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1. WO2011004779 - HIGH-STRENGTH STEEL SHEET AND MANUFACTURING METHOD THEREFOR

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注: テキスト化された文書

明 細 書

発明の名称 高強度鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012   0013  

先行技術文献

特許文献

0014  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0015   0016   0017   0018   0019  

課題を解決するための手段

0020  

発明の効果

0021  

図面の簡単な説明

0022  

発明を実施するための形態

0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055  

実施例 1

0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068  

実施例 2

0069   0070   0071   0072   0073  

産業上の利用可能性

0074  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6  

図面

1   2   3   4  

明 細 書

発明の名称 : 高強度鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、加工後の伸びフランジ特性に優れた、引張強度(TS)が980MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法に関するものである。

背景技術

[0002]
 自動車の足回り部材、または、バンパーやセンターピラーといった衝突部材には、成形性(主に伸びおよび伸びフランジ特性)が必要とされるため、従来、引張強度590MPa級鋼が使用されてきた。しかし、近年では、自動車の環境負荷低減や衝撃特性向上の観点から、自動車用鋼板の高強度化が推進されており、引張強度が980MPa級の鋼の使用が検討され始めている。一般に、鋼板の強度が上昇するに伴い加工性は低下する。そのため、現在、高強度かつ高加工性を有する鋼板についての研究がなされている。伸びおよび伸びフランジ特性を向上させる技術として、例えば以下が挙げられる。
[0003]
 特許文献1には、実質的にフェライト単相組織であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物が分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有する、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板に関する技術が開示されている。
[0004]
 特許文献2には、質量で、C:0.08~0.20%、Si:0.001%以上、0.2%未満、Mn:1.0%超3.0%以下、Al:0.001~0.5%、V:0.1%超0.5%以下、Ti:0.05%以上0.2%未満およびNb:0.005%~0.5%を含有し、かつ、下記式(a)、式(b)、式(c)を満たし、残部Feおよび不純物からなる鋼組成と、平均粒径5μm以下で硬度が250Hv以上のフェライトを70体積%以上含有する鋼組織を有し、880MPa以上の強度と降伏比0.80以上を有する高強度熱延鋼板に関する技術が開示されている。
式(a):9(Ti/48+Nb/93)×C/12≦4.5×10 −5
式(b):0.5%≦(V/51+Ti/48+Nb/93)/(C/12)≦1.5、
式(c):V+Ti×2+Nb×1.4+C×2+Mn×0.1≧0.80
[0005]
 特許文献3には、質量%で、C:0.05~0.2%、Si:0.001~3.0%、Mn:0.5~3.0%、P:0.001~0.2%、Al:0.001~3%、V:0.1%を超えて1.5%まで、必要に応じてMo:0.05~1.0%を含み残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1~5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板に関する技術が開示されている。
[0006]
 特許文献4には、質量%で、C:0.04~0.17%、Si:1.1%以下、Mn:1.6~2.6%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.001~0.05%、N:0.02%以下、V:0.11~0.3%、Ti:0.07~0.25%を含み、残部が鉄および不可避的不純物の鋼組成を有し、圧延直角方向で880MPa以上の引張り強さを有し、降伏比0.8以上を有する高強度鋼板に関する技術が開示されている。
[0007]
 特許文献5には、質量%で、C:0.04~0.20%、Si:0.001~1.1%、Mn:0.8%超、Ti:0.05%以上0.15%未満、Nb:0~0.05%を含有し、かつ、下記式(d)、式(e)、式(f)を満たし、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、880MPa以上の強度と降伏比0.80以上を有する高強度熱延鋼板が開示されている。
式(d):(Ti/48+Nb/93)×C/12≦3.5×10 −5
式(e):0.4≦(V/51+Ti/48+Nb/93)/(C/12)≦2.0
式(f):V+Ti×2+Nb×1.4+C×2+Si×0.2+Mn×0.1≧0.7
 特許文献6には、実質的にフェライト単相組織であり、フェライト組織中にTi、MoおよびCを含む析出物が析出してなり、かつ、圧延方向に平行なベクトルに垂直な断面の板厚1/4~3/4の領域における、隣接する各結晶粒の<110>方位コロニーの面積率が50%以下である、引張強度が950MPa以上の伸びフランジ性に優れた超高張力鋼板に関する技術が開示されている。
[0008]
 特許文献7には、質量%でC:0.10~0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0~3.0%、P:0.10%以下、S:0.005%以下、Al:0.01~0.5%、N:0.010%以下およびV:0.10~1.0%を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする薄鋼板に関する技術が開示されている。
[0009]
 特許文献8には、質量%でC:0.10~0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0~3.0%、P:0.10%以下、S:0.005%以下、Al:0.01~0.5%、N:0.010%以下およびV:0.10~1.0%を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成で、焼戻しマルテンサイト相の体積占有率が80%以上で、粒径:20nm以下のVを含む炭化物の平均粒径が10nm以下であることを特徴とする自動車用部材に関する技術が開示されている。
[0010]
 特許文献9には、鋼板の表面に溶融亜鉛メッキ層を備える亜鉛メッキ鋼板において、前記鋼板の化学組成が、質量%で、C:0.02%超え0.2%以下、Si:0.01~2.0%、Mn:0.1%~3.0%、P:0.003~0.10%、S:0.020%以下、Al:0.001~1.0%、N:0.0004~0.015%、Ti:0.03~0.2%を含有し、残部がFeおよび不純物であるとともに、前記鋼板の金属組織がフェライトを面積率で30~95%含有し、残部の第二相がマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイトを含有するときのマルテンサイトの面積率は0~50%であり、そして、前記鋼板が粒径2~30nmのTi系炭窒化析出物を平均粒子間距離30~300nmで含有し、かつ粒径3μm以上の晶出系TiNを平均粒子間距離50~500μmで含有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板に関する技術が開示されている。
[0011]
 特許文献10には、質量%で、C:0.01~0.15%、Si:2.0%以下、Mn0.5~3.0%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.02%以下、Cu:0.5~3.0%を含有する組成を有し、かつ組織がフェライト相を主相とし、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む相を第二相とする複合組織である薄鋼板に、粒径が10nm以下の微細析出物を生成させる歪み時効処理を施すことを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法に関する技術が開示されている。
[0012]
 特許文献11には、質量%で、C:0.18~0.3%、Si:1.2%以下、Mn:1~2.5%、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Sol.Al0.01~0.1%を含有し、これに更に、Nb:0.005~0.030%、V:0.01~0.10%、Ti:0.01~0.10%の何れか1種または2種以上を合計で0.005~0.10%の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を、仕上げ温度Ar3点以上で熱延し、500~650℃で巻き取った後、酸洗、冷間圧延し続く連続焼鈍でAc3~[Ac3+70℃]に加熱し30秒以上均熱した後、1次冷却でフェライトを体積占有率で3~20%析出させ、その後噴流水中で室温まで急冷し、120~300℃の温度で1~15分間の過時効処理を施し、マルテンサイト体積占有率が80~97%で残部がフェライトからなる微細な2相組織を有する、引張強度が150~200kgf/mm の成形性及びストリップ形状の良好な超高強度冷延鋼板の製造方法に関する技術が開示されている。
[0013]
 特許文献12には、質量%で、C:0.0005~0.3%、Si:0.001~3.0%、Mn:0.01~3.0%、Al:0.0001~0.3%、S:0.0001~0.1%、N:0.0010~0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、フェライトを面積率最大の相とし、固溶炭素:Sol.C及び固溶窒素:Sol.NがSol.C/Sol.N:0.1~100を満たし、予歪みを5~20%付加したとき、110~200℃で1~60分の焼付け処理後の降伏強度および引張強度の上昇量の平均またはそれぞれの値が、予歪みを付加しない焼付け処理前の鋼板に比べ50MPa以上であることを特徴とする高予歪み時において高い焼付け硬化能を持つ高強度熱延鋼板に関する技術が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0014]
特許文献1 : 特開2007−063668号公報
特許文献2 : 特開2006−161112号公報
特許文献3 : 特開2004−143518号公報
特許文献4 : 特開2004−360046号公報
特許文献5 : 特開2005−002406号公報
特許文献6 : 特開2005−232567号公報
特許文献7 : 特開2006−183138号公報
特許文献8 : 特開2006−183139号公報
特許文献9 : 特開2007−16319号公報
特許文献10 : 特開2003−105444号公報
特許文献11 : 特開平4−289120号公報
特許文献12 : 特開2003−96543号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0015]
 しかしながら、上述の従来技術には、以下の問題がある。
特許文献1および3に記載された鋼はMoを含有するため、近年のMoの価格の高騰により、著しいコストの増加を招く。さらに、自動車産業のグローバル化が進み、自動車に使用される鋼板は外国の厳しい腐食環境下において使用されるようになり、鋼板に対してより高い塗装後耐食性が必要とされている。これに対して、Moの添加は化成結晶の生成または成長を阻害するため、鋼板の塗装後耐食性を低下させ、上記要求に対応することができない。従って、特許文献1および3に記載された鋼は、近年の自動車産業の要求を十分に満たさない。
[0016]
 一方、近年のプレス技術の進歩により、ドロー(絞りおよび張り出し)、トリム(穴抜き)、リストライク(穴広げ)の順の加工工程が採用される。このような加工工程を経て成形される鋼板の伸びフランジ部位には、ドロー、トリム後、すなわち加工後の伸びフランジ特性が必要とされる。しかし、加工後の伸びフランジ特性は、近年、注目された特性であるため、特許文献1~12に記載された鋼では、必ずしも十分ではない。
[0017]
 鋼の一般的な強化手法の一つとして析出強化がある。析出強化量は、析出物の粒径に反比例し、析出量の平方根に比例することが知られている。たとえば、特許文献1~12に開示される鋼板においては、Ti、V、Nbなどの炭窒化物形成元素が添加され、特に、特許文献7、9、10では、析出物のサイズに関する研究がなされた。しかし、析出物量は必ずしも十分ではなく、析出効率が悪いために高コスト化することが問題とされている。
[0018]
 特許文献2、5、11に添加されるNbは、熱間圧延後のオーステナイトの再結晶を抑制する働きが高い。そのため、鋼板に未再結晶粒を残存させ、加工性を低下させる問題がある。また、熱間圧延時の圧延荷重を増加させる問題がある。
[0019]
 本発明は、かかる事情に鑑み、加工後の伸びフランジ特性に優れた高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0020]
 本発明者等は、加工後の伸びフランジ特性に優れ、引張強度が980MPa以上である高強度鋼板を得るべく検討したところ、以下の知見を得た。
i)高強度の鋼板を得るためには、析出物を微細化(大きさ20nm未満)し、微細な析出物(大きさ20nm未満)の割合を高める必要がある。そして、微細なまま維持できる析出物としてTi−Moを含むもの、または、Ti−Vを含むものが挙げられる。合金コストの観点からはTiとVの複合析出が有用である。
ii)フェライト相と第二相の硬度差が−300以上300以下であるとき、加工後の伸びフランジ特性は向上する。また、この加工後の伸びフランジ特性に優れる組織は、第一段冷却停止温度T1および巻取り温度T2を最適範囲に制御することによって得られる。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]成分組成は、mass%で、C:0.08%以上0.20%以下、Si:0.2%以上1.0%以下、Mn:0.5%以上2.5%以下、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.07%以上0.20%以下、V:0.20%以上0.80%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織は、体積占有率で80%以上98%以下のフェライト相と第二相を有し、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量が0.150mass%以上であり、前記フェライト相の硬度(HV α)と前記第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )が−300以上300以下であることを特徴とする高強度鋼板。
[2]前記[1]において、大きさが20nm未満の析出物に含まれる前記Ti量が0.150mass%以上であることを特徴とする高強度鋼板。
[3]前記[1]において、大きさが20nm未満の析出物に含まれる前記V量が0.550mass%以上であることを特徴とする高強度鋼板。
[4]前記[1]~[3]のいずれかにおいて、mass%で、さらに、Cr:0.01%以上1.0%以下、W:0.005%以上1.0%以下、Zr:0.0005%以上0.05%以下のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする高強度鋼板。
[5]mass%で、C:0.08%以上0.20%以下、Si:0.2%以上1.0%以下、Mn:0.5%以上2.5%以下、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.07%以上0.20%以下、V:0.20%以上0.80%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、1150℃以上1350℃以下の温度に加熱したのち、仕上げ圧延温度を850℃以上1000℃以下として熱間圧延を行い、次いで、650℃以上800℃未満の温度まで、平均冷却速度30℃/s以上で第一段冷却し、1秒以上5秒未満の時間で空冷し、次いで、冷却速度20℃/s以上で第二段冷却し、200℃超え550℃以下の温度で巻取り、式(1)を満たすことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
T1≦0.06×T2+764  式(1)
ただし、T1:第一段冷却の停止温度(℃)、T2:巻取り温度(℃)
[6]前記[5]において、成分組成として、mass%で、さらに、Cr:0.01%以上1.0%以下、W:0.005%以上1.0%以下、Zr:0.0005%以上0.05%以下のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。また、本発明における高強度鋼板とは、引張強度(以下、TSと称する場合もある)が980MPa以上の鋼板であり、熱延鋼板、さらには、これらの鋼板に例えばめっき処理等の表面処理を施した表面処理鋼板も対象とする。
さらに、本発明の目標とする特性は、伸張率10%で圧延後の伸びフランジ特性(λ 10)≧40%、である。

発明の効果

[0021]
 本発明によれば、加工後の伸びフランジ特性に優れ、TSが980MPa以上である高強度鋼板が得られる。本発明では、Moを添加しなくても上記効果が得られるので、コストを削減できる。本発明の高強度鋼板を自動車の足回り部材やトラック用フレーム、耐衝突部材などに用いることにより、板厚減少が可能となり、自動車の環境負荷が低減され、衝撃特性が大きく向上することが期待される。

図面の簡単な説明

[0022]
[図1] 硬度差(HV α−HV )と加工後の伸びフランジ特性との関係を示す図である。
[図2] フェライトの体積占有率と加工後の伸びフランジ特性との関係を示す図である。
[図3] 20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計とTSとの関係を示す図である。
[図4] 20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量との関係を示す図である。

発明を実施するための形態

[0023]
 以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高強度鋼板は、後述する成分限定に加え、金属組織は、体積占有率で80%以上98%以下のフェライト相と第二相を有し、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量が0.150mass%以上であり、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )が−300以上300以下であることを特徴とする。
このように、本発明においては、成分限定、組織分率に加え、20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量、および硬度の差(HV α−HV )を規定することを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件であり、このように規定した鋼板とすることで加工後の伸びフランジ特性に優れ、TSが980MPa以上である高強度鋼板が得られる。
[0024]
 次に、本発明の詳細を実験結果に基づいて説明する。
加工後の伸びフランジ特性向上のためには、硬度差(HV α−HV )が重要であることが検討した結果わかった。そこで、硬度差(HV α−HV )と加工後の伸びフランジ特性について調査した。
C:0.09~0.185mass%、Si:0.70~0.88mass%、Mn:1.00~1.56mass%、P:0.01mass%、S:0.0015mass%、Al:0.03mass%、Ti:0.090~0.178mass%、V:0.225~0.770mass%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼スラブとした。次いで、これらの鋼スラブに対して、スラブ加熱温度:1250℃で加熱し、仕上げ温度:890~950℃で熱間圧延した。次いで、冷却速度:55℃/sで635~810℃まで第一段冷却を行い、2~6s空冷し、冷却速度:40℃/sで第二段冷却を行い、250~600℃で巻取りを施し、板厚2.0mmの熱延鋼板を作製した。得られた熱延鋼板に対して、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )を測定するとともに、加工後の伸びフランジ特性を調査した。
なお、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )は、ビッカース硬さを用いた。ビッカース硬さ試験に用いる試験機は、JISB7725に適合したものを用いた。組織観察用サンプルを1枚採取し、圧延方向に平行な断面について3%ナイタール溶液で組織を現出して、板厚1/4位置にて試験荷重3gでフェライト粒および第二相にそれぞれくぼみをつけた。くぼみの対角線長さからJISZ2244にあるビッカース硬さ算出式を用い硬度を算出した。それぞれ30個のフェライト粒および第二相の硬度を測定し、それぞれの平均値をフェライト相の硬度(HV α)および第二相の硬度(HV )とし、硬度差(HV α−HV )を求めた。
加工後の伸びフランジ特性は、穴広げ試験用試験片を3枚採取し、伸張率10%で圧延後、鉄連規格JFST 1001に準じて穴広げ試験を行い、3枚の平均からλ 10を求めた。
[0025]
 以上により得られた結果を図1に示す。図1より、硬度差(HV α−HV )が−300以上300以下(符号○にて示す)の時に、加工後の伸びフランジ特性に優れる傾向にあり、一部を除き加工後の伸びフランジ特性が概ね40%以上となっていることがわかる。フェライト相に比べ第二相が硬い場合、析出強化によりフェライト相が第二相に比べ硬い場合のいずれの場合においても、同様の傾向である。このような傾向は、相間硬度差が低減したことによって、加工時のボイドの生成量が少なくなったためと考えられる。
しかし、このように硬度差(HV α−HV )が−300以上300以下の熱延鋼板の場合でも、40%以上の加工後の伸びフランジ特性が得られない場合がある。例えば、図1において、硬度差(HV α−HV )が0近辺では、加工後の伸びフランジ特性が30%~40%の熱延鋼板が存在する。そこで、このような加工後の伸びフランジ特性が劣っていた材料を観察したところ、加工後の伸びフランジ特性が優れていた材料と比較してフェライトの体積占有率が極端に低いか、極端に高いことが明らかとなった。そこで、次に、フェライトの体積占有率と加工後の伸びフランジ特性との関係を調査した。
[0026]
 上記実験にて作製した熱延鋼板のうち、硬度差(HV α−HV )が−300以上300以下の熱延鋼板に対して、組織分率としてフェライトの体積占有率を調査した。なお、フェライトの体積占有率は、圧延方向に平行な板厚断面のミクロ組織を3%ナイタールで現出し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍で板厚1/4位置を観察し、住友金属テクノロジー株式会社製の画像処理ソフト「粒子解析II」を用いてフェライトの面積率を測定し、体積占有率とした。
[0027]
 得られた結果を図2に示す。図2より、フェライトの体積占有率を80%以上98%以下(符号○にて示す)とすることで、40%以上の加工後の伸びフランジ特性が得られていることがわかる。
[0028]
 以上の結果より、優れた加工後の伸びフランジ特性を得るためには、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度の差(HV α−HV )だけでなく、フェライトの体積占有率も規定することが重要であり、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度の差(HV α−HV )が−300以上300以下、かつ、フェライトの体積占有率を80%以上98%以下とすることで、加工後の伸びフランジ特性40%以上が確保されることがわかった。
[0029]
 このように、硬度差(HV α−HV )とフェライトの体積占有率を規定することで加工後の伸びフランジ特性が向上する理由は以下の通りと考えられる。フェライトの体積占有率が98%超えでは、理由は必ずしも明らかではないが、フェライト相とフェライト相の界面にもボイドが多く生成するため、加工後の伸びフランジ特性が向上しないと考えられる。また、フェライト体積占有率が80%未満では、伸展した第二相が形成しやすく、フェライト相と第二相の界面に発生するボイドが加工時に連結しやすくなるため、加工後の伸びフランジ特性が向上しないと考えられる。
[0030]
 本発明では、加工後の伸びフランジ特性に加えて、さらに、高強度TS≧980を課題とする。そこで、次に、高強度とするための手段を検討した。その結果、前述の通り、高強度鋼板を得るためには、析出物を微細化(大きさ20nm未満)し、微細な析出物(大きさ20nm未満)の割合を高め必要があることがわかった。析出物の大きさが20nm以上では、転位の移動を抑制する効果が小さく、フェライトを十分に硬質化できないため、強度が低下する場合がある。よって、析出物の大きさは20nm未満とすることが好ましい。この20nm未満の微細な析出物は、鋼中にTi、Vを含有することにより達成される。TiとVは、それぞれ単独でまたは複合で炭化物を形成する。理由は明らかではないが、これらの析出物は、本発明範囲の巻取り温度内の高温長時間下において、安定的に微細なままで存在することがわかった。
本発明の高強度鋼板において、Tiおよび/またはVを含む析出物は、主に炭化物としてフェライト中に析出している。これは、フェライトにおけるCの固溶限がオーステナイトの固溶限より小さく、過飽和のCがフェライト中に炭化物として析出しやすいためと考えられる。こうした析出物により軟質のフェライトが硬質化(高強度化)し、980MPa以上のTSが得られる。
[0031]
 そこで、上記実験にて作製した熱延鋼板のうち、硬度差(HV α−HV )が−300以上300以下で、かつ、フェライトの体積占有率が80%以上98%以下の熱延鋼板に対して、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTiとVの量について調査した。
図3に20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計とTSの関係を示す。図4に20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の関係を示す。なお、図4においては、図3においてTSが980MPa以上得られているデータのみを引用した。
図3より、20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計が0.150mass%以上のとき(符号○にて示す)、TSが980MPa以上になることがわかる。20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量が0.150mass%未満の場合は、析出物の数密度が小さくなり、各析出物の間隔が広くなるため、転位の移動を抑制する効果が小さくなり、フェライトを十分に硬質化できないため、TSが980MPa以上の強度が得られなくなると考えられる。
以上より、組織は、体積占有率で80%以上98%以下のフェライトを有し、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量が0.150mass%以上であり、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )が−300以上300以下とする。
図4に20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の関係を示す。図3と図4の結果から、20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計が0.150mass%以上であれば、V量が0mass%の場合、すなわち、TiとVの複合析出ではなくTiの単独析出であっても、本発明の効果は得られることがわる。同様に、Ti量が0mass%の場合、すなわち、Vの単独析出であっても、本発明の効果は得られることがわかる。
図4から、大きさが20nm未満の析出物に含まれるV量が0mass%の場合は、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量が0.150mass%以上であり、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量が0mass%の場合は、大きさが20nm未満の析出物に含まれるV量が0.550mass%以上であることがわかる。
[0032]
 次に、本発明における鋼の化学成分(成分組成)の限定理由について説明する。
C:0.08mass%以上0.20mass%以下
Cは、TiやVと炭化物を形成しフェライト中に析出することで、鋼板の強度化に寄与する元素である。TSを980MPa以上とするためには、C量を0.08mass%以上とする必要がある。一方、C量が0.20mass%を超えると析出物の粗大化により伸びフランジ特性が低下する。以上より、C量は0.08mass%以上0.20mass%以下、好ましくは、0.09mass%以上0.18mass%以下とする。
[0033]
 Si:0.2mass%以上1.0mass%以下
Siは、フェライト変態の促進および固溶強化に寄与する元素である。そのため、Siは0.2mass%以上とする。ただし、その量が1.0mass%を超えると鋼板表面性状が著しく劣化し、耐食性が低下するため、Siの上限は1.0mass%とする。以上より、Si量は0.2mass%以上1.0mass%以下、好ましくは、0.3mass%以上0.9mass%以下とする。
[0034]
 Mn:0.5mass%以上2.5mass%以下
Mnは固溶強化に寄与する元素である。しかしながら、その量が0.5mass%に満たないと980MPa以上のTSが得られない。一方、その量が2.5mass%を超えると、溶接性を著しく低下させる。よって、Mn量は0.5mass%以上2.5mass%以下、好ましくは0.5mass%以上2.0mass%以下である。さらに好ましくは、0.8mass%以上2.0mass%以下とする。
[0035]
 P:0.04mass%以下
Pは旧オーステナイト粒界に偏析するため、低温靭性劣化と加工性の低下を招く。そのため、P量は極力低減することが好ましく、0.04mass%以下とする。
[0036]
 S:0.005mass%以下
Sは旧オーステナイト粒界に偏析したり、MnSとして多量に析出すると、低温靭性を低下させたり、また、加工の有無に関わらず伸びフランジ特性を著しく低下させる。そのため、S量は極力低下することが好ましく、0.005mass%以下とする。
[0037]
 Al:0.05mass%以下
Alは、鋼の脱酸剤として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素である。この効果を得るためには0.001mass%以上含有させることが好ましい。しかし、その量が0.05mass%を超えると介在物が多量に発生し、鋼板の疵の原因になるため、Al量は0.05mass%以下とする。より好ましいAl量は0.01mass%以上0.04mass%以下である。
[0038]
 Ti:0.07mass%以上0.20mass%以下
Tiは、フェライトを析出強化する上で非常に重要な元素である。0.07mass%未満では、必要な強度を確保することが困難であり、0.20mass%を超えるとその効果は飽和し、コストアップとなるだけである。よって、Ti量は0.07mass%以上0.20mass%以下、好ましくは0.08mass%以上0.18mass%以下とする。
[0039]
 V:0.20mass%以上0.80mass%以下
Vは、析出強化または固溶強化として強度の向上に寄与する元素であり、上記のTiと並んで本発明の効果を得る上で、重要な要件となる。適量をTiとともに複合含有することで、粒径20nm未満の微細なTi−V炭化物として析出する傾向にあり、かつ、Moのように塗装後耐食性を低下させることはない。また、Moに比べコストを低減させるこができる。V量が0.20mass%未満では、上記含有効果が乏しい。一方、V量が0.80mass%超えでは、その効果は飽和し、コストアップとなるだけである。よって、V量は0.20mass%以上0.80mass%以下、好ましくは、0.25mass%以上0.60mass%以下とする。
[0040]
 以上の含有元素で、本発明鋼は目的とする特性が得られるが、上記の含有元素に加えて、以下の理由により、さらにCr:0.01mass%以上1.0mass%以下、W:0.005mass%以上1.0mass%以下、Zr:0.0005mass%以上0.05mass%以下のいずれか1種または2種以上を含有してもよい。
[0041]
 Cr:0.01mass%以上1.0mass%以下、W:0.005mass%以上1.0mass%以下、Zr:0.0005mass%以上0.05mass%以下
Cr、WおよびZrは、Vと同様、析出物を形成して、あるいは固溶状態でフェライトを強化する働きを有する。Cr量が0.01mass%未満、W量が0.005mass%未満、あるいはZr量が0.0005mass%未満では高強度化にほとんど寄与しない。一方、Cr量が1.0mass%超え、W量が1.0mass%超え、あるいはZr量が0.05mass%超えでは加工性が劣化する。よって、Cr、W、Zrのいずれか1種または2種以上を含有する場合、その含有量はCr:0.01mass%以上1.0mass%以下、W:0.005mass%以上1.0mass%以下、Zr:0.0005mass%以上0.05mass%以下とする。好ましくはCr:0.1mass%以上0.8mass%以下、W:0.01mass%以上0.8mass%以下、Zr:0.001mass%以上0.04mass%以下である。
[0042]
 なお、上記以外の残部はFeおよび不可避不純物からなる。不可避不純物として、例えば、Oは非金属介在物を形成し品質に悪影響を及ぼすため、0.003mass%以下に低減するのが望ましい。また、本発明では、発明の作用効果を害さない微量元素として、Cu、Ni、Sn、Sbを0.1mass%以下の範囲で含有してもよい。
[0043]
 次に、本発明の高強度鋼板の組織について説明する。
[0044]
 80%以上98%以下のフェライトと第二相
加工後の伸びフランジ特性の向上には、転位密度の低いフェライトが主相となり、また、第二相は、鋼板中に島状に分散した形態をとることが有効であると考えられる。そして、前述の通り、加工後の伸びフランジ特性の向上の点から、フェライトの体積占有率は80%以上98%以下とする必要がある。また、前述の実験結果に加え、フェライトの体積占有率が80%未満の場合は、フェライト相と第二相の界面に発生するボイドが加工時に連結しやすくなり、加工後の伸びフランジ特性(λ 10)および伸び(El)が低下することが考えられる。一方、フェライトの体積占有率が98%を超えた場合は、理由は必ずしも明らかではないが、フェライト相とフェライト相の界面にも多くボイドが生成するため、やはり、加工後の伸びフランジ特性が向上しないと考えられる。以上より、フェライトの体積占有率は、80%以上98%以下、好ましくは、85%以上95%以下とする。
また、第二相としては、ベイナイト相もしくはマルテンサイト相が好ましい。そして、鋼板中に島状に分散した形態をとることが伸びフランジ特性の点から有効である。
第二相の体積占有率が2%未満の場合は、第二相が少ないために伸びフランジ特性が向上しなくなる場合がある。一方、20%を超えた場合は、第二相が過多となり、鋼板が変形される際に、第二相の連結が生じるため、加工後の伸びフランジ特性(λ 10)および伸び(El)が低下する場合がある。よって、第二相の体積占有率を2%以上20%%以下とすれば、より好ましい状態となる。ここで、フェライト、第二相の体積占有率は、圧延方向に平行な板厚断面のミクロ組織を3%ナイタールで現出し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍で板厚1/4位置を観察し、住友金属テクノロジー株式会社製の画像処理ソフト「粒子解析II」を用いてフェライトおよび第二相の面積率を測定し、体積占有率とする。
[0045]
 大きさが20nm未満の析出物にふくまれるTi量とV量の合計量が0.150mass%以上(ここでTi量とV量は、鋼の全組成の合計を100mass%とした場合の濃度とする)
前述の通り、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量は0.150mass%以上とする。上限は特に限定しないが、Ti量とV量の合計量が1.0mass%を超えて析出すると、理由は明らかではないが、鋼板は脆性的に破壊し、目標の特性が得られなくなる。なお、析出物及び/又は介在物を、まとめて析出物等と称する。
また、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量およびV量は、以下の方法により確認することができる。
試料を電解液中で所定量電解した後、試料片を電解液から取り出して分散性を有する溶液中に浸漬する。次いで、この溶液中に含まれる析出物を、孔径20nmのフィルタを用いてろ過する。この孔径20nmのフィルタをろ液と共に通過した析出物が大きさ20nm未満である。次いで、ろ過後のろ液に対して、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、ICP質量分析法、および原子吸光分析法等から適宜選択して分析し、大きさ20nm未満での析出物における量を求める。
[0046]
 フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )が−300以上300以下
前述の通り、本発明では、フェライト相の硬度(HV α)と第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )は−300以上300以下とする。硬度差が−300未満もしくは300超えでは、鋼板が加工を受けた時にフェライト相と第二相の変形量の差が大きくなるため、フェライト相と第二相の界面におけるクラックが増大し、必要とする加工後の伸びフランジ特性が得られなくなる。硬度差は、その絶対値が小さいほうが良く、好ましくは−250以上250以下である。
[0047]
 次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度鋼板は、例えば、上記化学成分範囲に調整された鋼スラブを、1150℃以上1350℃以下の温度に加熱したのち、仕上げ圧延温度を850℃以上1000℃以下として熱間圧延を行い、次いで、650℃以上800℃未満の温度まで、平均冷却速度30℃/s以上で第一段冷却し、1秒以上5秒未満の時間で空冷し、次いで、冷却速度20℃/s以上で第二段冷却し、200℃超え550℃以下の温度で巻取り、式(1)を満たすことにより得られる。
T1≦0.06×T2+764  式(1)
ただし、T1:第一段冷却の停止温度(℃)、T2:巻取り温度(℃)
これらの条件について以下に詳細に説明する。
[0048]
 スラブ加熱温度:1150℃以上1350℃以下
TiあるいはVなどの炭化物形成元素は、鋼スラブ中ではほとんどが炭化物として存在している。熱間圧延後にフェライト中に目標どおりに析出させるためには熱間圧延前に炭化物として析出している析出物を一旦溶解させる必要がある。そのためには1150℃以上で加熱する必要がある。一方、1350℃を超えて加熱すると、結晶粒径が粗大になりすぎて加工後の伸びフランジ特性、伸び特性ともに劣化するので1350℃以下とする。以上より、スラブ加熱温度は、1150℃以上1350℃以下とする。より好ましくは1170℃以上1260℃以下である。
[0049]
 熱間圧延における仕上げ圧延温度:850℃以上1000℃以下
加工後の鋼スラブは、熱間圧延の終了温度である仕上げ圧延温度850℃~1000℃で熱間圧延される。仕上げ圧延温度が850℃未満では、フェライト+オーステナイトの領域で圧延され、展伸したフェライト組織となるため、伸びフランジ特性や伸び特性が劣化する。一方、仕上げ圧延温度が1000℃を超えると、フェライト粒が粗大化するため、980MPaのTSが得られない。よって、仕上げ圧延温度850℃以上1000℃以下で仕上げ圧延を行う。
より好ましくは870℃以上960℃以下である。
[0050]
 第一段冷却:冷却停止温度650℃以上800℃未満の温度まで平均冷却速度30℃/s以上で冷却
熱間圧延後は、仕上げ圧延温度から冷却温度650℃~800℃まで、平均冷却速度30℃/s以上で冷却を行う必要がある。冷却停止温度が800℃以上では、核生成が起こりにくいためフェライトの体積率が80%以上にならず、Tiおよび/またはVを含む析出物の所定の析出状態が得られない。冷却停止温度が650℃未満では、C、Tiの拡散速度が低下するため、フェライトの体積率が80%以上にならず、Tiおよび/またはVを含む析出物の所定の析出状態が得られない。したがって、冷却停止温度は650℃以上800℃未満とする。また、仕上げ圧延温度から冷却停止温度までの平均冷却速度が30℃/s未満では、パーライトが生成するため加工後の伸びフランジ特性や伸び特性が劣化する。なお、冷却速度の上限は、特に限定するものではないが、上記の冷却停止温度範囲内に正確に停止させるためには、300℃/s程度とすることが好ましい。
[0051]
 第一段冷却後の空冷:1秒以上5秒未満
第一の冷却後、1秒以上5秒以下の間、冷却を停止して空冷する。この空冷している時間が1秒未満ではフェライトの体積占有率が80%以上にならず、5秒を超えるとパーライトが生成し、伸びフランジ特性や伸び特性が劣化する。なお、空冷時の冷却速度は、おおむね15℃/s以下である。
[0052]
 第二段冷却:平均冷却速度20℃/s以上で巻取り温度200℃超え550℃以下まで冷却
空冷後は、巻取り温度200℃超え550℃以下まで平均冷却速度20℃/s以上で第二の冷却を行なう。このとき、平均冷却速度が20℃/s未満では、冷却中にパーライトが生成するため、平均冷却速度は20℃/s以上、好ましくは50℃/s以上とする。なお、冷却速度の上限は、特に限定するものではないが、上記の巻取り温度範囲内に正確に停止させるためには、300℃/s程度とすることが好ましい。
また、巻取り温度が200℃以下では、鋼板の形状が悪くなる。一方、550℃超えでは、パーライトが生成し、伸びフランジ特性が劣化する。さらに、硬度差が300超えとなる場合がある。好ましくは、400℃以上520℃以下である。
[0053]
 T1≦0.06×T2+764
ただし、T1:第一段冷却の停止温度(℃)、T2:巻取り温度(℃)
第一段冷却後の空冷中に、フェライトへの微細析出が生じる。これより、大部分のフェライト相は析出強化される。析出強化されたフェライト相の硬さは、析出物が生成する温度、つまり、第一段冷却停止温度に影響される。一方、第二相の硬さは、変態温度、つまり、巻取り温度に影響される。さまざまな研究の結果により、第一段冷却停止温度をT1(℃)、巻取り温度をT2(℃)とするとT1≦0.06×T2+764を満たすとき、硬度差が−300以上300以下となることが明らかとなった。T1>0.06×T2+764では、フェライト相の硬度が低く、かつ、第二相の硬度が高いために、硬度差が−300未満となる。
[0054]
 以上により、加工後の伸びフランジ特性に優れた高強度鋼板が得られる。なお、本発明の鋼板には、表面に表面処理や表面被覆処理を施したものを含む。特に、本発明の鋼板には溶融亜鉛系めっき皮膜を形成し、溶融亜鉛めっき系鋼板としたものに好適に適用できる。すなわち、本発明の鋼板は良好な加工性を有することから、溶融亜鉛系めっき皮膜を形成しても良好な加工性を維持できる。ここで、溶融亜鉛系めっきとは、亜鉛および亜鉛を主体とした(すなわち約90%以上を含有する)溶融めっきであり、亜鉛のほかにAl、Crなどの合金元素を含んだものも含む、また、溶融亜鉛系めっきを施したままでも、めっき後に合金化処理を行なってもかまわない。
[0055]
 また、鋼の溶製方法は特に限定されず、公知の溶製方法の全てを適応することができる。例えば、溶製方法としては、転炉、電気炉等で溶製し、真空脱ガス炉にて2次精錬を行なう方法が好適である。鋳造方法は、生産性、品質上の観点から、連続鋳造方法が好ましい。また、鋳造後、直ちに、または補熱を目的とする加熱を施した後に、そのまま熱間圧延を行なう直送圧延を行なっても、本発明の効果に影響はない。さらに、粗圧延後に、仕上圧延前で、熱延材を加熱してもよく、粗圧延後に圧延材を接合して行なう連続熱延を行なっても、さらには、圧延材の加熱材の加熱と連続圧延を同時に行なっても、本発明の効果は損なわれない。
実施例 1
[0056]
 表1に示す組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼スラブとした。次いで、これらの鋼スラブに対して、表2および表3に示す条件で加熱、熱間圧延、冷却、巻取りを施し板厚2.0mmの熱延鋼板を作製した。なお、ここで、表2および表3に示す巻取温度は鋼帯の幅方向中央部の巻取温度を鋼帯の長手方向に計測し、それらを平均した値である。
[0057]
[表1]


[0058]
 得られた熱延鋼板に対して、以下に示す方法で20nm未満の析出物に含まれるTi量およびV量を求めた。
[0059]
 大きさ20nm未満の析出物に含まれるTi量およびV量の測定
上記により得られた熱延鋼板を適当な大きさに切断し、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン−1mass%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール)中で、約0.2gを電流密度20mA/cm で定電流電解した。
電解後の、表面に析出物が付着している試料片を電解液から取り出して、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(500mg/l)(以下、SHMP水溶液と称す)中に浸漬し、超音波振動を付与して、析出物を試料片から剥離しSHMP水溶液中に抽出した。次いで、析出物を含むSHMP水溶液を、孔径20nmのフィルタを用いてろ過し、ろ過後のろ液に対してICP発光分光分析装置を用いて分析し、ろ液中のTiとVの絶対量を測定した。次いで、TiとVの絶対量を電解重量で除して、大きさ20nm未満の析出物に含まれるTi量およびV量(試料の全組成を100質量%とした場合の質量%)を得た。なお、電解重量は、析出物剥離後の試料に対して重量を測定し、電解前の試料重量から差し引くことで求めた。
[0060]
 また、コイル先端部から30mの位置で幅方向中央から、JIS5号引張試験片(圧延方向に平行方向)、穴広げ試験片および組織観察用サンプルを採取して、以下に示す方法で引張強度:TS、伸び:El、加工後の伸びフランジ特性:λ 10および硬度差:HV α−HV を求め、評価した。
[0061]
 引張強度:TS、伸び:El
圧延方向を引張り方向としてJIS5号試験片3本採取し、JIS Z 2241に準拠した方法で引張り試験を行ない、引張り強さ(TS)、および伸び(El)を求めた。
[0062]
 加工後の伸びフランジ特性:λ 10
穴広げ試験用試験片を3枚採取し、伸張率10%で圧延後、鉄連規格JFST 1001に準じて穴広げ試験を行い、3枚の平均からλ 10を求めた。
[0063]
 硬度差:HV α−HV
ビッカース硬さ試験に用いる試験機は、JISB7725に適合したものを用いた。組織観察用サンプルを1枚採取し、圧延方向に平行な断面について3%ナイタール溶液で組織を現出して、板厚1/4位置にて試験荷重3gでフェライト粒および第二相にそれぞれくぼみをつけた。
くぼみの対角線長さからJISZ2244にあるビッカース硬さ算出式を用い硬度を算出した。それぞれ30個のフェライト粒および第二相の硬度を測定し、それぞれの平均値をフェライト相の硬度(HV α)および第二相の硬度(HV )とし、硬度差(HV α−HV )を求めた。
[0064]
 また、フェライトおよび第二相の体積占有率は、圧延方向に平行な板厚断面のミクロ組織を3%ナイタールで現出し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍で板厚1/4位置を観察し、住友金属テクノロジー株式会社製の画像処理ソフト「粒子解析II」を用いてフェライトおよび第二相の面積率を測定し、体積占有率とした。
以上により得られた結果を表2および表3に製造条件と併せて示す。
[0065]
[表2]


[0066]
[表3]


[0067]
 表2より、本発明例では、TS(強度)が980MPa以上、λ 10が40%以上で加工後の伸びフランジ特性に優れた高強度鋼板が得られている。また、El(伸び)も15%以上と十分な特性を示している。
[0068]
 一方、表3より比較例は、TS、λ 10のいずれか1つ以上が劣っている。
実施例 2
[0069]
 表4に示す組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼スラブとした。次いで、これらの鋼スラブに対して、表5に示す条件で加熱、熱間圧延、冷却、巻取りを施し板厚2.0mmの熱延鋼板を作製した。なお、ここで、表5に示す巻取温度は鋼帯の幅方向中央部の巻取温度を鋼帯の長手方向に計測し、それらを平均した値である。
[0070]
[表4]


[0071]
 得られた熱延鋼板に対して、実施例1と同様の方法で20nm未満の析出物に含まれるTi量およびV量を求めた。また、実施例1と同様の方法で引張強度:TS、伸び:El、加工後の伸びフランジ特性:λ 10および硬度差:HV α−HV を求め、評価した。
以上により得られた結果を表5に製造条件と併せて示す。
[0072]
[表5]


[0073]
 表5より、本発明例では、TSが980MPa以上、λ 10が40%以上で加工後の伸びフランジ特性に優れた高強度鋼板が得られている。さらに、実施例2におけるCr、WやZrを含有した鋼は、実施例1における同一の成分系からなる鋼に比べて、TSが向上していることがわかる。

産業上の利用可能性

[0074]
 本発明の鋼板は高強度であり、かつ、優れた加工後の伸びフランジ特性を有するので、例えば、自動車やトラック用のフレーム等、伸びおよび伸びフランジ特性を必要とする部品として最適である。

請求の範囲

[請求項1]
 成分組成は、mass%で、C:0.08%以上0.20%以下、Si:0.2%以上1.0%以下、Mn:0.5%以上2.5%以下、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.07%以上0.20%以下、V:0.20%以上0.80%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織は、体積占有率で80%以上98%以下のフェライト相と第二相を有し、大きさが20nm未満の析出物に含まれるTi量とV量の合計量が0.150mass%以上であり、前記フェライト相の硬度(HV α)と前記第二相の硬度(HV )の差(HV α−HV )が−300以上300以下であることを特徴とする高強度鋼板。
[請求項2]
 大きさが20nm未満の析出物に含まれる前記Ti量が0.150mass%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
[請求項3]
 大きさが20nm未満の析出物に含まれる前記V量が0.550mass%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
[請求項4]
 mass%で、さらに、Cr:0.01%以上1.0%以下、W:0.005%以上1.0%以下、Zr:0.0005%以上0.05%以下のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の高強度鋼板。
[請求項5]
 mass%で、C:0.08%以上0.20%以下、Si:0.2%以上1.0%以下、Mn:0.5%以上2.5%以下、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.07%以上0.20%以下、V:0.20%以上0.80%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、1150℃以上1350℃以下の温度に加熱したのち、仕上げ圧延温度を850℃以上1000℃以下として熱間圧延を行い、次いで、650℃以上800℃未満の温度まで、平均冷却速度30℃/s以上で第一段冷却し、1秒以上5秒未満の時間で空冷し、次いで、冷却速度20℃/s以上で第二段冷却し、200℃超え550℃以下の温度で巻取り、式(1)を満たすことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
T1≦0.06×T2+764  式(1)
ただし、T1:第一段冷却の停止温度(℃)、T2:巻取り温度(℃)
[請求項6]
 成分組成として、mass%で、さらに、Cr:0.01%以上1.0%以下、W:0.005%以上1.0%以下、Zr:0.0005%以上0.05%以下のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5に記載の高強度鋼板の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]