面102bとなっている。
[0078]
 なお、光学素子成形用金型は、ここに示すものに限定されず、例えば、上型101、下型102、胴型103、上型の成形面101b、下型の成形面102b、胴型の内表面103aは、光学素子を所望の形状とすることができれば、いずれの形状でもよい。また、ta-C薄膜は、薄膜1A以外でもよく、上型101と下型102とで、異なる薄膜でもよい。
[0079]
 光学素子は、例えば、上記の光学素子成形用金型100を用いて、以下のように製造される。
[0080]
 まず、下型102の成形面102b上に、被成形物105として用意したモールド用光学ガラスを載置する。次いで、被成形物105を変形可能な温度まで加熱し、上型101を下降させて、上型の成形面101bを被成形物105に接触させ、所定の圧力で加圧することで、上型101、下型102及び胴型103で決定される金型形状を被成形物105に転写する。次いで、被成形物105の形状が安定化した後に加圧を解除し、成形物を取り出し可能な温度まで冷却する。そして、光学素子成形用金型100から成形物を取り出して光学素子を得る。
実施例
[0081]
 以下、具体的実施例により、本発明の態様についてさらに詳しく説明する。ただし、これら実施例は、本発明の実施形態の一例を示すものであり、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[0082]
<ta-C薄膜の製造>
[実施例1]
 図5に示す製造装置を使用して、表1に示すように、基材であるシリコンウエハ(Si基板)上に、バイアス電圧-1980Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-66Vで膜厚50nmの層をこの順に成膜し、この構造を単位構造として合計で2回積層する(繰り返し数を2とする)ことで、ta-C薄膜(1)を製造した。
[0083]
 なお、バイアス電圧が-1980V、-660V、-66Vの場合の、各層のsp 結合の含有量は、それぞれ62%、72%、85%となることを事前に確認した。これは後述する比較例でも同様である。
[0084]
 また、表1において構造(単位構造)は、各層の成膜時のバイアス電圧とその膜厚で示し、左側が「基材側」、右側が「基材から遠ざかる側」となるように示している。これは、以降の各実施例及び比較例でも同様である。
[0085]
[実施例2]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて25nmとし、単位構造の繰り返し数を2に代えて4としたこと以外は、実施例1と同様にta-C薄膜(2)を製造した。この時得られたta-C薄膜(2)の模式図を図7Aに示す。
[0086]
[実施例3]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて10nmとし、単位構造の繰り返し数を2に代えて10としたこと以外は、実施例1と同様にta-C薄膜(3)を製造した。
[0087]
[実施例4]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて5nmとし、単位構造の繰り返し数を2に代えて20としたこと以外は、実施例1と同様にta-C薄膜(4)を製造した。
[0088]
[実施例5]
 図5に示す製造装置を使用して、表1に示すように、基材であるシリコンウエハ上に、バイアス電圧-1980Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-66Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層をこの順に成膜し、この構造を合計で1.5回積層する(繰り返し数を1.5とする)ことで、ta-C薄膜(5)を製造した。すなわち、ta-C薄膜(5)は、バイアス電圧-1980Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-66Vで膜厚50nmの層がこの順に成膜された第1の単位構造と、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-1980Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-660Vで膜厚50nmの層がこの順に成膜された第2の単位構造とが、この順に積層されたものである。
[0089]
[実施例6]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて25nmとし、構造の繰り返し数を1.5に代えて3としたこと以外は、実施例5と同様にta-C薄膜(6)を製造した。ta-C薄膜(6)では、ta-C薄膜(5)とは異なり、繰り返しの構造自体を単位構造と見ることができる。この時得られたta-C薄膜(6)の模式図を図7Bに示す。
[0090]
[実施例7]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて10nmとし、構造の繰り返し数を1.5に代えて7.5としたこと以外は、実施例5と同様にta-C薄膜(7)を製造した。すなわち、ta-C薄膜(7)では、シリコンウエハ上に7回繰り返して積層された、ta-C薄膜(6)と同様の単位構造の上に、さらに、バイアス電圧-1980Vで厚さ10nmの層、バイアス電圧-660Vで厚さ10nmの層がこの順に積層されている。
[0091]
[実施例8]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて5nmとし、構造の繰り返し数を1.5に代えて15としたこと以外は、実施例5と同様にta-C薄膜(8)を製造した。
[0092]
 実施例1~4のta-C薄膜は、sp 結合含有量が62%である比較的柔らかい層(軟質層)と、sp 結合含有量が85%である硬い層(硬質層)との間に、sp 結合含有量が72%である中程度の硬度を有する層(第1の中間層)が挟まれ、基材上において軟質から硬質へと硬度が二段階で傾斜する構成の単位構造が、繰り返し積層された構成となっている。
[0093]
 また、実施例5~8のta-C薄膜は、実施例1~4における単位構造の最上部に、さらに、sp 結合含有量が72%である中程度の硬度を有する層(第2の中間層)が積層されてなり、特に実施例6~8では、基材上において軟質から硬質へ、さらに軟質へと硬度が三段階で傾斜する構成の単位構造が、繰り返し積層された構成となっている。
[0094]
[比較例1]
 図5に示す製造装置を使用して、表1に示すように、基材であるシリコンウエハ上に、バイアス電圧-1980Vで膜厚300nmの層を成膜することで、ta-C薄膜(R1)を製造した。
[0095]
[比較例2]
 表1に示すように、バイアス電圧を-1980Vに代えて-660Vとしたこと以外は、比較例1と同様にta-C薄膜(R2)を製造した。
[0096]
[比較例3]
 表1に示すように、バイアス電圧を-1980Vに代えて-66Vとしたこと以外は、比較例1と同様にta-C薄膜(R3)を製造した。
[0097]
[比較例4]
 図5に示す製造装置を使用して、表1に示すように、基材であるシリコンウエハ上に、バイアス電圧-1980Vで膜厚50nmの層、バイアス電圧-66Vで膜厚50nmの層をこの順に成膜し、この単位構造を合計で3回積層する(繰り返し数を3とする)ことで、ta-C薄膜(R4)を製造した。
[0098]
[比較例5]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて25nmとし、単位構造の繰り返し数を3に代えて6としたこと以外は、比較例4と同様にta-C薄膜(R5)を製造した。
[0099]
[比較例6]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて10nmとし、単位構造の繰り返し数を3に代えて15としたこと以外は、比較例4と同様にta-C薄膜(R6)を製造した。
[0100]
[比較例7]
 表1に示すように、各層の膜厚を50nmに代えて5nmとし、単位構造の繰り返し数を3に代えて30としたこと以外は、比較例4と同様にta-C薄膜(R7)を製造した。
[0101]
 比較例1~3のta-C薄膜は、sp 結合含有量がそれぞれ62%、72%、85%と一様なものである。
[0102]
 また、比較例4~7のta-C薄膜は、sp 結合含有量が62%である比較的柔らかい層(軟質層)と、sp 結合含有量が85%である硬い層(硬質層)とが、交互に積層された構成となっている。
[0103]
[表1]


[0104]
<ta-C薄膜の物性評価>
 上記各実施例及び比較例のta-C薄膜について、耐磨耗性、内部応力、硬度を評価した。それぞれの評価方法は以下に示す通りである。
[0105]
(耐磨耗性)
 ボールオンディスク法を適用した。すなわち、直径3/16インチのアルミナボールに一定の荷重を加えることで、このアルミナボールをサンプル(シリコンウエハ上にta-C薄膜が積層されたもの)のta-C薄膜上に押し付け、回転半径2mm、回転速度200rpmの条件でこのアルミナボールを摺動させた。ta-C薄膜との間の摩擦係数は0.1以下と非常に小さな値であるのに対し、ta-C薄膜が完全に磨耗するか又はシリコンウエハから剥離することでシリコンウエハが露出し、アルミナボールがシリコンウエハ上を摺動し始めると、摩擦係数は0.5以上に急激に上昇する。すなわち、この方法によれば、アルミナボールを摺動させている時の摩擦係数を経時的に連続して測定し、摩擦係数の急激な変化を読み取ることで、サンプルからta-C薄膜が消失したことを精度良く確認できる。そこで、本評価では、アルミナボールの摺動開始から、摩擦係数の急激な変化が生じるまでの時間を測定し、比較することで、耐磨耗性を評価した。
[0106]
 そして、アルミナボールに加える荷重を1000gとした場合の時間(耐磨耗性(1))と、アルミナボールに加える荷重を1500gとした場合の時間(耐磨耗性(2))を、それぞれ複数のサンプルで測定し、その平均値を求めて測定値とした。耐磨耗性(1)の評価は、耐磨耗性(2)の評価よりも、より微小な耐磨耗性の違いの検出に好適である。評価結果を表2及び3に示す。
[0107]
(内部応力)
 1個のサンプルについて、成膜前後の基板変形量を3回測定し、ストーニーの式を用いて計算する常法により、ta-C薄膜全体の内部応力を求めた。そして、その平均値を求めて測定値とした。評価結果を表2及び3に示す。
[0108]
(硬度)
 1個のサンプルについて、ナノインデンテーション法により硬度を10回測定し、その平均値を求めて測定値とした。評価結果を表2及び3に示す。
[0109]
[表2]


[0110]
[表3]


[0111]
 さらに、耐磨耗性(1)の評価結果(時間)と、内部応力及び硬度との関係、並びに耐磨耗性(2)の評価結果(時間)と、内部応力及び硬度との関係についてまとめた。これらの関係を表すグラフを図8A、図8B、図9A及び図9Bに示す。図8Aは、耐磨耗性(1)の評価結果(時間)と内部応力、との関係を表す。図8Bは、耐磨耗性(1)の評価結果(時間)と硬度、との関係を表す。図9Aは、耐磨耗性(2)の評価結果(時間)と内部応力、との関係を表す。図9Bは、耐磨耗性(2)の評価結果(時間)と硬度、との関係を表す。
[0112]
 上記評価結果から明らかなように、各実施例のta-C薄膜は、耐磨耗性(1)の評価においては、測定値(平均値)が12000秒を越え、耐磨耗性(2)の評価においては、測定値(平均値)が7000秒を越えており、いずれも耐磨耗性に優れ、基材からの剥離の抑制効果が高いことを確認できた。特に、平均値を求める前の個々の測定値のばらつきが小さく、基材からの剥離の抑制効果を安定して発揮できることを確認できた。また、これら実施例では、基板上に最初に成膜する層について、バイアス電圧を-1980Vという高い値に設定したことで、この層と基材との付着力が強化されていると考えられる。
[0113]
 また、実施例1~4の中で、実施例2~4は、特に耐磨耗性(1)の結果において、実施例1よりも測定値(平均値)が明らかに大きくなっている。これは、単位構造を構成する各層の膜厚が実施例1(50nm)よりも薄くなっており(25nm、10nm、5nm)、総膜厚に対する比率が比較的小さくなっているため、硬度の分布が小さく平均化されて、基材からの剥離がより抑制されるとともに、磨耗がより一様に進行することで、磨耗時間もより安定化していると推測される。
[0114]
 また、実施例5は、他の実施例よりも耐磨耗性(1)及び(2)の結果において、測定値(平均値)が小さくなっている。しかし、いずれの結果においても、平均値を求める前の個々の測定値のばらつきが小さく、基材からの剥離の抑制効果を安定して発揮できることを確認できた。
[0115]
 これに対して、各比較例のta-C薄膜は、耐磨耗性(1)及び(2)の少なくともいずれかの測定値が著しく劣り、基材からの剥離の抑制効果が不十分であった。特に、平均値を求める前の個々の測定値は、一部で実施例での測定値を上回るものがあるものの、ばらつきが非常に大きく、基材からの剥離の抑制効果が著しく不安定であった。
[0116]
 これは、比較例1~3については単層膜であることが原因であり、比較例4~7については、sp 含有量が異なる膜の交互積層であることにより、ta-C薄膜中に硬度が急峻に変化する部分が多く含まれることが原因であると推測される。
[0117]
 また、図8及び9から、ta-C薄膜は、少なくとも硬度が27~40GPa程度、内部応力が-2.2~-1.0GPa程度の範囲内で、特に耐磨耗性(1)及び(2)の評価結果が優れていることが明らかである。
[0118]
 なお、実施例1~4の耐磨耗性(1)に関する測定値(平均値)の平均値は18024秒、耐磨耗性(2)に関する測定値(平均値)の平均値は16088秒であった。
[0119]
 そして、実施例6~8の耐磨耗性(1)に関する測定値(平均値)の平均値は20846秒、耐磨耗性(2)に関する測定値(平均値)の平均値は16067秒であった。
[0120]
 これに対して、比較例1~3の耐磨耗性(1)に関する測定値(平均値)の平均値は9661秒、耐磨耗性(2)に関する測定値(平均値)の平均値は3827秒であった。
[0121]
 そして、比較例4~7の耐磨耗性(1)に関する測定値(平均値)の平均値は12931秒、耐磨耗性(2)に関する測定値(平均値)の平均値は3341秒であった。
[0122]
 これらの結果からも、実施例1~4、実施例5、実施例6~8の各単位構造を有する薄膜は、従来の薄膜よりも剥離の抑制効果と耐磨耗性に優れることが明らかである。

産業上の利用可能性

[0123]
 本発明は、基材の保護膜、光学素子の成形に利用可能である。

符号の説明

[0124]
 1A,1B,2A,3A・・・ta-C薄膜、10・・・基材、11,21,31・・・第1の単位構造、12,22,32・・・第2の単位構造、13・・・第3の単位構造、11a,12a,13a,21a,22a,31a,32a・・・第1層、11b,12b,13b,21b,22b,31b,32b・・・第2層、11c,12c,13c,21c,22c,31c,32c・・・第3層、21d,22d,32d・・・第4層、100・・・光学素子成形用金型、101・・・上型、101a・・・上型の底面、101b・・・上型の成形面、101c・・・上型の側面、102・・・下型、102a・・・下型の上面、102b・・・下型の成形面、102c・・・下型の側面、103・・・胴型、103a・・・胴型の内表面、105・・・被成形物

請求の範囲

[請求項1]
 テトラヘドラルアモルファスカーボンからなるカーボン薄膜であって、
 sp 結合の含有量が隣接する層において互いに異なる三つ以上の層が積層された単位構造を、膜厚方向に複数備えた(ただし、sp 結合の含有量が異なる二層が交互積層されたものを除く)ことを特徴とするカーボン薄膜。
[請求項2]
 すべての前記単位構造において、sp 結合の含有量が65%未満の第1層、65%以上75%未満の第2層、及び75%以上の第3層がこの順に積層されていることを特徴とする請求項1記載のカーボン薄膜。
[請求項3]
 すべての前記単位構造において、sp 結合の含有量が65%未満の第1層、65%以上75%未満の第2層、75%以上の第3層、及び65%以上75%未満の第4層がこの順に積層されていることを特徴とする請求項1記載のカーボン薄膜。
[請求項4]
 硬度が27~40GPa、内部応力が-2.2~-1.0GPaであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のカーボン薄膜。
[請求項5]
 すべての前記単位構造において、膜厚が総膜厚の1/3以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のカーボン薄膜。
[請求項6]
 請求項1~5のいずれか一項に記載のカーボン薄膜を表面に備えたことを特徴とする光学素子成形用金型。
[請求項7]
 請求項6に記載の光学素子成形用金型を用いて被成形物を加圧し、光学素子を成形することを特徴とする光学素子の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7A]

[ 図 7B]

[ 図 8A]

[ 図 8B]

[ 図 9A]

[ 図 9B]