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1. WO2019188640 - HIGH-STRENGTH SHEET STEEL AND METHOD FOR MANUFACTURING SAME

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明 細 書

発明の名称 高強度鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003  

先行技術文献

特許文献

0004  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0005   0006   0007  

課題を解決するための手段

0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016  

発明の効果

0017  

発明を実施するための形態

0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058  

実施例

0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076  

産業上の利用可能性

0077  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7  

明 細 書

発明の名称 : 高強度鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、自動車や電気等の産業分野で使用される部材に適用して好適な、成形性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に関し、特に、980MPa以上のTS(引張強さ)を有し、延性のみならず穴広げ性にも優れた高強度鋼板およびその製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 近年、地球環境の保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、車体材料の高強度化によって車体材料の薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、車体材料の一つである鋼板の高強度化は鋼板の成形性の低下を招くことから、高強度と高延性とを併せ持つ鋼板の開発が望まれている。高強度かつ高延性の鋼板として、残留オーステナイトの加工誘起変態を利用した高強度鋼板が提案されている。この高強度鋼板は、残留オーステナイトを有した組織を呈し、成形時には残留オーステナイトによって成形が容易である一方、成形後には残留オーステナイトがマルテンサイト化するため高強度を備えたものになる。
[0003]
 例えば、特許文献1には、引張強さが1000MPa以上で、全伸び(EL)が30%以上の残留オーステナイトの加工誘起変態を利用した非常に高い延性を有する高強度鋼板が記載されている。また、特許文献2には、高Mn鋼を用いて、フェライトとオーステナイトの二相域での熱処理を施すことによって、高い強度-延性バランスを実現する発明が記載されている。また、特許文献3には、高Mn鋼で熱延後組織をベイナイトやマルテンサイトを含む組織とし、焼鈍と焼戻しによって微細な残留オーステナイトを形成させ、さらに、焼戻しベイナイトもしくは焼戻しマルテンサイトを含む組織とすることで局部延性を改善する発明が記載されている。さらに、特許文献4には、中Mn鋼を用いて、フェライトとオーステナイトの二相域での熱処理を施すことによって未変態オーステナイト中へMnを濃化させることにより、安定な残留オーステナイトを形成させ全伸びを向上させる発明が記載されている。

先行技術文献

特許文献

[0004]
特許文献1 : 特開昭61-157625号公報
特許文献2 : 特開平1-259120号公報
特許文献3 : 特開2003-138345号公報
特許文献4 : 特許第6179677号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0005]
 特許文献1に記載の高強度鋼板は、C、Si、Mnを基本成分とする鋼板をオーステナイト化した後にベイナイト変態温度域内で焼入れして等温保持する、いわゆるオーステンパー処理を行うことによって製造される。このオーステンパー処理によるオーステナイトへのCの濃化によって残留オーステナイトが生成されるが、多量の残留オーステナイトを得るためには0.3%を超える多量のC添加が必要となる。しかしながら、鋼中のC濃度が高くなるとスポット溶接性が低下し、特に0.3%を超えるようなC濃度ではその低下が顕著になる。このため、特許文献1に記載の高強度鋼板を自動車用鋼板として実用化することは困難である。また、特許文献1に記載の発明は、高強度鋼板の延性を向上させることを主目的としており、穴広げ性や曲げ性を考慮していない。
[0006]
 また、特許文献2に記載の発明では、未変態オーステナイト中へのMn濃化による延性の向上は検討されておらず、成形性に改善の余地がある。また、特許文献3に記載の発明では、高Mn鋼は、高温で焼戻されたベイナイトもしくはマルテンサイトを多く含む組織であるため、強度確保が難しく、また、局部延性を改善するために残留オーステナイト量が制限されて全伸びも不十分である。また、特記文献4に記載の発明では、熱処理時間が短く、Mnの拡散速度が遅いため、Mnの濃化が不十分であると推察される。
[0007]
 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、980MPa以上のTS(引張強さ)を有し、かつ優れた成形性を有する高強度鋼板およびその製造方法を提供することにある。なお、本明細書中において、成形性とは、延性と穴広げ性のことを意味する。

課題を解決するための手段

[0008]
 本発明の発明者らは、上記した課題を解決し、優れた成形性を有する高強度鋼板を製造するため、鋼板の成分組成および製造方法の観点から鋭意研究を重ねたところ、以下のことを知見した。すなわち、3.10質量%以上4.20質量%以下のMnを含有し、Ti等のその他の合金元素の成分組成を適正に調整し、熱間圧延後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、次いで酸洗処理し、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却することによって、面積率で、フェライトが35%以上80%以下、マルテンサイトが5%以上35%以下、焼戻しマルテンサイトが0%以上5%以下であり、体積率で残留オーステナイトが8%以上であり、さらに、フェライトの平均結晶粒径が6μm以下、残留オーステナイトの平均結晶粒径が3μm以下であり、かつ塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値が0.6以上であり、残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値が1.5以上であり、かつ残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値が3.0以上にすることにより、Mnで安定化させた残留オーステナイトの確保による延性や穴広げ性等の成形性に優れた高強度鋼板の製造が可能となることを知見した。
[0009]
 本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[0010]
 本発明に係る高強度鋼板は、成分組成は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:3.10%以上4.20%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Al:0.001%以上1.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼組織は、面積率で、フェライトが35%以上80%以下、マルテンサイトが5%以上35%以下であり、焼戻しマルテンサイトが0%以上5%以下であり、体積率で残留オーステナイトが8%以上であり、さらに、前記フェライトの平均結晶粒径が6μm以下、前記残留オーステナイトの平均結晶粒径が3μm以下であり、かつ塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値が0.6以上であり、前記残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値が1.5以上であり、かつ前記残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値が3.0以上であることを特徴とする。
[0011]
 本発明に係る高強度鋼板は、上記発明において、高強度鋼板の成分組成が、さらに、質量%で、Ti:0.005%以上0.200%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、V:0.005%以上0.500%以下、W:0.005%以上0.500%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、Zr:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
[0012]
 本発明に係る高強度鋼板の製造方法は、本発明に係る高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上A 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却するステップを含むことを特徴とする。
[0013]
 本発明に係る高強度鋼板の製造方法は、本発明に係る高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施すステップを含むことを特徴とする。
[0014]
 本発明に係る高強度鋼板の製造方法は、本発明に係る高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施し、450℃以上600℃以下の温度域内で合金化処理を施すステップを含むことを特徴とする。
[0015]
 本発明に係る高強度鋼板の製造方法は、本発明に係る高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、次いで酸洗処理し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施すステップを含むことを特徴とする。
[0016]
 本発明に係る高強度鋼板の製造方法は、本発明に係る高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、次いで酸洗処理し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施し、さらに、450℃以上600℃以下の温度域内で合金化処理を施すステップを含むことを特徴とする。

発明の効果

[0017]
 本発明によれば、980MPa以上のTS(引張強さ)を有し、かつ優れた成形性を有する高強度鋼板およびその製造方法を提供することができる。

発明を実施するための形態

[0018]
 以下、本発明に係る高強度鋼板およびその製造方法について説明する。
[0019]
(1)本発明に係る高強度鋼板において鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
[0020]
〔C:0.030%以上0.250%以下〕
 Cは、マルテンサイト等の低温変態相を生成させて、鋼の強度を上昇させるために必要な元素である.また、Cは、残留オーステナイトの安定性を向上させ、鋼の延性を向上させるのに有効な元素である。Cの含有量が0.030%未満である場合、フェライトの面積率が過大となり、所望の強度が得られない。また、十分な残留オーステナイトの体積率を確保することが難しく、良好な延性が得られない。一方、Cを0.250%を超えて過剰に添加すると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となる。また、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。また、溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が低下するため、スポット溶接性やアーク溶接性等が劣化する。こうした観点から、Cの含有量は、0.030%以上0.250%以下、好ましくは0.080%以上0.200%以下の範囲内とする。
[0021]
〔Si:0.01%以上3.00%以下〕
 Siは、フェライトの加工硬化能を向上させるため、良好な延性の確保に有効である。Siの含有量が0.01%に満たない場合、Siの添加効果が乏しくなるため、Siの含有量の下限を0.01%とした。しかしながら、含有量が3.00%を超えるSiの過剰な添加は、鋼の脆化を引き起こし、延性および穴広げ性(打ち抜き)が劣化する。さらに、赤スケール等の発生による表面性状の劣化を引き起こし、化成処理性およびめっき品質を悪化させる。さらに、めっき品質の低下を招く。そのため、Siの含有量は、0.01%以上3.00%以下、好ましくは0.20%以上2.00%以下、より好ましくは0.20%以上0.70%未満の範囲内である。
[0022]
〔Mn:3.10%以上4.20%以下〕
 Mnは、本発明において極めて重要な添加元素である。Mnは、残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効であり、さらに、固溶強化によって鋼の強度を上昇させる元素である。このような作用は、Mnの含有量が3.10%以上で認められる。ただし、Mnの含有量が4.20%を超える過剰な添加は、化成処理性およびめっき品質を悪化させる。こうした観点から、Mnの含有量は、3.10%以上4.20%以下、好ましくは3.20%以上4.10%未満、より好ましくは、3.20%以上3.80%未満の範囲内である。
[0023]
〔P:0.001%以上0.100%以下〕
 Pは、固溶強化の作用を有し、所望の強度に応じて添加できる元素である。また、Pは、フェライト変態を促進するために複合組織化にも有効な元素である。こうした効果を得るためには、Pの含有量を0.001%以上にする必要がある。一方、Pの含有量が0.100%を超えると、溶接性の劣化を招くとともに、溶融亜鉛めっきを合金化処理する場合には、合金化速度を低下させ、溶融亜鉛めっきの品質を損なう。したがって、Pの含有量は、0.001%以上0.100%以下、好ましくは0.005%以上0.050%以下の範囲内とする。
[0024]
〔S:0.0001%以上0.0200%以下〕
 Sは、粒界に偏析して熱間加工時に鋼を脆化させるとともに、硫化物として存在して局部変形能を低下させる。そのため、Sの含有量の上限は、0.0200%以下、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下とする必要がある。しかしながら、生産技術上の制約から、Sの含有量は0.0001%以上にする必要がある。したがって、Sの含有量は、0.0001以上0.0200%以下、好ましくは0.0001%以上0.0100%以下、より好ましくは0.0001%以上0.0050%以下の範囲内とする。
[0025]
〔N:0.0005%以上0.0100%以下〕
 Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、Nの含有量が0.0100%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。Nの含有量は少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、Nの含有量は0.0005%以上にする必要がある。したがって、Nの含有量は、0.0005%以上0.0100%以下、好ましくは0.0010%以上0.0070%以下の範囲内とする。
[0026]
〔Al:0.001%以上1.200%以下〕
 Alは、フェライトとオーステナイトの二相域を拡大させ、焼鈍温度依存性の低減、つまり、材質安定性に有効な元素である。また、Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で添加することが好ましい。Alの含有量が0.001%に満たないとその添加効果に乏しくなるので、Alの含有量の下限を0.001%とした。しかしながら、含有量が1.200%を超える多量の添加は、連続鋳造時の鋼片割れ発生の危険性が高まり、製造性を低下させる。こうした観点から、Alの含有量は、0.001%以上1.200%以下、好ましくは0.020%以上1.000%以下、より好ましくは0.030%以上、0.800%以下の範囲内である。
[0027]
 また、上記の成分に加えて、質量%でTi:0.005%以上0.200%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、V:0.005%以上0.500%以下、W:0.005%以上0.500%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Co:0.001%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.1000%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有させ、残部をFeおよび不可避的不純物とすることができる。
[0028]
〔Ti:0.005%以上0.200%以下〕
 Tiは、本発明において極めて重要な添加元素である。Tiは、鋼の析出強化に有効であり、フェライトの強度を向上させることで硬質第2相(マルテンサイトもしくは残留オーステナイト)との硬度差を低減でき、良好な穴広げ性を確保可能である。その効果はTiの含有量が0.005%以上で得られる。しかしながら、Tiの含有量が0.200%を超えると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。従って、Tiを添加する場合には、その含有量は、0.005%以上0.200%以下、好ましくは0.010%以上0.100%以下の範囲内とする。
[0029]
〔Nb:0.005%以上0.200%以下、V:0.005%以上0.500%以下、W:0.005%以上0.500%以下〕
 Nb、V、Wは、鋼の析出強化に有効で、その効果はそれぞれの含有量を0.005%以上とすることによって得られる。また、Ti添加の効果と同様に、フェライトの強度を向上させることで、硬質第2相(マルテンサイトもしくは残留オーステナイト)との硬度差を低減でき、良好な穴広げ性を確保可能である。その効果は、Nb、V、Wそれぞれの含有量が0.005%以上で得られる。しかしながら、Nbの含有量が0.100%、V、Wの含有量が0.5%を超えると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。従って、Nbを添加する場合には、その含有量は、0.005%以上0.200%以下、好ましくは0.010%以上0.100%以下の範囲内とする。また、V、Wを添加する場合は、その含有量は、0.005%以上0.500%以下の範囲内とする。
[0030]
〔B:0.0003%以上0.0050%以下〕
 Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成および成長を抑制する作用を有し、フェライトの強度を向上させることで、硬質第2相(マルテンサイトもしくは残留オーステナイト)との硬度差を低減でき、良好な穴広げ性を確保可能である。その効果は、Bの含有量が0.0003%以上で得られる。しかしながら、Bの含有量が0.0050%を超えると成形性が低下する。従って、Bを添加する場合、その含有量は、0.0003%以上0.0050%以下、好ましくは0.0005%以上0.0030%以下の範囲内とする。
[0031]
〔Ni:0.005%以上1.000%以下〕
 Niは、残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効であり、さらに、固溶強化によって鋼の強度を上昇させる元素である。その効果は、Niの含有量が0.005%以上で得られる。一方、含有量1.000%を超えて添加すると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。従って、Niを添加する場合には、Niの含有量は、0.005%以上1.000%以下の範囲内とする。
[0032]
〔Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下〕
 Cr、Moは、鋼の強度と延性のバランスを向上させる作用を有するので、必要に応じて添加することができる。その効果は、Crの含有量が0.005%以上、Moの含有量が0.005%%以上で得られる。しかしながら、Crについては含有量1.000%、Moについては含有量1.000%を超えて過剰に添加すると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。従って、これらの元素を添加する場合には、Crの含有量は、0.005%以上1.000%以下の範囲内、Moの含有量は、0.005%以上1.000%以下の範囲内とする。
[0033]
〔Cu:0.005%以上1.000%以下〕
 Cuは、鋼の強化に有効な元素であり、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。その効果は、Cuの含有量が0.005%以上で得られる。一方、含有量1.000%を超えて添加すると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、穴広げ試験時に、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、穴広げ性が低下する。従って、Cuを添加する場合には、Cuの含有量は、0.005%以上1.000%以下の範囲内とする。
[0034]
〔Sn:0.005%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.200%以下〕
 SnおよびSbは、鋼板表面の窒化や酸化によって生じる鋼板表層の数十μm程度の領域の脱炭を抑制する観点から、必要に応じて添加する。このような窒化や酸化を抑制することによって、鋼板表面においてマルテンサイトの面積率が減少することが抑制され、強度や材質安定性の確保に有効である。一方で、これらいずれの元素についても、含有量0.200%を超えて過剰に添加すると靭性の低下を招く。従って、SnおよびSbを添加する場合には、その含有量はそれぞれ、0.002%以上0.200%以下の範囲内とする。
[0035]
〔Ta:0.001%以上0.100%以下〕
 Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物や合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb、Ta)(C、N)のような複合析出物を生成することで析出物の粗大化を著しく抑制し、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。このため、Taを含有することが好ましい。ここで、前述の析出物安定化の効果は、Taの含有量を0.001%以上とすることで得られる。一方で、Taを過剰に添加しても析出物安定化効果が飽和する上、合金コストが増加する。従って、Taを添加する場合には、Taの含有量は、0.001%以上0.100%以下の範囲内とする。
[0036]
〔Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、Zr:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下〕
 Ca、Mg、ZrおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、穴広げ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.0005%以上の含有量が必要である。しかしながら、それぞれ含有量0.0050%を超える過剰な添加は、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥等を引き起こす。従って、Ca、Mg、ZrおよびREMを添加する場合は、その含有量はそれぞれ、0.0005%以上0.0050%以下の範囲内とする。
[0037]
(2)次に、本発明に係る高強度鋼板のミクロ組織について説明する。
[0038]
〔フェライトの面積率:35%以上80%以下〕
 十分な延性を確保するため、フェライトの面積率を35%以上にする必要がある。また、980MPa以上の強度確保のため、軟質なフェライトの面積率を80%以下にする必要がある。フェライトの面積率は、好ましくは40%以上75%以下の範囲内である。
[0039]
〔マルテンサイトの面積率:5%以上35%以下〕
 980MPa以上のTSを達成するためには、マルテンサイトの面積率を5%以上にする必要がある。また、良好な延性を確保するためには、マルテンサイトの面積率を35%以下にする必要がある。マルテンサイトの面積率は、好ましくは5%以上30%以下の範囲内である。
[0040]
〔焼戻しマルテンサイトの面積率:0%以上5%以下〕
 焼戻しマルテンサイトは良好な穴広げ性を確保するために必要である。また、980MPa以上のTSを達成するためには焼戻しマルテンサイトの面積率を5%以下にする必要がある。焼戻しマルテンサイトの面積率は、好ましくは0%以上3%以下の範囲内である。なお、フェライト、マルテンサイトおよび焼戻しマルテンサイトの面積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を研磨後、3vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4の位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を用いて、Media Cybernetics社のImage-Proを用いて各組織(フェライト、マルテンサイト、焼戻しマルテンサイト)の面積率を10視野分算出し、それらの値を平均化して求めた。また、上記の組織画像において、フェライトは灰色の組織(下地組織)、マルテンサイトは白色の組織、焼戻しマルテンサイトは白色のマルテンサイトの内部に灰色の内部構造を有する組織を呈している。
[0041]
〔残留オーステナイトの体積率:8%以上〕
 十分な延性を確保するため、残留オーステナイトの体積率を8%以上にする必要がある。残留オーステナイトの堆積率は、好ましくは12%以上の範囲内である。なお、残留オーステナイトの体積率は、鋼板を板厚1/4の位置から0.1mmの面まで研磨後、化学研磨によってさらに0.1mm研磨した面について、X線回折装置でCoKα線を用いて、fcc鉄の(200)、(220)、(311)面およびbcc鉄の(200)、(211)、(220)面の回折ピークの各々の積分強度比を測定し、得られた9つの積分強度比を平均化して求めた。
[0042]
〔フェライトの平均結晶粒径:6μm以下〕
 フェライトの結晶粒の微細化は、TSの向上に寄与する。そのため、所望のTSを確保するため、フェライトの平均結晶粒径を6μm以下にする必要がある。フェライトの平均結晶粒径は、好ましくは5μm以下の範囲内である。
[0043]
〔残留オーステナイトの平均結晶粒径:3μm以下〕
 残留オーステナイトの結晶粒の微細化は延性と穴広げ性の向上に寄与する。そのため、良好な延性および穴広げ性を確保するためには、残留オーステナイトの平均結晶粒径を3μm以下にする必要がある。残留オーステナイトの平均結晶粒径は、好ましくは2.5μm以下の範囲内である。なお、フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの平均結晶粒径は、上述のImage-Proを用いて、フェライト粒、マルテンサイト粒、残留オーステナイト粒の各々の面積を求め、円相当直径を算出し、それらの値を平均して求めた。また、マルテンサイトと残留オーステナイトは、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)のPhase Mapによって識別した。
[0044]
〔塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値が0.6以上〕
 塊状オーステナイトの面積率は、穴広げ性の向上に寄与する。そのため、良好な穴広げ性を確保するためには、塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値を0.6以上にする必要がある。塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値は、好ましくは0.8以上の範囲内である。ここでいう塊状オーステナイトとは、長軸と短軸のアスペクト比が2.0未満のものであり、ラス状オーステナイとトは2.0以上のものを指す。なお、残留オーステナイトのアスペクト比は、Photoshop elements 13を用いて、残留オーステナイト粒に外接する楕円を描画し、その長軸長さを短軸長さで除することで算出した。
[0045]
〔残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値:1.5以上〕
 残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値が1.5以上であることは、本発明において極めて重要な構成案件である。良好な延性を確保するためには、Mnが濃化した安定な残留オーステナイトの体積率が多い必要がある。残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値は、好ましくは2.0以上の範囲内である。残留オーステナイト中のMnの平均含有量は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化し、30個の残留オーステナイト粒および30個のフェライト粒の量分析結果の平均値によって求めた。
[0046]
〔残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値:3.0以上〕
 残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値が3.0以上であることは、本発明において極めて重要な構成案件である。良好な延性を確保するためには、Cが濃化した安定な残留オーステナイトの体積率が多い必要がある。残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値は、好ましくは5.0以上の範囲内である。残留オーステナイト中のCの平均含有量は、EPMAを用いて、板厚1/4の位置における圧延方向断面の各相へのCの分布状態を定量化し、30個の残留オーステナイト粒および30個のフェライト粒の量分析結果の平均値によって求めた。
[0047]
 本発明に係る高強度鋼板のミクロ組織には、フェライト、マルテンサイト、焼戻しマルテンサイトおよび残留オーステナイト以外に、ベイナイト、焼戻しベイナイト、パーライト、セメンタイト等の炭化物が、面積率で10%以下の範囲で含まれても、本発明の効果が損なわれることはない。
[0048]
(3)次に、本発明に係る高強度鋼板の製造条件について説明する。
[0049]
〔鋼スラブの加熱温度〕
 特に限定はしないが、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上1300℃以下の温度域内にすることが好ましい。鋼スラブの加熱段階で存在している析出物は、最終的にえられる鋼板内では粗大な析出物として存在し、強度に寄与しないため、鋳造時に析出したTi、Nb系析出物を再溶解させる必要がある。鋼スラブの加熱温度が1100℃未満では、炭化物の十分な固溶が困難であり、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する等の問題が生じる。そのため、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上にする必要がある。また、スラブ表層の気泡、偏析等の欠陥をスケールオフし、鋼板表面の亀裂、凹凸を減少し、平滑な鋼板表面を達成する観点からも、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上にする必要がある。一方、鋼スラブの加熱温度が1300℃超では、酸化量の増加に伴いスケールロスが増大するため、鋼スラブの加熱温度は1300℃以下にする必要がある。鋼スラブの加熱温度は、より好ましくは1150℃以上1250℃以下の温度域内とする。
[0050]
 鋼スラブは、マクロ偏析を防止するため、連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法等によって製造することも可能である。また、鋼スラブを製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延等の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。また、鋼スラブは通常の条件で粗圧延によってシートバーとされるが、加熱温度を低目にした場合は、熱間圧延時のトラブルを防止する観点から、仕上げ圧延前にバーヒーター等を用いてシートバーを加熱することが好ましい。
[0051]
〔熱間圧延の仕上げ圧延出側温度:750℃以上1000℃以下〕
 加熱後の鋼スラブは、粗圧延および仕上げ圧延によって熱間圧延され熱延鋼板となる。このとき、仕上げ圧延出側温度が1000℃を超えると、酸化物(スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物の界面が荒れ、酸洗、冷間圧延後の表面品質が劣化する傾向にある。また、酸洗後に熱延スケールの取れ残り等が一部に存在すると、延性や穴広げ性に悪影響を及ぼす。さらに、結晶粒径が過度に粗大となり、加工時にプレス品表面荒れを生じる場合がある。一方、仕上げ圧延出側温度が750℃未満では圧延荷重が増大し、圧延負荷が大きくなる。また、オーステナイトが未再結晶状態での圧下率が高くなり、フェライトの平均結晶粒径が粗大化、さらに異常な集合組織が発達し、最終製品における面内異方性が顕著となり、材質の均一性(材質安定性)が損なわれるだけでなく、強度および延性の確保が困難となる。従って、熱間圧延の仕上げ圧延出側温度は、750℃以上1000℃以下、好ましくは800℃以上950℃以下の温度域内とする。
[0052]
〔熱間圧延後のコイル内平均巻き取り温度:300℃以上750℃以下〕
 熱間圧延後のコイル内平均巻き取り温度が750℃を超えると、熱延鋼板組織のフェライトの結晶粒径が大きくなり、最終焼鈍板の所望の強度および延性の確保が困難となる。一方、熱間圧延後のコイル内平均巻き取り温度が300℃未満では、熱延鋼板強度が上昇し、冷間圧延における圧延負荷が増大したり、板形状の不良が発生したりするため、生産性が低下する。従って、熱間圧延後のコイル内平均巻き取り温度は、300℃以上750℃以下、好ましくは400℃以上650℃以下の温度域内とする。なお、熱間圧延時に粗圧延鋼板同士を接合して連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延鋼板を一旦巻き取っても構わない。また、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延時の摩擦係数は、0.25以上0.10以下の範囲内とすることが好ましい。このようにして製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の高強度鋼板の良好な化成処理性やめっき品質の確保のために重要である。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
[0053]
〔Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持〕
 Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持することは、本発明において、極めて重要な発明構成案件である。Ac 変態点未満の温度域内およびAc 変態点+150℃を越える温度域内および21600s未満で保持する場合、オーステナイト中へのMnの濃化が十分に進行せず、最終焼鈍後に十分な残留オーステナイトの体積率の確保が困難となり、鋼の延性が低下する。また、保持する時間は129600s以下が好ましい。129600sを超えて保持する場合、オーステナイト中へのMnの濃化が飽和し、最終焼鈍後の延性への効き代が小さくなるだけでなく、コストアップにつながる可能性がある。なお、熱処理方法は連続焼鈍やバッチ焼鈍のいずれの焼鈍方法でも構わない。また、前記の熱処理後、鋼を室温まで冷却するが、その冷却方法および冷却速度は特に規定せず、バッチ焼鈍における炉冷、空冷および連続焼鈍におけるガスジェット冷却、ミスト冷却、水冷等のいずれの冷却でも構わない。また、酸洗処理を施す場合は常法でよい。
[0054]
〔Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持〕
 冷間圧延後、必要に応じて、Ac 1変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持する焼鈍処理を行う。Ac 1変態点未満の温度域内、20s未満で保持する場合、および900sを越えて保持する場合、オーステナイト中へのMnの濃化が十分に進行せず、最終焼鈍後に十分な残留オーステナイトの体積率の確保が困難となり、鋼の延性が低下する。
[0055]
〔Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持〕
 Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持することは、本発明において、極めて重要な発明構成案件である。Ac 変態点未満の温度域内および20s未満保持する場合、昇温中に形成される炭化物が溶け残り、十分な体積率の残留オーステナイトの確保が困難となり、鋼の延性が低下する。また、フェライトの面積率が増加し、強度の確保が困難となる。一方、Ac 変態点+150℃を超える温度域内および900sを越えて保持する場合、オーステナイト中へのMnの濃化が十分に進行せず、延性確保のための十分な体積率の残留オーステナイトを得ることができない。さらに、マルテンサイトの面積率が増加し、高強度化し、延性の確保が困難となる。温度域の上限は、好ましくはAc 1変態点+100℃以下である。
[0056]
〔めっき処理を施すこと〕
 溶融亜鉛めっき処理を施すときは、焼鈍処理を施した鋼板を440℃以上500℃以下の温度域内の溶融亜鉛めっき浴中に浸漬し、溶融亜鉛めっき処理を施し、その後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整する。なお、溶融亜鉛めっき浴としては、Alの含有量が0.08%以上0.30%以下の範囲内にある溶融亜鉛めっき浴を用いることが好ましい。溶融亜鉛めっきの合金化処理を施すときは、溶融亜鉛めっき処理後に、450℃以上600℃以下の温度域内で溶融亜鉛めっきの合金化処理を施す。600℃を超える温度で合金化処理を行うと、未変態オーステナイトがパーライトへ変態し、所望の残留オーステナイトの体積率を確保できず、鋼の延性が低下する場合がある。したがって、溶融亜鉛めっきの合金化処理を行うときは、450℃以上600℃以下の温度域内で溶融亜鉛めっきの合金化処理を施すことが好ましい。その他の製造方法の条件は、特に限定しないが、生産性の観点から、上記の焼鈍処理は、連続焼鈍設備で行うことが好ましい。また、焼鈍、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきの合金化処理等の一連の処理は、溶融亜鉛めっきラインであるCGL(Continuous Galvanizing Line)で行うのが好ましい。
[0057]
 なお、高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するときは、めっき直前の熱処理より前(例えば熱間圧延巻取後と1回目の熱処理の間、めっき直前の熱処理(3回目の熱処理)とその1つ前の熱処理(2回目の熱処理)の間)に、酸洗処理を施すことによって、最終的に良好なめっき品質が得られる。これは、めっき処理直前の表面に酸化物が存在することが抑制され、その酸化物による不めっきが抑えられるためである。さらに詳細に述べると、熱処理時に易酸化元素(Mn、Cr、Si等)が鋼板表面に酸化物を作り濃化するため、熱処理後の鋼板表面(酸化物直下)に易酸化元素の欠乏層が形成され、その後の酸洗処理で易酸化元素による酸化物を除去すると、鋼板表面には易酸化元素の欠乏層が現れ、その後の3回目熱処理時に易酸化元素の表面酸化が抑制されるためである。
[0058]
 また、上記の「高強度鋼板」、「高強度溶融亜鉛めっき鋼板」に、形状矯正や表面粗度の調整等を目的としてスキンパス圧延を行うことができる。スキンパス圧延の圧下率は、0.1%以上2.0%以下の範囲内にあることが好ましい。0.1%未満の圧下率では効果が小さく、制御も困難であることから、これが良好範囲の下限となる。また、圧下率が2.0%を超えると、生産性が著しく低下するので、これを良好範囲の上限とする。なお、スキンパス圧延は、オンラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパス圧延を行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。また、樹脂や油脂コーティング等の各種塗装処理を施すこともできる。
実施例
[0059]
 表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを1250℃まで再加熱した後、表2に示す条件で熱間圧延、Ac 変態点以上で焼鈍、冷間圧延、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下焼鈍した後、高強度冷延鋼板(CR)を得て、さらに、亜鉛めっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。溶融亜鉛めっき浴は、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)では、Al:0.19質量%含有亜鉛浴を使用し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)では、Al:0.14質量%含有亜鉛浴を使用し、浴温は465℃とした。めっき付着量は片面あたり45g/m (両面めっき)とし、GAは、めっき層中のFe濃度が9質量%以上12質量%以下の範囲内になるように調整した。得られた鋼板の断面ミクロ組織、引張特性、穴広げ性、化成処理性、めっき性を評価した。評価結果を表3に示す。
[0060]
[表1]


[0061]
[表2]


[0062]
[表3]


[0063]
 なお、Ac 変態点とAc 変態点は以下の式を用いて求めた。
[0064]
Ac 変態点(℃)
=751-16×(%C)+11×(%Si)-28×(%Mn)-5.5×(%Cu)
-16×(%Ni)+13×(%Cr)+3.4×(%Mo)
[0065]
Ac 変態点(℃)
=910-203√(%C)+45×(%Si)-30×(%Mn)-20×(%Cu)
-15×(%Ni)+11×(%Cr)+32×(%Mo)+104×(%V)+400
×(%Ti)+200×(%Al)
[0066]
 ここで、(%C)、(%Si)、(%Mn)、(%Ni)、(%Cu)、(%Cr)、(%Mo)、(%V)、(%Ti)、(%Al)は、それぞれの元素の含有量(質量%)である。
[0067]
 引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いてJIS Z 2241(2011年)に準拠して行い、TS(引張強さ)、EL(全伸び)を測定した。また、機械的特性は下記の場合を良好と判断した。
[0068]
TS980MPa以上1080MPa未満   EL≧20%
TS1080MPa以上1180MPa未満  EL≧16%
TS1180MPa以上1270MPa未満  EL≧12%
(板厚1.2mm以上1.8mm以下)
[0069]
 穴広げ性は、JIS Z 2256(2010年)に準拠して評価した。得られた各鋼板を100mm×100mmに切断後、クリアランス12%±1%で直径10mmの穴を打ち抜くか、またはリーマ加工によって直径10mmの穴に削り広げた後、内径75mmのダイスを用いてしわ押さえ力9tonで抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定し、下記の式から限界穴広げ率λ(%)を求め、この限界穴広げ率λの値から穴広げ性を評価した。ここで、リーマ加工とは、ドリルによって加工された内径を、切れ刃部で所定の穴寸法に削り広げ、さらに加工面をマージン部で擦り潰しながら仕上げを行うことである。
[0070]
 限界穴広げ率λ(%)={(D -D )/D }×100
[0071]
 ただし、D は亀裂発生時の穴径(mm)、D は初期穴径(mm)である。なお、本発明では、TS範囲ごとに下記の場合を良好と判断した。
[0072]
TS980MPa以上1080MPa未満   (打ち抜き)λ≧15%、(リーマ加工)λ≧40%
TS1080MPa以上1180MPa未満  (打ち抜き)λ≧12%、(リーマ加工)λ≧35%
TS1180MPa以上1270MPa未満  (打ち抜き)λ≧10%、(リーマ加工)λ≧30%
[0073]
 化成処理性は、得られた冷延鋼板に対して、日本パーカライジング社製の化成処理液(パルボンドL3080(登録商標))を用いて下記方法で化成処理を行うことによって化成被膜を形成することにより評価した。具体的には、まず、得られた冷延鋼板を、日本パーカライジング社製の脱脂液ファインクリーナ(登録商標)を用いて脱脂した後、水洗した。次に、日本パーカライジング社製の表面調整液プレパレンZ(登録商標)を用いて30秒間の表面調整を行なった。表面調整した冷延鋼板を、43℃の化成処理液(パルボンドL3080)に120秒間浸漬し、その後、水洗し、温風で乾燥した。こうして、冷延鋼板に化成処理を施した。化成処理後の冷延鋼板の表面について、SEMを用いて倍率500倍で無作為に5視野を観察した。化成被膜が生成されていない領域(スケ)の面積率[%]を画像処理によって求め、求めた面積率によって以下の評価をした。評点4または評点5であれば化成処理性が良好と言える。なかでも、評点5であることが好ましい。
[0074]
 評点5 : 5%以下
 評点4 : 5%超10%以下
 評点3 : 10%超25%以下
 評点2 : 25%超40%以下
 評点1 : 40%超
[0075]
 めっき性は、外観によって評価した。不めっき、合金化むら、その他の表面品質を損なう欠陥等の外観不良がなく、適切な表面品質が確保されている場合を○、特に色調のむら等もなく優れた外観を有する場合を◎、一部軽微な欠陥が見られる場合を△、多くの表面欠陥が見られた場合を×と判定した。
[0076]
 表3から明らかなように、本発明例では、いずれも980MPa以上のTSを有し、成形性に優れた高強度鋼板が得られた。一方、比較例では、TS、EL、λ、化成処理性、めっき性の少なくとも一つの特性が劣っていた。

産業上の利用可能性

[0077]
 本発明によれば、980MPa以上のTS(引張強さ)を有し、かつ優れた成形性を有する高強度鋼板およびその製造方法を提供することができる。

請求の範囲

[請求項1]
 成分組成は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:3.10%以上4.20%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Al:0.001%以上1.200%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
 鋼組織は、面積率で、フェライトが35%以上80%以下、マルテンサイトが5%以上35%以下であり、焼戻しマルテンサイトが0%以上5%以下であり、体積率で残留オーステナイトが8%以上であり、さらに、前記フェライトの平均結晶粒径が6μm以下、前記残留オーステナイトの平均結晶粒径が3μm以下であり、かつ塊状オーステナイトの面積率をラス状オーステナイトと塊状オーステナイトの面積率の和で除した値が0.6以上であり、前記残留オーステナイト中のMnの平均含有量(質量%)をフェライト中のMnの平均含有量(質量%)で除した値が1.5以上であり、かつ前記残留オーステナイト中のCの平均含有量(質量%)をフェライト中のCの平均含有量(質量%)で除した値が3.0以上であることを特徴とする高強度鋼板。
[請求項2]
 請求項1に記載の高強度鋼板の成分組成が、さらに、質量%で、Ti:0.005%以上0.200%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、V:0.005%以上0.500%以下、W:0.005%以上0.500%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、Zr:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度鋼板。
[請求項3]
 請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却するステップを含むことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[請求項4]
 請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施すステップを含むことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[請求項5]
 請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施し、450℃以上600℃以下の温度域内で合金化処理を施すステップを含むことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[請求項6]
 請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、次いで酸洗処理し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施すステップを含むことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[請求項7]
 請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板の成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の温度域内で熱間圧延し、300℃以上750℃以下の温度域内で巻き取り、次いで、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で21600s超保持し、冷間圧延し、その後、Ac 変態点以上の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、次いで酸洗処理し、その後、Ac 変態点以上Ac 変態点+150℃以下の温度域内で20s以上900s以下保持後、冷却し、亜鉛めっき処理を施し、さらに、450℃以上600℃以下の温度域内で合金化処理を施すステップを含むことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。