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1. WO2017110705 - AGENT FOR ENHANCING SYNAPSE FORMATION AND THERAPEUTIC AGENT FOR NEURODEGENERATIVE DISEASE

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明 細 書

発明の名称 シナプス形成増強剤及び神経変性疾患治療剤

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005  

先行技術文献

非特許文献

0006  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0007  

課題を解決するための手段

0008   0009   0010   0011  

発明の効果

0012   0013  

図面の簡単な説明

0014  

発明を実施するための形態

0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070  

実施例

0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122  

請求の範囲

1   2   3   4  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11  

明 細 書

発明の名称 : シナプス形成増強剤及び神経変性疾患治療剤

技術分野

[0001]
 本発明は、シナプス形成増強剤及びそれを有効成分として包含する神経変性疾患治療剤に関する。

背景技術

[0002]
 神経変性疾患は、中枢神経系等における特定領域の神経細胞群が徐々に消失することによって発症する進行性の神経疾患である。様々な神経変性疾患が報告されているが、いずれも難治性の疾患であり、有効な治療法を欠く。
[0003]
 神経変性疾患は、一般に高齢者が発症しやすく、加齢が一因となっていると考えられている。また神経変性疾患は、発症までの潜伏期間が長く、発症後の治療は一般に困難であることから、発症前の予防対策が重要とされている。一般に疾患の予防には、対象となる疾患の発症機序の解明が前提となる。しかし、神経変性疾患に関しては、遺伝性の家族性神経変性疾患のいくつかで原因遺伝子が同定され、発症機序も遺伝子レベルやタンパク質レベルで解明されつつあるものの、孤発性神経変性疾患をはじめとする多くの神経変性疾患は、未だに原因すらも明らかにされていない(非特許文献1及び2)。
[0004]
 将来到来する高齢化社会において、認知症等の神経変性疾患患者数の増加は、医療費の増大や介護の負担増を伴うことから深刻な社会問題となることが予想される。また、認知症患者の増加による経済的、社会的損失は計り知れない。それ故に、神経変性疾患の発症を予防し、また既に発症した患者については、進行を抑え、症状を軽減又は改善することによって患者のQOLを向上させることのできる予防法、治療法の開発が急務となっている。
[0005]
 現在、多くの疾患治療の開発には、その発症原因となる病原性遺伝子やその遺伝子産物の活性を抑制又は阻害する方法に注力されている(非特許文献3~6)。しかし、標的分子が特定された治療薬や治療法は、薬理効果や治療範囲がその分子の関与する範囲に限定される。例えば、ハンチントン病の治療薬として、原因分子である異常型ハンチンチンタンパク質を標的とする薬剤を開発した場合、ハンチントン病患者に対しては治療効果が認められても、同じ神経変性疾患であるアルツハイマー病患者に対しては期待できない。それ故、神経変性疾患毎の原因及び発生機序の解明及びその治療薬又は治療法の開発が必要となる。一つの治療薬で、多くの神経変性疾患を予防し、また症状を改善、治療できる汎用性のある薬剤は、知られていない。

先行技術文献

非特許文献

[0006]
非特許文献1 : 辻 省次, 神経変性疾患-研究と診断の進歩, 医学のあゆみ, 2013 Nov. 247(5)
非特許文献2 : Mitsui J. and Tsuji S., 2014, Biochem Biophys Res Commun. 452(2):221-5.
非特許文献3 : Nagai Y., et al., 2007, Brain Nerve. 59(4): 393-404.
非特許文献4 : Hohjoh H., 2013, Pharmaceuticals (Basel), 6(4):522-535.
非特許文献5 : Takahashi M., et al., 2010, Proc Natl Acad Sci USA, 107(50): 21731-21736
非特許文献6 : Takahashi M., et al., 2012, Gene Ther. 19(7): 781-785

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0007]
 本発明は、神経変性疾患により破壊され、消失したシナプスを再形成させる薬剤を開発し、その効果によって、神経変性疾患を治療又は予防する医薬組成物を提供することである。

課題を解決するための手段

[0008]
 上記課題を解決するため、本発明者らは、シナプス形成に関与する因子の探索を行った。
[0009]
 シナプス形成は、生後初期の段階で爆発的に増加する。したがって、シナプス形成に関与する因子は、生後初期の段階で発現が急激に増加している可能性が高い。そこで、生後1か月以内の様々な時期における正常マウス脳神経細胞の遺伝子発現プロファイルを作成し、発現が劇的に増加し、その後維持される遺伝子を候補遺伝子として選択した。一方、ハンチントン病のモデルマウスR6/2系統を用いて、前記候補遺伝子の同時期の発現プロファイルを検証し、正常マウスとの発現パターンを比較した。R6/2マウスでは、シナプス形成が抑制されている可能性が高い。その結果、R6/2マウスでは、miR-132遺伝子及びmiR-212遺伝子が一旦正常マウスと同程度に劇的に発現し、プラトーに達した後に、維持されることなく有意に減少することが明らかとなった(図1)。miR-132のインビトロレスキュー実験では、病原性の変異型ハンチンチン遺伝子を有する細胞で、シナプス形成が有意に回復した。また、R6/2マウスの脳線条体にmiR-132を導入したところ、運動機能や寿命も有意に改善することが明らかとなった。さらに、miR-132は、変異型ハンチンチン遺伝子又はその産物を直接処理することなく、ハンチントン病を改善できることが判明した。本発明は、当該新たな知見に基づくものであって、以下を提供する。
[0010]
(1)以下の(a)~(c)に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド又はその転写産物からなるシナプス形成増強剤。
 (a)配列番号1又は5で示す塩基配列、
 (b)配列番号1又は5で示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列、又は
 (c)配列番号1又は5で示す塩基配列に対して95%以上の塩基同一性を有する塩基配列
(2)前記ポリヌクレオチドが発現ベクターに発現可能な状態で包含されている、(1)に記載のシナプス形成増強剤。
(3)(1)又は(2)に記載のシナプス形成増強剤を有効成分として含む神経変性疾患予防治療剤。
(4)前記神経変性疾患がハンチントン病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、又は筋委縮性側索硬化症である、(3)に記載の神経変性疾患治療剤。
[0011]
 本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-248219号の開示内容を包含する。

発明の効果

[0012]
 本発明のシナプス形成増強剤は、神経細胞に作用して、破壊や解離によって消失したシナプスを再形成させることができる。
[0013]
 本発明の神経変性疾患予防治療剤は、神経細胞のシナプス形成を増強することができる。その効果によって、神経変性疾患の発症を予防すると共に、神経変性疾患により失われた脳神経機能を改善することができる。

図面の簡単な説明

[0014]
[図1] 正常マウスと神経変性疾患モデルマウスの脳の5つの小区域におけるmiR-132、miR-212及び陰性対照のmiR-16の発現プロファイルを示す。
[図2] ウイルス発現ベクターAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理したマウスの線条体におけるmiR-132の発現レベルを示す図である。データは、AAV9_miR-Negを有する野生型マウスの発現レベルを1として標準化した。実験は、6個体のマウス(n=6)で独立して行った。図中の「*」は、P<0.05を示す。
[図3] ウイルス発現ベクターAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理した野生型マウス(WT)及びR6/2マウス(HD)のロータロッドテストの結果を示す図である。
[図4] ウイルス発現ベクターAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理したマウスのオープンフィールドテストの結果を示す図である。図中の「*」は、P<0.05を示す。
[図5] ウイルス発現ベクターAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理した野生型マウス(WT)及びR6/2マウス(HD)の生存曲線を示す図である。aはAAV9_miR-Negを導入したR6/2マウスを、bはAAV9_miR-132を導入したR6/2マウスを、cはAAV9_miR-132を導入した野生型マウスを、dはAAV9_miR-Negを導入した野生型マウスを、それぞれ示す。図中の「*」は、P<0.05を示す。
[図6] マウスの脳におけるシナプス形成関連タンパク質(vGluT1, SynI, PSD95)量を示すウェスタンブロッティングである。
[図7] A:免疫細胞化学の結果を示す図である。各段の画像は、それぞれ同視野を示す。Merge図中の矢印は、神経突起上のSynI陽性シナプス棘を示す。B:Aの結果から得られた10μmの神経突起上に存在するSynI陽性シナプス棘数をグラフ化した図である。図中、「*」は、P<0.05を「n.s.」は、有意差「significant difference」がないことを示す。
[図8] A:AAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negを導入したR6/2マウス(HD)における脳の免疫組織化学を示す図である。上段、及び下段の画像は、それぞれ同視野を示す。図中、矢頭は、GFP陽性細胞で観察された封入体を示す。B:AAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negを導入したマウスあたりの異なる3視野(247μm × 247μm/視野)における封入体を包含するGFP陽性細胞の数をグラフ化した図である。図中、「n.s.」は、有意差「significant difference」がないことを示す。
[図9] AAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理したR6/2マウスにおける変異型HTT導入遺伝子(Transgene)の発現レベルを示す図である。この図の上段は、各マウスの脳から総mRNAを抽出し、配列番号11及び12に示すプライマーを用いて常法でRT-PCRを行った後、増幅産物をアガロースゲルで展開し、エチジウムブロミドで染色したゲルを示している。下段は内部標準として用いたGapdh(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子の発現量を示す図である。
[図10] 正常マウス(WT)と脊髄小脳変性症モデルマウス(SCA1)の小脳(Crb)におけるmiR-132の発現プロファイルを示す。
[図11] 正常マウス(WT)と脊髄小脳変性症モデルマウス(SCA1)の(A)大脳皮質(Ctx)、(B)中脳(MB)及び(C)線条体におけるmiR-132の発現プロファイルを示す。

発明を実施するための形態

[0015]
1.シナプス形成増強剤
1-1.概要
 本発明の第1の態様は、シナプス形成増強剤である。本発明のシナプス形成増強剤は、特定のmiRNA、又はそれをコードするポリヌクレオチドからなる。本発明のシナプス形成増強剤によれば、形成されたシナプスを維持又は強化し、さらに破壊されたシナプスを再形成させることができる。
[0016]
1-2.定義
 「シナプス」とは、神経細胞間又は神経細胞と他種細胞間における情報伝達のための接触構造をいう。ここで言う「他種細胞」とは、主に筋細胞(筋繊維)が該当する。本明細書では特に断りのない限り、以下、シナプスとは、狭義のシナプス、すなわち神経細胞間の接触構造を指すものとする。シナプスは、神経伝達物質を介して神経細胞間の情報伝達を行う「化学シナプス」と、細胞接着分子によって接着した細胞間のイオン電流を介して情報伝達を行う「電気シナプス」に大別されるが、本明細書のシナプスはいずれのシナプスであってもよい。好ましくは化学シナプスである。
[0017]
 本明細書において「シナプス(の)形成」とは、細胞間、主に神経細胞間でシナプスが形成されることをいう。神経細胞間でのシナプス形成は、通常、情報シグナルを伝える側のシナプス前細胞の軸索末端とそのシグナルを受け取る側のシナプス後細胞の樹状突起の間で形成される。複数の神経細胞間で、より高次のシナプスが形成されることによって、脳に見られる複雑な神経回路網(ニューラルネットワーク)が形成される。
[0018]
 本明細書において「シナプス形成(の)増強」とは、シナプスの形成を増加させること、形成されたシナプスを維持又は強化すること、又は神経変性疾患等の障害により破壊又は解離したシナプスを再形成させること、及びそれによって従前の神経回路網を回復させることをいう。
[0019]
1-3.構成
 本発明のシナプス形成増強剤は、ポリヌクレオチドで構成される。このポリヌクレオチドは、miR-132遺伝子若しくはmiR-212遺伝子、又はそれらの転写産物を含む。
(1)miR-132遺伝子
 「miR-132遺伝子」は、miR-132をコードする遺伝子で、原則としてDNAで構成される。miR-132遺伝子は、神経成熟やシナプスの安定性に関与することが報告されている(Magill, S.T., et al., 2010, Proc Natl Acad Sci U S A 107, 20382-20387; Wanet, A., et al., 2012, Nucleic Acids Res 40, 4742-4753; Remenyi, J., et al., 2013, PLoS One 8, e62509)。また、miR-132遺伝子の発現は、幼児期の脳において生後劇的に増加し、その後、維持されることが明らかとなっている(Eda, A., et al., 2011, Gene 485, 46-52)。しかし、シナプス形成及び神経変性疾患等の疾患との関連性については報告がなく、その具体的な機能については、これまで不明であった。
[0020]
 本発明のシナプス形成増強剤を構成するmiR-132遺伝子は、野生型miR-132をコードする野生型miR-132遺伝子、又は野生型miR-132と同等以上の活性を有する変異型miR-132をコードする変異型miR-132遺伝子を包含する。
[0021]
 野生型miR-132遺伝子には、例えば、配列番号1で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-132遺伝子が挙げられる。また、ヒト野生型miR-132遺伝子と同様の活性を有する他生物種由来の野生型miR-132オルソログ遺伝子も含まれる。具体的には、ヒト以外の哺乳動物由来の野生型miR-132オルソログ遺伝子、及び鳥類、爬虫類、又は両生類由来の野生型miR-132オルソログ遺伝子が該当する。miR-132遺伝子は、生物種間で極めて高度に保存されており、マウス、チャイニーズハムスター、及びピグミーチンパンジー等の多くの哺乳動物の野生型miR-132オルソログ遺伝子は、ヒト野生型miR-132遺伝子と100%の塩基同一性を有することが知られている。また、爬虫類であっても、例えば、配列番号2で示す塩基配列からなるグリーンアノール(Anolis carolinensis)の野生型miR-132オルソログ遺伝子のように、ヒト野生型miR-132遺伝子とは95%以上の高い塩基同一性を有している。
[0022]
 変異型miR-132遺伝子には、例えば、配列番号1で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-132遺伝子の変異型遺伝子が挙げられる。例えば、配列番号1で示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドや、配列番号1で示す塩基配列に対して95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、そして配列番号1で示す塩基配列からなるmiR-132遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるポリヌクレオチドを包含する。本明細書において「塩基同一性」とは、二つのポリヌクレオチドの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じて、いずれかの塩基配列にギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、一方のポリヌクレオチドの全塩基数に対する他方のポリヌクレオチドの同一塩基の割合(%)をいう。%同一性は、相同性検索プログラムBLAST(Basic local alignment search tool;Altschul, S. F. et al,J. Mol. Biol., 215, 403-410, 1990)検索等の公知のプログラムを用いて容易に決定できる。本明細書において「複数個の塩基」とは、2~60個、2~45個、2~30個、2~14個、2~10個、例えば、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個の塩基をいう。また、本明細書において「高ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない、高温かつ低塩濃度の条件をいう。例えば、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、60℃~68℃で1×SSC以下、好ましくは65℃~70℃で0.1×SSC以下の条件をいう。
[0023]
(2)miR-132
 「miR-132」は、前記miR-132遺伝子の転写産物であり、原則としてRNAで構成される。具体的には、配列番号3で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-132が挙げられる。その他、配列番号4で示す塩基配列からなるグリーンアノールの野生型miR-132のような他種miR-132オルソログ遺伝子の転写産物や変異型miR-132遺伝子の転写産物が挙げられる。
[0024]
 miR-132は、miRNAの1種である。miRNAは、細胞内に存在する長さ21~23塩基長の一本鎖ノンコーディングRNAで、標的遺伝子の翻訳を阻害することにより、標的遺伝子の発現を調節することが知られている。miRNAは、pri-miRNAと呼ばれる前駆体(前々駆体)状態でゲノムから転写された後、核内でDroshaと呼ばれるエンドヌクレアーゼによりpre-miRNAと呼ばれる前駆体にプロセシングされ、さらに核外でDicerと呼ばれるエンドヌクレアーゼの働きによって成熟体のmiRNAとなる(Bartel DP, 2004, Cell, 116:281-297)。本明細書におけるmiRNAは、miRNA前駆体及び成熟miRNAのいずれも包含する。転写産物であるmiR-132は、標的遺伝子に対する実質的な活性を有している。
[0025]
 miR-132の標的遺伝子は、未だ明らかではない。しかし、本明細書において、miR-132は、神経変性疾患の病原性遺伝子又はその産物を直接の標的とすることなく、シナプスの形成を増強し、より強固な神経回路網を構築することで、前記産物の毒性に対する耐性を強化することが明らかとなった。
[0026]
(3)miR-212遺伝子
 「miR-212遺伝子」は、miR-212をコードする遺伝子で、DNAで構成される。miR-212遺伝子は、ヒトゲノム上で、前記miR-132遺伝子と隣接して同一クラスターを構成し、miR-132遺伝子と同様の発現制御を受けていると考えられている(Wanet, A., et al, 2012, Nucleic Acids Res 40, 4742-4753)。また、miR-132遺伝子と同様に、幼児期の脳において発現が劇的に増加すること(Eda, A., et al., 2011, Gene 485, 46-52)や、両遺伝子間の塩基配列における塩基同一性も高いことから(ヒトmiR-132遺伝子とmiR-212遺伝子で82%)、両遺伝子は、遺伝子重複によって生じた同一機能を有するパラログと考えられている。
[0027]
 本発明のシナプス形成増強剤を構成するmiR-212遺伝子は、野生型miR-212をコードする野生型miR-212遺伝子、又は野生型miR-212と同等以上の活性を有する変異型miR-212をコードする変異型miR-212遺伝子を包含する。
[0028]
 野生型miR-212遺伝子には、例えば、配列番号5で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-212遺伝子が挙げられる。また、前記ヒト野生型miR-212遺伝子と同様の活性を有する他生物種由来のmiR-212オルソログ遺伝子も挙げられる。miR-212遺伝子の塩基配列もmiR-132遺伝子と同様に生物種間で高度に保存されている。例えば、マウス、ラット、オッポサム、ウマ等の哺乳動物の野生型miR-212オルソログ遺伝子は、ヒト野生型miR-212遺伝子と100%の塩基同一性を有する。
[0029]
 変異型miR-212遺伝子には、例えば、配列番号5で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-212遺伝子の変異型遺伝子が挙げられる。例えば、配列番号5で示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド、配列番号5で示す塩基配列に対して95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、配列番号5で示す塩基配列からなるmiR-212遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるポリヌクレオチドを包含する。
[0030]
(4)miR-212
 「miR-212」は、前記miR-212遺伝子の転写産物であり、原則としてRNAで構成される。具体的には、配列番号6で示す塩基配列からなるヒト野生型miR-212が挙げられる。その他、他種miR-212オルソログ遺伝子や変異型miR-212遺伝子の転写産物が挙げられる。miR-212も前記miR-132と同様に、miRNAの1種である。
[0031]
(5)発現ベクター
 本発明のシナプス形成増強剤において、前記miRNA遺伝子、すなわちmiR-132遺伝子及び/又はmiR-212遺伝子は、発現ベクターに発現可能な状態で包含されていてもよい。
[0032]
 「発現ベクター」とは、一般に、内部に含まれる目的の遺伝子を発現制御できるベクターをいう。「発現可能な状態」とは、所定条件下で目的の遺伝子が宿主細胞内で転写され得る状態をいう。例えば、プロモーターとターミネーターの制御下に目的の遺伝子を配置した状態が該当する。本明細書において、発現ベクターが包含する目的の遺伝子は、前記miR-132遺伝子及び/又はmiR-212遺伝子である。
[0033]
 発現ベクターは、遺伝子発現制御に必要な制御エレメントを必要に応じて含むことができる。制御エレメントには、前述の必須エレメントであるプロモーターとターミネーターの他、エンハンサやポリA付加シグナルが挙げられる。
[0034]
 プロモーターは、宿主細胞内で作動可能でなければならない。通常は、宿主生物種又はその近縁種由来のプロモーターが好ましい。例えば、宿主がヒトであれば、プロモーターは、ヒト由来であることが好ましい。プロモーターには、発現パターンに応じて、過剰発現型プロモーター、構成的プロモーター、部位特異的プロモーター、発生段階特異的プロモーター、又は誘導性プロモーター等が知られている。本発明のシナプス形成増強剤における発現ベクターには、いずれのプロモーターも使用することができる。ただし、部位特異的プロモーターであれば、シナプスを形成する細胞、例えば、神経細胞特異的プロモーターが好ましい。また、発生段階特異的プロモーターであれば、適用する宿主の発生段階に応じたプロモーターを使用する。
[0035]
 ターミネーターは、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であれば特に限定はしない。好ましくはプロモーターと同一生物種由来のターミネーターであり、より好ましくはプロモーターが由来する生物種のゲノム上で、そのプロモーターと組となっているターミネーターである。
[0036]
 発現ベクターは、必要に応じて、宿主細胞内に送達されたことを確認するための選抜又は標識マーカー遺伝子を含むこともできる。標識若しくは選抜マーカー遺伝子には、例えば、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、GUS、又はGFP)、又は酵素遺伝子が挙げられる。
[0037]
 発現用ベクターの種類は、本発明のシナプス形成増強剤を適用する宿主細胞内で複製及び発現が可能なプラスミド又はウイルスであれば、特に限定はしない。例えば、適用する宿主がヒトの場合には、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、センダイウイルス等のウイルスを使用することができる。この他、各ライフサイエンスメーカーから市販されている各種宿主用発現ベクターを利用することもできる。
[0038]
 発現カセットは、1つの発現ベクター内にmiRNA遺伝子を発現可能な状態で2つ以上含むこともできる。
[0039]
1-4.効果
 本発明のシナプス形成増強剤は、神経細胞に対して副作用がなく、破壊や解離によって消失したシナプスを再形成させることができる。したがって、シナプスの破壊や損傷を原因とする疾患において、脳神経の機能回復剤として機能し得る。
[0040]
2.神経変性疾患予防治療剤
2-1.概要
 本発明の第2の態様は、神経変性疾患予防治療剤である。本発明の神経変性疾患予防治療剤は、前記第1態様のシナプス形成増強剤を有効成分とし、生体に投与することで神経変性疾患を予防又は治療することができる。
[0041]
2-2.定義
 本発明の神経変性疾患予防治療剤は、神経変性疾患の予防及び治療用として適用される医薬組成物である。
[0042]
 本明細書において「予防」とは、疾患(本明細書では神経変性疾患)の発症を未然に防ぐことをいう。また、本明細書において「治療」とは、発症した疾患における症状の進行を緩和し、抑制し、又は阻止すること、及び症状を改善することをいう。
[0043]
 本明細書において「神経変性疾患」とは、中枢神経系の特定の神経細胞(ニューロン)内又はグリア細胞内に異常なタンパク質性の封入体が形成される結果、神経細胞が徐々に侵され、減退及び消失していく、進行性神経疾患をいう。
[0044]
 本発明の対象となる神経変性疾患には、例えば、大脳基底核に病変を有するハンチントン病(HD; Huntington disease)、大脳皮質基底核変性症(CBD; corticobasal degeneration)、進行性核上性麻痺(PSP; progressive supranuclea palsy)、及びパーキンソン病(Parkinson's disease)、大脳に病変を有するアルツハイマー病(AD; Alzheimer disease)、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症(ピック病;FTLD;Frontotemporal lobar degeneration)、小脳に病変を有する脊髄小脳変性症(SCD;Spinocerebellar Degeneration)、及び運動ニューロンに病変を有する筋委縮性側索硬化症(ALS;amyotrophic lateral sclerosis)が挙げられる。
[0045]
2-3.構成
2-3-1.有効成分
 本発明の神経変性疾患予防治療剤は、前記第1態様に記載のシナプス形成増強剤を有効成分として包含する。神経変性疾患予防治療剤は、前記シナプス形成増強剤を二以上含むことができる。
[0046]
 神経変性疾患予防治療剤に含まれる前記シナプス形成増強剤の量(含有量)は、シナプス形成増強剤の種類(DNAかRNAか、又はmiR-132かmiR-212か、若しくはその両方か)、神経変性疾患の種類、神経変性疾患予防治療剤の剤形、神経変性疾患予防治療剤の投与量、並びに後述する担体の種類によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。通常は、単回投与量の神経変性疾患予防治療剤に有効量のシナプス形成増強剤が包含されるように調整する。「有効量」とは、シナプス形成増強剤が有効成分としての機能を発揮する上で必要な量であって、かつそれを適用する生体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、投与経路、及び投与回数等の様々な条件によって変化し得る。最終的には医師、獣医師又は薬剤師等の判断によって決定される。
[0047]
 ここで「被験体」とは、神経変性疾患予防治療剤の適用対象となる生体をいう。例えば、ヒト、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ等)、競走馬、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル等)等が該当する。好ましくはヒトである。「被験体の情報」とは、神経変性疾患予防治療剤を適用する生体の様々な個体情報である。例えば、被験体がヒトであれば、年齢、体重、性別、食生活、健康状態、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無等を含む。
[0048]
2-3-2.担体
 本発明の神経変性疾患予防治療剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、溶媒、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。
[0049]
 溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
[0050]
 賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
[0051]
 結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組み合わせが挙げられる。
[0052]
 崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
[0053]
 充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
[0054]
 乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
[0055]
 流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
[0056]
 上記の他にも、必要であれば医薬において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
[0057]
 上記担体は、有効成分であるシナプス形成増強剤の生体内での酵素等による分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
[0058]
2-3-3.剤形
 本発明の神経変性疾患予防治療剤の剤形は、有効成分である第1態様に記載のシナプス形成増強剤を分解等により不活化させずに標的部位にまで送達し、生体内でその有効成分の薬理効果を発揮し得る形態であれば特に限定しない。
[0059]
 神経変性疾患予防治療剤の適用対象となる疾患は、後述する神経変性疾患である。神経変性疾患の原因となる部位は、神経細胞が存在する部位、すなわち主として中枢神経、特に脳である。したがって、神経変性疾患予防治療剤は、中枢神経、特に脳を標的部位として、その標的部位、より具体的には神経細胞にまで有効成分のシナプス形成増強剤を送達できればいかなる剤形であってもよい。
[0060]
 具体的な剤形は、投与方法及び/又は処方条件によって異なる。投与方法は、非経口投与と経口投与に大別することができるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。
[0061]
 投与方法が非経口投与であれば、好ましい剤形は、対象部位への直接投与又は循環系を介した全身投与が可能な液剤である。液剤の例としては、注射剤が挙げられる。注射剤は、前記賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
[0062]
 投与方法が経口投与であれば、好ましい剤形は、固形剤(錠剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、乳剤、シロップ剤を含む)が挙げられる。固形剤であれば、必要に応じて、当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠にすることができる。
[0063]
 なお、上記各剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の神経変性疾患予防治療剤の製造方法については、当該技術分野の常法に従って製剤化すればよい。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載された方法を参照することができる。
[0064]
2-3-4.投与方法
 本発明の神経変性疾患予防治療剤の投与方法は、前述のように非経口投与と経口投与に大別することができる。経口投与法は、一般に全身投与であるが、非経口投与法は、さらに局所投与と全身投与に細分できる。具体的には、例えば、脳内注射による局所投与、又は血管内注射のような循環器内投与による全身投与が挙げられる。
[0065]
 本発明の神経変性疾患予防治療剤の投与方法は、疾患の発症箇所又は進行度等に応じて適宜選択することができ、局所的投与又は全身投与のいずれであってもよい。有効成分であるシナプス形成増強剤は、神経細胞に対して作用する。また、後述する実施例で示すように、シナプス形成増強剤は、正常神経細胞に投与しても副作用を生じない。したがって、副作用による影響がないか又は極めて小さいことから疾患の発症箇所である脳に局所投与することができる。局所投与は、注射による投与が好ましい。全身投与には、例えば、血管内注射又は経口投与が採用できる。血管内注射は、血流を介してシナプス形成増強剤を全身に行き渡らせることが可能な点で便利である。ただし、この場合、ポリペプチドを構成成分とするシナプス形成増強剤が血液中で分解されず、かつ脳関門を通過して、標的細胞である脳神経細胞にまで送達される形態にすることが好ましい。例えば、神経細胞を標的とする1型、2型又は5型のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにmiR-132遺伝子又はmiR-212遺伝子を包含したシナプス形成増強剤であれば、AAV粒子により核酸分解を免れ、脳神経細胞にまで送達させることができる。
[0066]
2-4.適用対象疾患
 本発明の神経変性疾患予防治療剤の適用対象となる疾患は、前述の神経変性疾患である。また、神経変性疾患を原因とする認知症も対象疾患となり得る。
[0067]
 本明細書において「認知症」とは、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、パーキンソン病、又は前頭側頭葉変性症のような神経変性疾患により後天的の脳神経細胞に障害を生じた結果、生後一旦正常に発達した精神機能が低下し、日常生活や社会生活を営めない状態となる症状をいう。なお、脳血管性の認知症は、本明細書では対象としない。
[0068]
 いずれの疾患も重症度は問わないが、軽度、すなわち初期段階であるほど好ましく、神経変性疾患予防治療剤投与後の治療効果も期待できる。また、ハンチントン病のような遺伝性神経変性疾患であれば、血縁者に患者が存在する(した)者は、発症の有無を問わず、適用対象者となり得る。
[0069]
 神経変性疾患予防治療剤の有効成分であるシナプス形成増強剤は、生体に対して副作用をほとんど及ぼさない。したがって、本発明の神経変性疾患予防治療剤は、前記疾患に罹患していない健常者も適用対象者とすることができる。
[0070]
2-5.効果
 本発明の神経変性疾患予防治療剤は、神経変性疾患による運動機能障害や認知症の発症を予防し、またそれらの症状を緩和又は改善することができる。さらに、本発明の神経変性疾患予防治療剤は、神経変性疾患の原因となる病原性遺伝子やその産物を直接の標的とせず、シナプス形成の増強によって強固な神経回路網を構築することで病原性遺伝子産物の毒性に対する耐性を強化する。つまり、病原性遺伝子やその産物を処理することなく神経変性疾患を治療できることから、特定の神経変性疾患のみならず、シナプスの破壊や消失を伴う神経変性疾患に広く適用することができる。
実施例
[0071]
 以下、本発明について、具体例を挙げて説明する。ただし、以下の実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の各条件は、実施例に記載の条件等には限定はされない。各実施例における基本的な実験手法は、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法に従った。
[0072]
<実施例1:ハンチントン病モデルマウスの脳におけるmiR-132及びmiR-212の発現プロファイル>
(目的)
 本発明のシナプス形成増強剤を構成するmiR-132及びmiR-212に関して、正常マウスと神経変性疾患モデルマウスの脳の各領域における発現プロファイルを比較検証する。
[0073]
(方法)
 神経変性疾患のモデルマウスとして、ハンチントン病モデルマウスR6/2系統(Mangiarini, L., et al., 1996, Cell 87, 493-506)を使用した。R6/2マウスは、Jackson Laboratoryから入手し、Mangiariniら(1996;前述)に記載の方法で維持した。野生型ICR系統マウスは、日本クレア社から購入した。
[0074]
 生後2、7、14、21、28、35及び56日目の野生型マウス及びR6/2マウスについて、各4匹から脳を摘出し、5か所の脳小区域(大脳皮質、線条体、海馬、中脳、小脳)におけるmiR-132、miR-212、miR-16及びU6 snoRNAの発現レベルを調べた。
[0075]
 各脳小区域から総RNAをTRIzol(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、添付の説明書に従って調製した。続いて、調製した総RNAを鋳型にして、TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mixt(Thermo Fisher Scientific社)とTaqMan(登録商標)Micro RNA Assays(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、添付の説明書に従いAB7300 Real Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社)によりRT-リアルタイムPCRを行った。使用したTaqMan(登録商標)Micro RNA AssaysとそのアッセイID(カッコ内に記す)は次の通りである:;miR-16(000391)、hsa-miR132a(000457)、hsa-miR212(000515)、U6 snoRNA(001973)。分析は、U6 snoRNAの発現レベルを対照としたデルタCt法によって行った。野生型マウスの生後2日目のmiRNA発現レベルを1として標準化した。
[0076]
(結果)
 図1に結果を示す。本発明者らの以前の研究から、生後1か月以内の正常マウスでは、miR-132及びmiR-212の発現が脳の各小区域で劇的に増加し、その後も維持されることが明らかとなっている(Eda, A., et al., 2011, Gene 485, 46-52)。本実施例においても、その結果が再確認された。一方、R6/2マウスにおけるmiR-132及びmiR-212の発現は、生後直後に一旦劇的に増加したが、プラトーに達した後は、正常マウスのように、そのまま維持されることなく有意に減少した。陰性対照のmiR-16の発現は、野生型マウスとR6/2マウスとの間で有意な差異は認められなかった。
[0077]
 この結果は、ハンチントン病の病因がハンチンチンタンパク質の異常だけでなく、脳内のmiR-132及びmiR-212量の不足も関係していることを示唆している。
[0078]
<実施例2:ハンチントン病モデルマウスの脳におけるmiR-132の補償実験>
(目的)
 R6/2マウスにおいて、減少したmiR-132及び/又はmiR-212を補償することにより、ハンチントン病の症状が改善するか否かを検証する。
[0079]
(方法)
(1)miR-132発現ベクターの構築
 前述の各脳症域では、miR-132の発現量がmiR-212の発現量よりも顕著に多い(データ示さず)。そこで、本実施例では、miR-132を補償実験用に選択し、miR-132発現ベクターを構築した。
[0080]
(合成二本鎖オリゴDNAの構築)
 配列番号7及び8に示す塩基配列を有するオリゴDNAをSigma-Aldrich社で委託合成した。各1本鎖オリゴDNAを常法でアニーリングして、miR-132をコードする遺伝子を含む合成二本鎖オリゴDNAを調製した。
[0081]
(miR-132発現プラスミドの構築)
 前記miR-132をコードする合成二本鎖オリゴDNAを、BLOCK-iT TM PolII miR RNAi Expression Vector Kit with EmGFP(Thermo Fisher Scientific社)を用いてpcDNA TM 6.2-GW/EmGFP-miR発現ベクター内に添付の説明書に従って挿入し、得られた発現プラスミドを「pMiR-132」とした。pMiR-132は、GFPレポーター遺伝子の3’UTR内にmiR-132遺伝子を含む。また、前記pcDNA TM6.2-GW/EmGFP-miRに添付のpcDNA TM6.2-GW/EmGFP-miR-neg control plasmidを陰性対照用とし、これを「pMiR-Neg」とした。
[0082]
(miR-132発現ウイルスの構築)
 前記pMiR-132中のmiR-132遺伝子及びpMiR-Neg中のmiR-neg遺伝子を含むGFPレポーター遺伝子を、配列番号9及び10に示すプライマーペアによってPrimeSTAR HS DNA Polymerase with GC buffer(TAKARA BIO社)を用いてPCRで増幅した。増幅産物をアガロースゲル電気泳動で分離後、PCR & Gel purification kit(BEX)を用いて、添付の説明書に従って精製した。精製後の増幅産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA BIO社)を用いて、添付の説明書に従ってEcoRIとBamHIで処理したpW-CAG-eGFP-WPREに連結した。miR-132及びmiR-Negをそれぞれ包含するpW-CAG-eGFP-WPREをOkadaらの方法(Okada, T., et al., 2009, Hum Gene Ther 20, 1013-1021)に従って、組換え9型アデノ随伴ウイルス(rAAV-9)中にパッキングした。得られたmiR-132発現AAV9を「AAV9_miR-132」とし、またmiR-Neg発現AAV9を「AAV9_miR-Neg」とした。
[0083]
(2)各マウスへの発現ウイルスの導入
 3週齢の野生型マウスとR6/2マウスを50 mg/kg b.w.のソンノペンチル(somnopentyl)で麻酔し、2μLのAAV9_miR-132又はAAV9_miR-NegをHamilton Neuros Syringe(HAMILTON社)を用いて線条体の両側の定位的(=~1 mm anterior to bregma,=~2 mm lateral to the midline,=~3 mm ventral to the skull surface)に導入した。
[0084]
 その後、実施例1と同様の方法で、線条体におけるmiR-132の発現を調べた。
[0085]
(結果)
 図2に結果を示す。AAV9_miR-132を導入したR6/2マウス(HD)では、AAV9_miR-Negを導入したR6/2マウスと比較してmiR-132の発現量が統計学的に有意に増加し、AAV9_miR-Negを導入した野生型マウス(WT)と同程度以上に補償されることが示された。一方、AAV9_miR-132を導入した野生型マウスでは、miR-132の発現量が過剰状態となったが、個体において異常は認められず(データ示さず)、miR-132の過剰発現による神経細胞への副作用は、ほとんどないことが示された。
[0086]
<実施例3:運動機能テストの検証>
(目的)
 miR-132の補充によるR6/2マウスの運動機能の改善について検証する。
[0087]
(方法)
 野生型マウスとR6/2マウスへのAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negの導入方法は、実施例2の記載に準じた。運動機能テストには、マウスの運動機能テストで頻用される公知のロータロッドテスト(回転棒テスト:rotarod test)及びオープンフィールドテスト(open field test)を行った。
[0088]
(ロータロッドテスト)
 ロータロッドテストは、マウスの協調運動と平衡感覚を測定するためのテストである。本実施例で、ロータロッドテストは、ウイルスベクターを導入後8週間後の11週齢マウスにUgo Basile Rota-Rod 47600(Ugo Basile社)を用いて実施した。300秒間で4rpm~40rpmにロッドの回転が加速するように、前記装置をプログラムして、マウスを装置の回転棒に乗せてから、ロッドから落ちるまで、又はロッドと共に回転するまでの時間を記録した。14:00から19:00の間に、1日3回トライアルを行った。
[0089]
(オープンフィールドテスト)
 オープンフィールドテストは、マウスの情動性を測定するためのテストである。本実施例では、このテストを用いて、マウスの自発運動を調べた。40 cm×28 cm×31 cmのモニターボックス(SUPERMEX; Muromachi Kikai社)にマウスを1匹入れて、ボックス内のマウスの自発行動を15分間測定した。ボックスの頂部には、行動センサー(Pyroelectric sensor PYS-001; Muromachi Kikai社)が備えられており、このセンサーでマウスの行動をモニターした。テストは、14:00から19:00の間に行った。得られたデータは、Data Collection Program CompACT AMS Ver.3 (Muromachi Kikai社)で解析した。
[0090]
(結果)
 図3にロータロッドテストの結果を、また図4にオープンフィールドテストの結果を示す。劇症型ハンチントン病モデルマウスであるR6/2マウスは、重度の協調運動失調と自発運動の急激な減退を呈することが知られている(Carter, R.J., et al., 1999, J Neurosci 19, 3248-3257 ; Mangiarini, L., et al., 1996, Cell 87, 493-506)。図3及び図4に示すように、AAV9_miR-132を導入したR6/2マウスでは、協調運動及び自発運動が有意に改善した。これらの結果は、miR-132の補足により、ハンチントン病患者の運動機能を改善できること示唆している。
[0091]
<実施例4:生存テストの検証>
(目的)
 劇症型ハンチントン病モデルマウスであるR6/2マウスは、運動機能の著しい減退により短命で、通常120日程度しか生存できない。そこで、miR-132の補足によりR6/2マウスの寿命が延長するか否かを検証する。
[0092]
(方法)
 R6/2マウスと野生型マウスへのAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negの導入方法は、実施例2の記載に準じた。3週齢のR6/2マウス14匹にAV9_miR-132を、及び13匹にAAV9_miR-Negをそれぞれ導入し、また対照として野生型マウス14匹にAV9_miR-132を、及び16匹にAAV9_miR-Negを導入した。AAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negを投与したR6/2マウスが全て死亡するまで、約生後150日間給餌を行い、その間の各群における生存率をほぼ毎日算出した。生存テストには、Kaplan-Meier生存分析法を用いた。
[0093]
(結果)
 図5に結果を示す。R6/2マウスにAV9_miR-132を導入した場合、対照のAAV9_miR-Negと比較して、有意な寿命の延長が見られた。この結果は、miR-132の補足により、一般に寿命が短いとされるハンチントン病患者を延命できること示唆している。
[0094]
<実施例5:シナプス関連タンパク質の検証>
(目的)
 本発明のmiR-132の補足により、R6/2マウスの運動機能及び寿命が改善したことから、シナプス形成関連タンパク質のR6/2マウスにおける回復効果を検証する。
[0095]
(方法)
(1)マウスの初代神経培養細胞の調製
 ICR系統におけるE17胚の脳組織を単離し、0.1 mg/mL DNase I(Roche Diagnostics社)及び5 mg/mLのグルコースを含む0.5% トリプシン-EDTA溶液で、37℃にて20分間処理した。数回のピペッティングによって細胞を解離した後、70μmのナイロンフィルター(DB)に通した。解離した神経細胞をポリLリジン(Sigma-Aldrich社)で被覆した培養プレート上に4 × 10 3 cells/mm 2の細胞密度で播種し、1% FBS(Thermo Fisher Scientific社)、2% B27 supplement(Thermo Fisher Scientific社)、1mM グルタミン(Sigma-Aldrich社)、及び10μM 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich社)を添加したNeurobasal medium(Thermo Fisher Scientific社)で、5% CO 2下にて37℃で培養した。星状膠細胞の分離のため、培養1週間後の細胞をトリプシン処理し、通常の組織培養プレート上に4 × 10 3 cells/mm 2の細胞密度で播種し、副培養を行った。培養プレートには、10% FBS, 110 mg/L ピルビン酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific社)及び1×抗生物質(25 mg/L ストレプトマイシン及び50 U/mL ペニシリン;Wako社)を添加したDMEM(Thermo Fisher Scientific社)を入れた。細胞は、5% CO 2下にて37℃で培養し、植え継いだ。
[0096]
(2)トランフェクション
 初代神経培養細胞への発現プラスミドpMiR-132又はpMiR-Negのトランスフェクションは、Lipofectamine(登録商標)2000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、使用説明書に従って実施した。トランスフェクション前に、培地を血清フリーの培地(2% B27 supplement、1mM グルタミン、及び10μM 2-メルカプトエタノールを添加したNeurobasal medium)に置き換えて5% CO 2下にて37℃で2時間培養した。培養後、各発現プラスミドとLipofectamine 2000 mixturesを細胞に加え、トランスフェクションして4時間後に培地を新たに調製した新鮮な血清を包含する完全培地に置換した。
[0097]
(3)SDS-PAGE及びウェスタンブロッティング
 トランスフェクション後の培養細胞を1×プロテアーゼインヒビターカクテル(Protease Inhibitor Cocktail Tablets; Roche Diagnostics社)を含む溶解バッファー(20 mM Tris-HCl pH 7.5、150 mM NaCl、1 mM EGTA、1% Triton X-100)で溶解した。タンパク質濃度を、タンパク質定量キット(Protein Quantification kit;DOJINDO社)を用いて使用説明書に従って測定し、約20μgのタンパク質を4倍量のサンプルバッファ(0.25 M Tris-HCl、40% グリセロール、8% SDS、0.04% ブロモフェノールブルー、及び8% β-メルカプトエタノール)と混合して、5分間煮沸した後、10%ポリアクリルアミドゲルでSDS-PAGEによって分離した。分離後に、ゲルをPVDF(polyvinylidene fluoride)メンブレン(Immobilon P; Millipore社)に電気的にブロッティングした。ブロッティング後のメンブレンをブロッキング溶液(5% BSA (Sigma-Aldrich社)/ 0.1% Tween-20/TBS)で1時間処理し、後述の希釈1次抗体を加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、0.1% Tween-20/TBSでメンブレンを洗浄し、1/5000で希釈した西洋わさび(horseradish)ペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Sigma-Aldrich社)又はヤギ抗ウサギIgG抗体(Sigma-Aldrich社)と共に1時間室温でインキュベートした。反応後の抗原抗体複合体は、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Millipore社)を用いて視覚化した。
[0098]
 なお、シナプス形成関連タンパク質には、後シナプス密度95kDa(PSD95)、シナプシンI(SynI)、及び小胞性グルタミン輸送タンパク質1(vGluT1)を選択した(Candiracci C, Barbaresi P. et al., 2007, Neuroscience. 146(4): 1829-1840; Manca P., et al., 2014,Neuroscience, 266: 102-115)。前記希釈1次抗体及びその希釈率は、以下の通りである。抗PSD95抗体:1/1000希釈したマウスモノクローナル[6G6-1C9](Abcam社)、抗SynI抗体:1/1000希釈したウサギポリクロ―ナル抗体(Abcam社)、抗vGluT1抗体:1/1000希釈したマウスモノクローナル抗体[MAB5502](Millipore社)、抗シナプトフィジン(Syp)抗体:1/1000希釈したマウスモノクローナル抗体[SY38](Dako社)、抗αチューブリン抗体:1/10000希釈したマウスモノクローナル抗体(Sigma-Aldrich社)。Sypは、シナプス小胞膜タンパク質であり、神経細胞に発現し神経伝達に関与している。αチューブリンは、各試料の内部コントロールとして用いた。
[0099]
(結果)
 図6に結果を示す。R6/2マウスでは、vGluT1、SynI、及びPSD95が野生型マウスのそれと比較して顕著に減少している。しかし、AAV9_miR-132を導入したR6/2マウス(HD_miR-132)では、それらのタンパク質が野生型マウスとほぼ同レベルにまで回復した。この結果は、本発明のmiR-132の補足によりハンチントン病患者におけるシナプス形成の異常を改善し得ることを示唆している。
[0100]
<実施例6:シナプス形成の検証>
(目的)
 ハンチンチン(以下「HTT」と表記する)は、ハンチントン病の原因タンパク質であり、HTT遺伝子中のCAG繰り返し配列が正常HTT遺伝子よりも長くなった異常型HTT遺伝子産物の細胞内蓄積によって引き起こされる。野生型HTT及び異常型HTTの発現プラスミドを、miR-132又はmiR-Negの発現プラスミドと共に初代神経培養細胞に導入したときに、異常型HTTによって引き起こされるシナプス形成の阻害を、共発現したmiR-132により抑制できるか否かをin vitroで検証する。
[0101]
(方法)
(1)ハンチンチン発現プラスミドの構築
 HTT発現プラスミドは、Wanzhaoらが構築したプラスミドpEGFP-Q22及びpEGFP-Q145を用いた(Wanzhao L., et al., 2003, Proc Japan Acad 79, 293-229/298)。pEGFP-Q22、及びpEGFP-Q145は、22回の正常なCAG繰り返し配列、及び145回の異常なCAG繰り返し配列をそれぞれ含むHTT遺伝子の第1エクソンをEGFPレポーター遺伝子に連結した融合遺伝子である。前記各プラスミドから、新たにpDsRed-Q-Wt及びpDsRed-Q-Mtを構築した。pDsRed-Q-Wt、及びpDsRed-Q-Mtは、配列番号11及び12に示すプライマーペアを用いてHTT遺伝子の第1エクソン領域をPCRで増幅し、その増幅産物をpDsRed-monomer vector(TAKARA BIO社)に由来するDsRed-monomer遺伝子に連結した融合遺伝子である。
[0102]
(2)マウスの初代神経培養細胞の調製
 実施例5に記載の方法に準じた。マウスには、野生型のICR系統を使用した。
[0103]
(3)トランフェクション
 pMiR-132及びpMiR-Negと共に、pEGFP-Q22又はpEGFP-Q145を導入した。トランスフェクションの方法は、実施例5に記載の方法に準じた。
[0104]
(4)免疫細胞化学的染色
 トランスフェクションの2日後に、細胞をPBSバッファーで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSで固定した後、0.2% Triton-X/PBSで室温にて5分間透過処理した後、ブロッキング溶液(5% BSA (Sigma-Aldrich社)/5% ヤギ血清(Cell signaling technology社))で室温にて1時間インキュベートした。処理後の細胞におけるシナプスの形成は、抗SynI抗体を用いて検出した。後述の希釈1次抗体を加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、抗原抗体複合体をAlexa-488又はAlexa-594(いずれもMolecular Probes社)で標識したアイソタイプ特異的な2次抗体で視覚化した。また、2μg/mLの Hoechst33342(Cell signaling Technology社)/PBS又は2μg/mLのpropidium iodide(PI)(Thermo Fisher Scientific社)/PBSで核染色を行った。ZEISS社蛍光顕微鏡(Axiovert 40 CFL)を用いて染色後の細胞を観察した。
[0105]
 なお、前記希釈1次抗体及びその希釈率として、抗SynI抗体は1/1000希釈したウサギポリクロ―ナル抗体(Abcam社)を、抗HTT抗体は、1/200希釈したマウスモノクローナル抗体[MAB5374](Millipore社)を、抗GFP抗体は、1/500希釈したウサギポリクロ―ナル抗体[A11122](Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
[0106]
 HTT遺伝子を発現している10個のGFP陽性神経突起(neurite)を任意に選択し、10 μmあたりの神経突起上にあるSynI陽性シナプス棘(spine)数をカウントした。
[0107]
(結果)
 図7に結果を示す。神経突起上にあるSynI陽性シナプス棘数は、変異型HTTを発現するpEGFP-Q145と陰性対照用miRNAであるpMiR-Negを導入した細胞では、正常型HTTを発現するpEGFP-Q22とpMiR-Negを導入した細胞と比較して有意に減少したが、pEGFP-Q145とpMiR-132を導入した細胞では、変異型HTT発現下であるにもかかわらず、pEGFP-Q22とpMiR-132を導入した細胞と比較して有意な減少は見られなかった。この結果は、miR-132を補足すれば、変異型HTTによるシナプス形成の阻害を回避できることを強く示唆している。
[0108]
<実施例7:miR-132による変異型HTTの発現抑制の検証>
(目的)
 ハンチントン病は、異常型HTT封入体が神経細胞内に蓄積される結果、引き起こされる。miR-132による異常型HTT存在下でのシナプス形成阻害の抑制がmiR-132による異常型HTTの発現抑制によるものか否かを検証する。
[0109]
(方法)
 免疫組織化学によりハンチントンモデルマウスの脳神経細胞内に蓄積された変異型HTT封入体を検出した。実施例2と同様の方法によりR6/2マウスにAAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negを投与した。投与4週目に解剖によりマウスから脳を摘出し、4% PFA/PBSで4℃にて一晩固定した。次に、20% sucrose/PBSに浸漬した後、4℃にて再び一晩インキュベートした。その後、ドライアイス/エタノール槽内のO.C.T.コンパウンド(Sakura Finetech社)に脳標本を凍結包理し、矢状断面に切断して、15μm厚の低温切開片を作製した。続いて、低温切開片をブロッキング/透過バッファー(0.3% Triton X-100/5% ヤギ血清/PBS)で30分間室温にて処理し、0.1% Triton X-100及び5% ヤギ血清を含むPBSに希釈1次抗体を加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、切片をAlexa-488又はAlexa-594(いずれもMolecular Probes社)で標識したアイソタイプ特異的な2次抗体と共にインキュベートし、Leica共焦点蛍光顕微鏡(Leica社 TCS SP2)を用いて観察した。核は、2μg/mLの Hoechst33342(Cell signaling Technology社)/PBSで染色した。なお、前記希釈1次抗体及びその希釈率として、抗HTT抗体は、1/200希釈したマウスモノクローナル抗体[MAB5374](Millipore社)を、抗GFP抗体は、1/500希釈したウサギポリクロ―ナル抗体[A11122](Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
[0110]
(結果)
 図8に結果を示す。Aは、R6/2マウスにおける脳の免疫組織化学の結果を示す図である。図中、矢印は、GFP陽性細胞で観察された封入体を示す。Bは、マウスあたりの異なる3視野(247μm × 247μm/視野)における封入体を包含するGFP陽性細胞の数を示す。
[0111]
 AAV9_miR-132又はAAV9_miR-NegR6/2を投与したマウスの神経細胞間で封入体の数に有意な差は認められなかった。
[0112]
 また、RT-PCRにより、AAV9_miR-132又はAAV9_miR-Negで処理したR6/2マウスにおける変異型HTT導入遺伝子の発現レベルを確認したが、同様に変化は見られなかった(図9)。これらの結果は、miR-132が、変異型HTTの発現やその封入体の形成の抑制に、ほとんど影響していないこと示唆している。これは、異常型HTTの封入体が神経細胞内に蓄積されたままであるにもかかわらず、ハンチントン病の症状が改善していることを意味する。つまり、miR-132は、変異型HTTのような異常タンパク質等が神経細胞に蓄積しても、疾患の直接の原因である異常タンパク質を標的とすることなく、シナプス形成の増強によって十分な神経回路網を形成し、より強固な脳を構築することで、毒性に対する耐性を増強していると考えられる。それ故に、miR-132/miR-212は、ハンチントン病のみならず、シナプスが破壊され、消失するアルツハイマー病のような他の神経変性疾患の予防や改善にも効果があることを示唆している。
[0113]
 上記実施例3~6の結果をまとめると、miR-132の補足は、ハンチントン病モデルマウスの脳におけるシナプス形成を増強し、脳を形態面で正常な状態に回復させ、それによって、ハンチントン病モデルマウスにおける運動機能や寿命を改善することを強く示唆している。
[0114]
<実施例8:脊髄小脳変性症モデルマウスの小脳におけるmiR-132の発現プロファイル>
(目的)
  実施例1~7ではハンチントン病におけるの脳の各領域におけるmiR-132発現量が減少を確認し、またmiR-132量の補足により疾患が改善することを確認した。本実施例では、ハンチントン病以外の神経変性疾患においても脳におけるmiR-132発現量が減少していることを確認するため、正常マウスと脊髄小脳変性症モデルマウスの発現プロファイルを比較検証する。
[0115]
(方法)
 脊髄小脳変性症のモデルマウスとして、常染色体優性変異性脊髄小脳変性症1型(SCA1;Spinocerebellar Ataxia Type 1)モデルマウスSca1 154Q/2Q系統(The Jackson Laboratory)を使用した。野生型系統マウスは、同腹の正常マウスを使用した。
[0116]
 生後16~25週の野生型マウス2匹及びSca1 154Q/2Qマウス3匹から脳を摘出し、SCA1において最も顕著な症状が見られる小脳のmiR-132の発現レベルを調べた。具体的な方法は、実施例1に記載の方法に準じた。
[0117]
(結果)
 図10に小脳におけるmiR-132の発現レベルの結果を示す。SCA1モデルマウスでも小脳内でのmiR-132の発現レベルは、ハンチントン病と同様に野生型マウスと比較して有意な差異が認められた。
[0118]
<実施例9:脊髄小脳変性症モデルマウスの他の脳領域におけるmiR-132の発現プロファイル>
(目的)
 実施例8ではSCA1モデルマウスの小脳におけるmiR-132発現量の減少を確認した。本実施例では、SCA1の他の脳領域におけるmiR-132の発現プロファイルについて検証する。
[0119]
(方法)
 生後12週の野生型マウス6匹及びSca1 154Q/2Qマウス4匹から脳を摘出し、大脳皮質、中脳、及び線条体におけるmiR-132の発現レベルを調べた。基本的な方法は、実施例1及び8に準じた。
[0120]
(結果)
 図11に上記各脳領域におけるmiR-132の発現レベルの結果を示す。SCA1モデルマウスでは小脳内以外の脳領域でもmiR-132の発現レベルが野生型マウスと比較して有意に低減していることが確認された。
[0121]
 実施例8及び9の結果は、脳内のmiR-132量の不足は、ハンチントン病のみならず、脊髄小脳変性症のような他の神経変性疾患においても共通し得ることを示唆している。また、これは同時に、ハンチントン病の結果と同様、脊髄小脳変性症等の他の神経変性疾患においても神経細胞内におけるmiR-132量を補足するによりその患者における異常を改善し得る蓋然性があることを示唆している。
[0122]
 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

請求の範囲

[請求項1]
 以下の(a)~(c)に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド又はその転写産物からなるシナプス形成増強剤。
 (a)配列番号1又は5で示す塩基配列、
 (b)配列番号1又は5で示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列、又は
 (c)配列番号1又は5で示す塩基配列に対して95%以上の塩基同一性を有する塩基配列
[請求項2]
 前記ポリヌクレオチドが発現ベクターに発現可能な状態で包含されている、請求項1に記載のシナプス形成増強剤。
[請求項3]
 請求項1又は2に記載のシナプス形成増強剤を有効成分として含む神経変性疾患予防治療剤。
[請求項4]
 前記神経変性疾患がハンチントン病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、又は筋委縮性側索硬化症である、請求項3に記載の神経変性疾患治療剤。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]

[ 図 11]